テラーノベル
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なぜ、ループが起きたのかの解説?理由です!
ないこが死んだ日のことを、俺は一生忘れないと思う。
教室の窓から、夕日が差し込んでた。
蝉が鳴き止んで、代わりに夜の虫の声が遠くに聴こえた。
夏の終わりだった。
だけど、その日が俺の“始まり”だった。
「なあ、りうら。……今日、屋上来れる?」
放課後、そう言ってきたないこの声が、やけに静かだったのを覚えてる。
「……どうしたの、急に」
「……うん、ちょっと、話したいことがある」
教室にはもう誰もいなかった。
オレンジ色の光が、ないこの顔を染めていた。
なぜかその顔が、妙に遠く見えた。
──屋上に上がると、風が強かった。
フェンスの近くで、ないこが背中を向けて立っていた。
「なあ、りうら」
「ん」
「俺さ……いっつも思ってた。お前のこと、ずっと、見てた」
「……ないこ?」
「好きだった。高校入ってからじゃない。もっと前から。中学の頃からずっと」
夕焼けに照らされながら、ないこはゆっくりと俺の方を振り返った。
目が赤かった。泣いてた。
「……けど、俺、もう、無理なんだ」
「は?」
「ごめん。ほんと、ごめんな。……ずっと苦しくてさ……」
ないこは笑った。ぐしゃぐしゃな顔で。
俺の心臓が、妙な音を立てた。
「──待って、なに言って──」
「りうら、愛してたよ」
そう言って、ないこはフェンスの向こうに跳んだ。
──時間が、止まったようだった。
音が、何も聞こえなかった。
ただ、視界の向こうで、ないこが落ちていくのがスローモーションのように見えた。
脚が動かなかった。
声が出なかった。
胸がひりついた。
そして、何かが壊れる音がして、世界が白く光った。
──目を開けると、春だった。
見覚えのある制服。咲き始めた桜。
俺は自分の席に座っていた。
教室の時計は、四月の始業式の時間を指していた。
「……え?」
まるで夢でも見ていたかのように。
けれど、体の奥には、あの感触が残っていた。
屋上で見た、ないこの泣き顔。
最後に聞いた「愛してた」という言葉。
──夢じゃない。戻ってきたんだ。
でも、どうして?
あいつが死んで、俺が戻ってきてる?
なにがどうなってる?
「なあ、君……去年もここいた?」
後ろから聞こえた声に、背筋が凍った。
振り返ると、**そこにいたのは“死んだはずのないこ”**だった。
「……っ」
声が出ない。
でも、ないこは何も知らない顔で笑ってる。
──この日から、ループが始まった。
ないこが死ぬたびに、時間が戻る。
それがこの呪いのルールだった。
屋上から飛び降りたときが、原点。
それが“すべての最初”。
何が引き金だったのか。なぜ彼があんなことをしたのか。
俺には、わからなかった。
だから、何度も繰り返した。
春を迎え、笑顔を見て、名前を呼んで、少しずつ距離を詰めて。
でも──必ず“ないこは死ぬ”。
事故、自殺、病気、不可解な転倒。
方法は違っても、結末は同じ。
この世界は、ないこが死ぬためにあるんじゃないかと何度も思った。
でも──それでも諦められなかった。
それが、「愛の証」だからだ。
だってあいつは、最後に言ったんだ。
**『愛してたよ』**って。
それが、どれだけ俺の中に残っていたか。
それがなければ、俺はとっくにこの世界を捨ててた。
もう死んでたかもしれない。
──だけど、俺は「生きて」いる。今も。
なぜなら、あいつを“生かしたい”から。
最初の春に、全てがあった。
全部は、ここから始まった。
俺が気づくのが遅かっただけだ。
愛してることに。守るべきだったことに。
もう一度言わせてくれ。
最初の春で言えなかった、あの言葉を──
「ないこ。愛してる。死なないで。……俺が、お前を生かす」
それが、俺がこのループで繰り返し続ける唯一の呪文。
そして、祈り。
コメント
1件
なんていい話なんだッッッ(?)