テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
目が覚めたとき、俺はまた春にいた。
桜が舞って、窓の外では新入生の声。
机の並び、教室の匂い、何もかもが“最初”のそれだった。
──でも、わかってた。
これは“最初”じゃない。
俺はもう、何度も何度もここに戻ってきている。
何十回目かの春。
何十回目かの「やり直し」。
りうらは、まだ何も言ってこない。
でも、あいつはきっと気づいてる。
俺ももう、知ってしまったから。
思い出してしまったから。
全部──ぜんぶ。
屋上で飛び降りた日のこと。
それを引き金に始まった、この“ループ”。
死ぬたびに世界が巻き戻って、また春がやってくる。
最初は、何もわからなかった。
でも、だんだん夢に見るようになった。
知らないはずの未来の会話、見たことのない事故現場、
知らない制服のシワの形まで。
──記憶が、にじんでくる。
きっと、俺の心が耐え切れなくなって、
少しずつ、意識に染み出してるんだ。
何度死んでも、何も変えられなかった。
逃げても、抗っても、消えようとしても──
それでも、りうらだけは俺を見つけ続けた。
どのループでも、俺の最後にそばにいたのは、あいつだった。
笑って、怒って、泣いて、俺を引き戻す声を何度も聞いた。
「死なないで」って、何度も。
「愛してる」って、何度も。
それを、聞けば聞くほど、胸が痛くなった。
──なんで俺なんだよ。
──なんで、お前はそんなに優しいんだよ。
──なんで、俺はそれを受け止められなかったんだろう。
あいつのせいじゃない。
全部、俺自身が選んできたことだ。
でも──
もし今度こそ、終われるなら。
今度こそ、俺が選びたい。
逃げることじゃなくて、
壊すことでもなくて、
生きることを、選びたい。
たとえ、それが怖くても。
たとえ、もう後がなくても。
俺が、俺の意志で、
このループに、終わりを与えたい。
—
放課後。
俺は屋上に立っていた。
夕焼けが街を染めている。
前と同じ。たぶん、ループのたびに何度も来てる場所だ。
りうらも、現れるはずだ。
そろそろ、時間だ。
──そして、足音がした。
「ないこ!」
声の主は、やっぱりりうらだった。
はあ、はあと息を切らして、駆けてくる。
それだけで胸が熱くなる。俺はこらえきれず、笑った。
「やっぱり……来てくれた」
「来るに決まってんだろ! どうして黙って──」
「覚えてるんだ、全部。今回だけじゃない。
何十回も死んだ。何度も繰り返した。……俺も、もう限界だ」
りうらの目が、大きく見開かれる。
「……思い出してたのか、やっぱり……!」
「でもな、りうら。ひとつだけ、今までと違うことがある」
「……?」
「俺が、ちゃんと生きたいって思ってる」
その瞬間、あいつの瞳がぐしゃっと歪んだ。
目を潤ませて、でも嬉しそうに笑って、
「やっと……やっと言ってくれた」
「今まで、全部、お前が俺にくれた時間だった。
優しさだった。……あれは、呪いなんかじゃなかった。
愛だったんだ。……お前の、愛」
風が吹いた。
あの日と同じ時間。
でも俺は──もう、飛び降りたりしない。
りうらがそっと手を差し出す。
俺も手を伸ばして、重ねた。
その温度が、なによりも確かで。
「もう……いいよな? これで、終われるよな?」
「うん」
「終わったらさ、世界が壊れても、先が真っ暗でも、
俺は、またお前を選ぶよ。今度は“この先”を、見たい」
「見よう、一緒に」
──その瞬間、桜が舞った。
春が、確かに終わりを迎えた。
終わりじゃなく、続きが始まる音がした。
──これは、ないこの“最後の選択”。
もう一度生きることを、彼自身の意志で選んだ、
希望のループ、最終回。