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八天商店街のスポーツ用品店は、まだ開いていた。
店内に入ると、シロはあくびをしながら、玄関ドアの前で横になった。
「ふぅーー、危なかった……」
「ええ。何が起きるか、何が起きているのか、さっぱりわかりませんが、危ないところでしたね」
「帰りは気を付けようよ」
「ええ。このスポーツ用品店でお買い物をしたら、すぐ外で八大地獄へ行きましょう」
「いらっしゃい」
レジにはしがないおじさんがいて、俺たちを終始穴の開くほど見ていた。
棚に置いてある小型のクーラーボックスを音星と選んだ。その中で軽くて持ち運びやい一つを選んだ。
丁度、俺の背からして、左の脇下にぶら下げられる。
「火端さん。カッコイイですよ」
「……そうか? これで焦熱地獄の熱さ対策は大丈夫だろう。でも、弥生がその下層の大焦熱地獄に行った場合はどうしようか?」
「そうですねえ。あ、大丈夫かも知れませんよ。大焦熱地獄へ行ったら、念のために、また八天街へ戻ればいいんですよ。それでは、レジを済ませたら、この後、ドライアイスなどを買いに行きませんか?」
「う、うん。確かに、中身買わないとな。それじゃ、シロに道案内してもらおうよ」
レジを済まして、音星と玄関ドアまで行く途中にさっき起きたことを考えていた。あれは百鬼夜行みたいだったけど、けれども、なんで急に?
浮かばれない魂は本当にごまんとあるんだな。
まるで……俺たちに集中しているかのようだったぞ。
あ、そうか!
俺たちが地獄へ行ってきているからだ!
恐らく……魑魅魍魎とは天国にも地獄にも行けないから。
そんな、魑魅魍魎は俺たちに寄って来るのも頷ける。
何故なら、この世を永遠に彷徨うだけだから俺たちの存在がかなり気になるんだろう。
スポーツ用品店から外へ出ると、肝心なシロがいなかった。
「あれれ?」
「どうしたのでしょう?」
「確かに玄関ドアのところに、いたはずなんだけど……一体?」
「シロ! シロ! どこやーい! ……ほんと、どこへ行ったのでしょうか?」
俺の脳裏に不穏なことが過った。
スポーツ用品店の照明に、仄かに映る音星の顔にも陰りが見えてきた。
「まさか?! シロ?! もしかして、魑魅魍魎に襲われたのか?! だとしたら、どうしようか?」
「え?! 火端さん! ……シロがこっちへ来ますよ」
シロが夜の闇の中から、足早に駆けて来た。
「シロ?」
「ニャ―」
シロは、すぐに元来た道へ戻って、ニャーっと鳴きがら道案内を始めた。
「ああ、そういうことでしょうね」
「?」
「火端さん。シロはきっと、ドライアイスのあるところまで、安全かを確かめに行ってくれたのですよ」
「そうだったのか……シロ……」
音星がパッと明るい顔をして、シロの後を付いていった。
俺はシロにすごく感謝をした。
こんな外灯の明かりも全て消えている夜中の八天街で……。
この猫は……ただ親猫を失っただけじゃ済ませないんだな。
「火端さん。早く! シロを見失いますよ」
「さあて、俺も行こうか!!」
外灯の明かりもない。風もない。仕事帰りで賑わうこともなく。飲み屋の前にも行き交う人々がいない。ただ、夜の闇と夏の暑さと静けさだけが残る八天街。
ドライアイスはきっと、アイスを買ったコンビニにあるはずだ。シロもそれを知っているようだ。コンビニへの道を歩いている。
そういえば、ここら辺の建物の窓で、魑魅魍魎の姿がくっきりと映っていたっけ。
シロは、そんな中。車もない横断歩道を渡るため元来た道を走り出した。
俺の胸の中で、急にぞわぞわが戻り出した。
音星と一緒に、シロの後を走って追いかけると、信号機がジーッと鳴りだした。