テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
399
141
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……ん……」
ゆっくりと目を開ける。
見慣れない天井――
ではなく、もう見慣れ始めた天井。
「……」
少しだけぼんやりしたまま、手を持ち上げる。
「……?」
その向こうに――
ほんの一瞬だけ、光が透けた気がした。
「……」
次の瞬間には、何事もなかったように元通り。
しばらくその手を見つめて――
そっと、握る。
「……まだ……大丈夫……」
小さく呟いて、布団から身体を起こした。
⸻
リビング。
「おはようございます」
「おはよう、こはるちゃん」
母親がやわらかく笑う。
「よく眠れた?」
「はい、とても」
自然に交わされる会話。
もうすっかり、ここが“居場所”になっていた。
そして……
テーブルの奥
「……」
大きな影。
無口で、鋭い目つきの男の人が新聞を読んでいた。
新聞を下におろし、こはるに目を向けると……
「……月城さん。体調は大丈夫か」
少し低い声。
「ありがとうございます。ご心配をおかけしてしまって……」
ぺこりと頭を下げるこはる。
「……そうか」
短く、それだけ。
――のはずだった。
「あ、お父さん」
お父さんと呼ばれた男性が再びこはるに視線を向ける。
「……?」
「わたしのこと……こはるって呼んでくれませんか?」
一瞬、空気が止まる。
「いや……月城さ……」
言いかけて、止まる。
「こはる………」
自分の名前を呼び、じっと父親を見つめるこはる。
「……こはる」
「はい♪」
嬉しそうに笑うこはる。
横で見ていた雪斗と母親が、ぽかんとする。
⸻
「すげーな……初対面の父さんにあそこまでいける人、初めて見た」
「パッと見るでみんな怖がるのにね(笑)」
「そうですか?」
こはるは首をかしげる。
「そんなことないですよ」
少しだけ笑って――
「とっても優しい顔、してますから」
「……」
父親は何も言わなかったが、
新聞を持つ手が、少しだけ止まっていた。
⸻
「こはるちゃん、大丈夫?休んででもいいのよ?」
「いえ、お邪魔している以上は私もやれることはやりたいので。」
こはるの返事に少しだけ笑う母親。
「そう、それじゃ……お願いしようかしら」
「はい!」
こはるの家に続き、雪斗の家でも大掃除が始まった。
各々最初に手をつけるところが決まっているのだろう。雪斗は自分の部屋を。母親は台所を。父親はトイレと風呂場の掃除を開始していた。
こはるも自分が寝かせてもらっている客室を………
布団を干し、掃除機をかけ、雑巾で窓を拭く。
基本的に汚れてもいなく、元から綺麗だったこともあり、掃除が終わるのにあまり時間は掛からなかった。
「客室おわりました!」
と言いながら、リビングへと戻るこはる。
「あら、早いわね!」
台所から顔を覗かせる母親。
「それじゃ、次はリビングをお願いしようかしら。」
「任せてください!」
そう言って、フキンで隅々まで拭き始めるこはる。
そして………棚の前で、こはるの手がとまった。
そこには――
小さな写真立て。
「……」
はるの写真。
その時、すっと雪斗が階段から降りてきた。
「……あー、そこはいいよ」
雪斗が言う。
「……俺がやる」
「え……?」
その声に母親が、驚いたように顔を覗かせた。
「わ、わかりました」
少しだけ目を細める母親。
「……雪斗が?」
「……たまにはやらないと」
ぶっきらぼうに答える雪斗。
フキンを雪斗に渡し、新しいものを貰おうと母親の元に行くと……
「今まで……絶対触ろうともしなかったのに……」
そう呟き、母親にこはるは首を傾げる。
「思い出すから嫌だって……はるちゃんの写真を触ることも、それこそ見ることも……ほとんどなかったの」
「そうなんですか……」
「……こはるちゃんが来るようになってからくらいからね」
「写真をよく見るようになったのよ」
「……そうなんですか」
こはるは、静かに写真の棚を掃除している雪斗を見る。
そして――
やわらかく微笑んだ。
「……きっと」
少しだけ、目を細める。
「……喜んでますよ」
⸻
お昼過ぎ。
ソファで、こはるが眠っている。
すぅ、と静かな寝息。
「……」
(体調がまだ万全じゃないのに無理するから……)
そう思いながら、雪斗が持ってきた毛布をかける。
その時――
「……まだ…あそびたい………」
小さな声。
「……もっとなでて……」
「……」
雪斗の手が、一瞬止まる。
何も言わず、そっと頭を撫でた。
⸻
夜
リビングには父親と母親の2人。
「……どうぞ」
そっとお茶を差し出す母親。
出されたお茶を一口飲む。
「……いい子だな」
ぽつりと父が言う。
「ほんとにね」
母親が笑う。
少しだけ間があって――
「娘がいたら……あんな感じなんだろうな……」
「ふふっ……」
母親はやわらかく笑う。
「それは……あの子たち次第ね」
⸻
買い物をして
ご飯を作って
テレビを見て
数日間が……あっという間に過ぎていった。
まるで最初から家族だったみたいに。
笑い合いながら……
⸻
12月31日 23:00
初詣に行く準備をし、雪斗を待っているこはる。
「……気をつけて行きなさい」
テーブルに座った父親が、新聞を読みながら言う。
「……」
こはるは、父親の前に……
「……お父さん」
「……」
「ありがとうございます」
少しだけ笑って、
「転ばないように、気をつけます」
そして台所から……
「まだ雪も残ってるし、寒いから。ちゃんと暖かくして行くのよ?」
母親が顔を覗かせて言う。
こはるは母親の方に向き直し、
「……おかあさん」
「ありがとうございます」
やわらかく、微笑む。
「大丈夫。もう十分……暖かいです」
そう言いながら自分の胸に手を当てるこはる。
「……そう」
母親は、少しだけ嬉しそうに目を細めた。
ドタドタと足音が聞こえる。
「悪い待たせた……行こうか」
「はい!」
扉を開ける。
冷たい空気。
白い息。
雪の匂い。
一歩、外へ踏み出す。
ゆっくりと……
玄関の扉が閉まる。
チリーン――
小さな音が、静かに残った。