この作品はいかがでしたか?
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桂秀星の次は分析官であるエルミナ・ルージュに話を聞きに行っていた。
「前任の監視官……? ああそりゃ忘れられる訳ないわ……標本事件は」
「殺害して解体した死体を特殊な薬剤でプラスティネーション加工し、公衆に晒した連続猟奇殺人事件ですよね」
「あら、よく知ってるわね鮮花ちゃん。そ、死体の損壊・加工の仕方や展示の舞台設定には、歪んだユーモアやメッセージ性が垣間見える」
「けど、犯人は捕まっておらず、別件で捜索願の出ていた作柄丘学園の元教員である川添美鈴が情況証拠から犯人と推定されたが、行方不明」
「そのくらいしか情報はないわね」
「そうですか……ありがとうございます」
エルミナの話が終わると、鮮花の端末に秘密暗号データが送られてくる。ちょうど業務時間も終わり、解散となった。
鮮花は個室トイレで暗号を解読する。それはとても高度なもので、専門の知識が複数の分野に渡って必要なものだった。
「わっかんね、適当に打つか」
カタカタタターン! と端末をタップすると暗号が解き明かされてメッセージがが開放される。それは短い文章だった。
『作柄丘学園の髑髏撫子が標本事件を起こす。君はどうする?』
発信元を逆探知するが、当然ながら失敗元に終わる。
鮮花はこれに対して、どうするか迷う。普通ならば上司に当たる雛森茜監視官に情報を渡すところだが、これを送った人物は『誘い』に対して千束が面白い反応を返すことを期待している。
「面白い、乗ってやろうじゃん。取り敢えずルイに、いつもの体調不調っと連絡して」
相棒のルイにだけわかる『緊急事態に付き単独行動』をする旨を報告する。相棒となって長い付き合いだ。鮮花のスタントプレーのフォローはフキが息をするようにできる。
そして、鮮花は髑髏撫子に関することをする調べて、ネットの情報から人物像と評判、そして容姿を確認する。
それはいつもの方法なのだが、鮮花が要求するレベルの情報が得られなかった。
「んー、ガードが硬いなぁ。学園のセキリティのせい? じゃあ先にこっちをすり抜けて、ウィルスを仕込んで、個人情報を検索。髑髏撫子の端末を感染させて、メッセージのやり取りを中心に開示っと」
カタカタタターン! と鮮花の生体認証で使用可能なシュビラシステムの最優先リソース稼働領域を動員して軍事施設並みのセキリティを誇る作柄丘学園を突破する。更にそこから監視カメラ、サーバーをウィルスで汚染し、作柄丘学園の全情報を手に入れる。
そこから、髑髏撫子の個人端末を覗き見る。
「んー、連絡相手はほぼ同じ学園の女学生か。哲学者や色んな作品を幅広く、そして理解している。そして趣向して残酷なものが好き、ねぇ」
調べると、死体では残酷がモチーフのアート作品が上がってくる。美術部では、そういったものを特技、いや、認められたいと周囲に無言の宣伝していたようだ。
そしてモチーフになるのは決まって、連絡を密にしている女子生徒だ。
「貞淑さと気品、失われた伝統の美徳。それが作柄丘学園の掲げる教育の理念。男子には求められない、女子だけに付加されるプライオリティ。それを刻みつけられた後で私たちは深窓の令嬢というブランド品として出荷され、そして良妻賢母というクラシックな家具を求める殿方に購入される。結婚という体裁で、この学校にいる生徒は誰もが、淑女という工芸品に加工されるための素材であり、磨き上げられ完成されるのを待つ原石。悲しく、そして退屈な命ですわ。他に花開くはずの可能性はいくらだってあるのに」
のメンタルトレースをすることで、アート作品を書き上げた時の髑髏撫子の心を解明し、言語化する。
「王髑髏撫子は作柄丘学園の生徒。高名な画家を亡父に持つ美術部の部長。人望が厚く品行方正で才色兼備。全寮制の女子高においてこれが何を意味するのか。考えつくのは『立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花』……高嶺の花、ね」
そして、直感する。
これは、メッセージの送り主は髑髏撫子を支援しているも失望している。
髑髏撫子は子供だ。
それも、年相応の子供。
社交的で、高嶺の花で、周りには取り巻き連れて、美しいと思った女子生徒と並行して交際関係を持つ。そしてニューストレス欠乏症というストレスがないことで生命活動が低下する病気になる前の、残酷だが、それを直視することでこそ人間の善性を保つことができる。そんな人格者だった父親を尊敬し、今も脳死状態であるが、生きて治療されている病院に通っている。
環境と自分自身との両方にフラストレーションを抱え、それをアートの模倣という方法で発散する典型的な拗らせ思春期の女子生徒だ。
学園とその背後にある傲慢で身勝手なイデオロギーから解放される自分を学友(の死体)に投影し、尊敬する父の模倣的な手段で「淑女」という工芸品ではない別の作品へ作り変えて人に見てもらうことで満足しているのが髑髏撫子だ。
やろうしている手段や伝手の大きささえ除けばその辺の子供と本質的に何ら変わりない。
ただ環境がいけなかった。
窮屈な学園。
パノプティコンシステムに殺された天才画家の父親。
それと鬱憤を持つ持つものに手段を与える黒幕。もちろん彼女自身の知能や美貌も手伝っただろうが,それらは決して常軌を逸するほどのものではなかった。
作品の展示場所に人目の多い所ばかり選ぶ傾向のある彼女は、実際に殺人を行って人間標本アート作品を作っても自己顕示欲を満たすことに終始する成長のないガキだとして黒幕は見限ったわけである。
では、黒幕の目的は何だ?
何故、私にメッセージを寄越した?
「んー、わかんにゃいなぁ。仕方ねぇなぁ! 乗り込むか!」
鮮花は自身に学園生徒のホログラフを被せて、そしてパノプティコンシステムの上位権限により鮮花が都合よく動けるように空いたセキリティホールを通って私立作柄丘学園へ潜入する。
「パノプティコンシステム、髑髏撫子を検索。ルートを表示」
『王陵璃華子・私立作柄丘学園の美術室です。ナビゲートを開始します。犯罪係数423・携帯型心理診断鎮圧執行システム・ドミネーター。デストロイ・エリミネーターによる排除を推奨』
「黒幕は髑髏撫子を餌に、黒い鳥である私を連れ出した。私が黒い鳥と呼ばれているのは周知の事実だけど、だからって個人端末に挑戦的なメッセージを送るのはどんな意図があるか」
美術室までつくと、右手にサイレンサー付きの拳銃、両足のサイドに仕込みナイフをセット、左手にドミネーターを持って、扉を足で開けて中の男性の先生と女子生徒に銃口を向ける。
「動くと撃つよ。髑髏撫子は確殺できる。男の先生は、ちょっと、お話しようか。動かなければ、命の保証はすると約束するから」
黒髪の美しい少女は両手を上げて動きを止める。男性の先生も無言で両手を見せる。
「メッセージを送ったのは髑髏撫子ではなく、先生だね。黒幕っぽいし余裕な感じがそれっポイ」
「酷い理由だ。本当は何故わかったのかな?」
「髑髏撫子のやることはストレスの発散と自己顕示欲を満たすだけ。手段こそ残酷で猟奇的だけど、別に普通のストレス負荷のかかった人なんだよね。逆に先生は、どんな状況でもクリアカラーを維持する免罪体質者だったりするんじゃないですか〜?」
「鋭い指摘だ。それに、行動力や知識も驚きだ。メッセージを送ってからまだ四時間も経っていない。それに免罪体質という言葉も初耳だ。それは僕以外にもクリアカラーを維持する人間はいるということか」
「私もね。楽しくても辛くても悲しくても苦しくても気持ち良くても出力される数値はゼロ。測定不可ではなく、ゼロ。感じていると錯覚しているだけで、脳は常に冷静で動かない」
「なるほど、興味深い。しかし、髑髏撫子さん美人だね。すっごい好み。黒髪ロングに弱い鮮花さんなんだよね。先生的には私に殺させるつもりかもだけどそんなことはしませーん。むしろ勧誘しちゃいます! You 執行官やってみない?」
鮮花は悪魔のように笑った。
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