以下は会話である。「まずあなたたちはどこで目が覚めましたか」
「知らない路地です。本当に突然で。」
「天界人だった頃の記憶はありますか」
「あります。どっちもあるはずです」
「なるほど。ん、言い忘れてたんですけどこれは公にするようなことでは無いので安心してください。単なる好奇心で質問していると思ってください。」
「ところでディアさんという呼び方、なにか引っかかりますね。なぜそのような小さな子供をさん付けで呼ぶのですか。」
「天界にいた時は上司だったからです。」
「ほう、天界にも上下関係はあるのですね。面白い。」
「ではそちらの…ディア?にお話を聞きましょう。」
「なんでも言ってみろ。」
「下界におりてから幼児化以外になにか体の変化は無いですか。」
「うん…能力が衰退した。」
「ん、そうですか。」
「今身体的な痛みなどは見られますか。」
「いや、それは特にない。」
「うん…」
ーーーー
ひとつため息をついてバルドは話し始める。
「良くも躊躇いなく初めて会った人に話せますね、信用も何も持てない誰かわからない人間に。」
「データの採集としてはもってこいのあなたたちですけど、言えないことは言わなくていいですからね。」
彼なりの優しさなのか、皮肉混じりに言う。
そっちもそっちで結構すごいこと言うと思うけどな…
「ん、まあいいでしょう。これからは身体の様子を調べたいと思います。」
「あなたたちにもなにか霊力を使った技があるはずでしょう、少し場所を移して実験します。着いてきてください。」
208を出て、大きなホールへ来た。そこには倉庫がいくつか併設してある。
そこの中にバルドは入ったかと思えば、ゴソゴソとなにかを探している。
「どれがいいかな…これはもったいないけど…」
しばらくすると出てきた。手には大きな瓶2つを持っている。
その瓶の中にはくるくると蠢く何かがあった。それは生きていて、まるで負の塊のようなものだった。
バルドはそれをホールの床に置いた。
それからこう言った。
「今からそれぞれ、どんな方法を使っても構わないのでこれを壊してください。ん、中身は気にしないでください。ただの実験の副産物にすぎません。」
「あなたがたには霊力もあるでしょう。」
「何か異常があったら言ってください。対処します。」
横を見るとディアさんは霊力でできた杖を取り出した。
「壊せばいいのか!よぉしそれなら…っとう!」
ディアさんは杖をかざす。
パリン。
なにかの結晶が割れるような音を立ててディアさんはそれを壊した。
「なるほど。頭の星飾りが影響しているのでしょうか…」
星飾りを触りながらディアさんは言う。
「この飾りだけは命にも替えられないからな…さ、次は翠、お前だ」
懐から一丁のピストルを取り出す。
これは俺の霊力を載せて強化した特殊な銃である。
下から銃を構える。目標をしっかり見て風を込めた弾を打つ。
バンッ。
瓶は砕けた。大成功だ。
「うん。いいでしょう。」
バルドはボードにメモした。
「これでも衰弱しているんですよね?」
腕を鳴らしながらディアさんはまあ、と答えた。
「それでもこれくらい簡単だったでしょうか。」
「余裕だ。」「はい。」
「ではもう少し強い個体を持ってきましょう。少々お待ちください。」
そう言ってまた倉庫の中へと消えていった。
そして次は首輪をつけた生き物を引きずってきた。
「何だ…これ…?」
しかしバルドは再び同じことを言う。
「ん、これも実験の副産物です。あまり気にしないで頂きたい。」
「さあ次はこれを2人で倒してください。」
その生き物はうゅ、うゅと意味のわからない言葉をずっと話している。
水のような、でも液体では無いような様子の生物を目の前にしてなんとも言えない気持ちになった。
「ぁ…いぉ…」
何か言っている。そしてジリジリとこちらに寄ってくる。
「何ボーッとしてるんだ、撃て。」
はっ、そうだと我に返った俺は撃った。霊力を込めることは同時に体力の消費もある。でもこれくらい…
バンッ。
急所であろう頭を撃ち抜くと、その生物は水が蒸発するように溶けて行った。
パチパチパチパチ。
やる気のなさそうな拍手が聞こえる。
「お見事。なんなら行ける所まで倒してみましょうか。」
「それは楽しそうだ。どうだ、翠。」
そうですね、と言おうとした時。
ドォン。
外で大きな音がした。
「――緊急、緊急。研究エリア8で異形化天界人確認。開眼研究員は直ちに処理に向かってください。推定レベルi。繰り返します――」
「はあ?!」
バルドはやる気のなさそうな目からいらだちが見えた。
「せっかく実験してるのにもう…」
「何があったんだ」
ディアさんと俺は今起きている状況に置いていかれている。
「天界人が降りてきたんだよ!!…ん?待てよ…」
バルドは1人で考えに戻る。
「そうだ!君たち倒してみない?天界人をさ!」
俺たちが天界人を…?
「ん、早くして!行かないなら行かないでいいから」
「我は行く。」
ディアさんはいつだって判断が早い。
「お…俺も行く!」
たどたどしくなったが俺は行くことにした。
「行くんだね?じゃあ早くついてきて!」
ホールを抜け出して、俺たちは外へと出た。
4話終わり
霊力=天界人の持っている力の源。
やっとバトルっぽくなりました
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!