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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ドルマンさんに依頼した武器が完成するまで訓練を繰り返していましたが、今日は少しだけ趣向を変えてみます。
そう思って私は真昼の訓練場に顔を出しました。私が訓練をするのは夕方か夜なので不思議そうにしている人も居ますね。
「なんだ、シャーリィ。何か用事か?」
休憩していたルイが声をかけてきます。よし、彼方から来ましたね。
「何って、訓練に参加するために来たんですよ?」
「お前が?」
ルイは不思議そうな顔をしていますね。まあ、無理もありません。私が訓練を受けていることを知らない人は少なくないのです。もちろんルイもその一人。
理由ですか?面白そうだから秘密にしているだけです。
「セレスティン、預かっててください」
「御意」
私はルミのケープをセレスティンに預けて、木刀を手に取ります。
「ルイ、勝負しましょう」
「いやいや、止めとけって。怪我するぞ?シャーリィ」
「怪我をさせてみてはどうですか?」
「馬鹿、お前に怪我させる趣味なんかねぇよ」
「では一方的に叩いて良いですね?」
「んな訳あるか!ったく、しょうがねぇなぁ」
ルイはため息混じりに木製の槍を手に取り構えます。
「付き合ってやるよ。怪我なんかさせたくねぇから、ゆっくりな」
「ルイがゆっくりとやるつもりならばご自由に、私は何時も通りでいきますから」
木刀を逆手に握って足に力を込めます。私は非力です。同年代の女性から見ても小柄です。間違ってもベルみたいな大剣やルイみたいに槍を振り回せるような体格ではありません。ですが、短所は長所で補えば良いのです。このようにっ!
「はっ!?うぉっ!?」
カァアンッ!と甲高い音が訓練場に響き渡る。その小柄な体躯を活かして素早く距離を詰めてルイスの懐に潜ったシャーリィは逆手に持った木刀を飛び上がる勢いを乗せて真下から振り上げ、それをルイスは慌てて槍の柄で受け止めた。
だがそれだけでは終わらなかった。飛び上がったシャーリィはそのまま左手も木刀に添えて落下の勢いを乗せて振り降ろし、それをルイスは身を捻ることで避ける。
だが、着地したシャーリィはそのまま跳び跳ねるようにルイスとの距離を詰めて自由自在に木刀を振るい、ルイスは防戦一方となった。
「なんだ、ルイの奴押されてるじゃねぇか」
「無理もありませぬ。ルイス殿はお嬢様が密かに稽古を積まれていたことを知りませんからな。奥様から幼少期に叩き込まれた剣の腕を活かす機会もありませんでした」
「まるで跳び跳ねるような動きをするな」
「お嬢様は小柄で身軽。それ故に瞬発力を鍛えて身体全体を乗せて剣を振るうのです。いくら非力と言えど、体重を乗せてしまえば威力を増すことが出来ます」
ベルモンド、セレスティンが二人の稽古を見ながら語らう。
「ちょっ!待て待て!待てよシャーリィ!」
ルイスは手を突き出してシャーリィを制止する。
「何ですか?ルイ」
素直に止まるシャーリィ。
「なんだよ今のは!?お前戦えるのかよ!?」
「当たり前じゃないですか。剣術は幼い頃から叩き込まれています。これまでは体格的な意味でナイフに甘んじていましたが、ようやく身体も成長しましたからね。剣ならばルイにも負けませんよ」
「マジかよ……いや、悪かったな。ちょっとお前を嘗めてた。悪い、シャーリィ」
「謝罪を受け入れます。で?それだけですか?」
「まさか。お前が強いのは分かったけど、お前を護るのは俺だ。俺より強いってのは聞き捨てならねぇな」
「では証明しましょうか」
「望むところだ!怪我しても知らねぇからな!」
互いに武器を構えて再び打ち合う二人。
「おっ、ルイの奴やる気を出したな」
「となればお嬢様も不利となりますな」
「ん、何でだ?」
「あの戦い方は長期戦に向きません。まして相手が手練れならば。ご覧くだされ」
二人が観察していると、縦横無尽に飛び回るシャーリィの攻撃を辛抱強く堪えているルイスは、なにかを狙っているようにも見えた。
その時、再び高く跳ねたシャーリィによる振り降ろしを。
「捕まえた!!」
「なっ!?」
左手だけで持った槍の柄で木刀を受け止め、空いた右手をシャーリィの背に回し抱き抱えるように捕まえたのだ。
「ほお、考えたな。お嬢は軽いから捕まえるのも簡単だ」
「お嬢様は小柄ですからな、不意打ち以外であまり高く跳ねるとあのように捕まるのです。ご指摘すべき箇所が増えましたな」
観察しつつセレスティンはシャーリィの訓練計画の見直しを行う。
「離しなさい!」
「暴れんなって!」
ジタバタと暴れるシャーリィを抱きしめるようにして抑えるルイス。槍を手放して両手でしっかりと抱きしめる。こうなっては力で敵わないシャーリィにはどうすることも出来ない。ただジタバタと足掻くだけである。
「勝負アリだな、シャーリィ。速くてビックリしたけど、落ち着いて対応したら簡単だったわ」
「こんな勝ち方卑怯です、ルイ。正々堂々という言葉をご存知ですか?」
ジト目で睨むシャーリィ。
「戦いに卑怯も糞もあるか。正々堂々何て言葉犬に食わせとけ。ベルさん、汗をかいたから風呂入ってくるぜ。シャーリィと一緒にな」
「おう、よほどの事がなけりゃ呼ばねぇようにするよ。ゆっくりしてこい」
「ちょっ!ルイ!何を勝手に!離しなさい!」
「良いじゃねぇか、たまにはさ」
「まだ真っ昼間なんですよ!?分かっているんですか!?」
「たまには、な?」
「離しなさい!このお猿!獣ぉ!」
ジタバタと暴れるシャーリィを抱えたままルイスは訓練場を後にするのだった。その後?それは二人だけが知ることである。
「若いねぇ」
「些か強引ではありませんかな?」
「良いじゃないか、旦那。ここ最近はバタバタしてたからな、たまには恋人らしいことさせてやらねぇと」
「ふむ……お子様が産まれるのも時間の問題ですかな」
「その辺りは気を付けてるみたいだな。お嬢は復讐が終わるまで子供は作らねぇんだとさ」
「左様ですか……ならば黒幕を速やかに見付けねばなりませんな」
「とは言え情報もないからなぁ」
「私を捕えた者共を調べればと考えますが、尻尾を掴めぬのが実情でしてな」
「旦那でも分からねぇか。ならもう少しデカい組織と……ん?」
視線の先には、此方に慌ただしく走ってくる戦闘員が居た。
「ご報告します!ダンジョンから魔物が出てきそうです!」
「なんだと!?」
「一難去ってまた一難、ですな」
『暁』最大の危機が迫っていた。