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女の子について行き、2分ほどした時に気になった事を質問した。
「あの、私は生きてはいるのでしょうか?」
女の子は振り返らずに答えた。
「ええ、病院のベットの上で眠っていらっしゃいます」
「そう、あの、色々質問してもいい…ですか?」
歩みを止める事なく、はいっと女の子は返事をした。
「あなたは天使か何かなのですか?私を待ってる人というのは…」
ピタリと足を止め、女の子はゆっくりと振り向いた。
「そういえば申しておりませんでしたね
これは飛んだ失礼を、私はカリン。今言っていただいた天使の…まだ見習いでございます」
カリンはスカートを両手でもち、左足を右足の後ろにクロスさせてお辞儀した。
「い、いえ!ご丁寧にありがとうございます!わ、私は四ノ宮 満と申します!」
童話に出てくるような綺麗なメイドさんのようでつい緊張してしまった。
思わず体育会系なビシッとしたお辞儀で返してしまう。
クスッと笑い、カリンは満の肩に手を添えた。
「存じておりますよ、四ノ宮満さん。ここではあなたはお客様です。
堅苦しく考えずリラックスしてください。ちゃんと最後には生者の国に帰れますからね。敬語でなくても構いません。」
満の肩に添えていた手を満の手に滑らせる。
「帰りたくなくなってしまっても、大丈夫ですよ」
「え?」
カリンの言葉に疑問を抱きながらも、また前へ振り返り歩きだすカリンについていく。
「もうすぐです」
そう言いながら優しく手を引いてくれる。
次第に白い空間が色づき始める。
綺麗な草木が道となり、気がつくと懐かしい田舎道にいた。
「あれ?ここは…」
振り返ってみると今までの白い世界はなく、田んぼで囲われた一本道があるだけだった。
その風景に満は覚えがあった。昔、母と通っていた町外れの喫茶店。
自転車の後ろに乗せてもらい、よく食べに来ていた。
思い出の場所だ。だが昔のままの景色、匂いも全てが満には不思議そのものだった。
なぜならこの思い出の風景はもう存在しないからだ。
都市開発が進み、田んぼもカフェも今は大きなモールに変えられてしまったからだ。
そのモールが出来てからは忘れられない喫茶店の味を懐かしむしかなく、とてもガッカリしたのを覚えている。
「ここ、知ってる…でもなんで。」
「ここで待ち合わせしたら喜ぶと、ご希望されたのです。」
カリンはまた優しく微笑みかける。
「でもここ、今はもう…」
「ここ、天国では皆さんが望む場所を自由に提供できるのです。
例え生者の国ではもう存在しない場所、匂い、空間も、本当に自由に再現出来ます。
満さん、あなたに最後、あって伝えたいことがあるとご希望された方の望む世界です。もう誰か、お分かりですよね?」
少し眉をハの字に下げ心配そうな顔で満を見る。
「お母さん、ですよね」
「はい、満さんのお母さんです。最後に伝えてから天国の門を潜ると約束してくださいました。」
満の目から涙が溢れる。本当に最後なのだと全身で感じる。
懐かしい風景も、匂いも、消えてなくなったように。
これで母ともお別れなのだと。
ある程度大人になったし、いつかは誰にでもくる別れだ。
自分にはそれが今なんだ。わかってる、頭では理解してるのに心が追いつかない。
涙ばかり出る、まるで子供だ。保育園での子供を思い出した。
朝の送迎で毎回のように泣いて母である私を求めていたっけ。
手で目を擦りながら涙を必死に止める。
すると顔にふわりと布が当てられた。カリンがどうぞとハンカチを差し出した。
「このハンカチは気持ちを穏やかにしてくれる、魔法のハンカチです。
どうぞ、お使いください。せっかくのひと時を涙で終わらせるのは勿体ないですからね」
そのハンカチで涙を拭うと、昂っていた寂しさが落ち着いた。
「…すごい。本当に魔法みたい。」
落ち着いた様子を見てカリンもよかったと言わんばかりにふふふっと微笑んで、
再び満の手を引いた。
程なくして思い出の喫茶店にたどり着いた。木造で広めの庭があり、草木が鑑賞できる。車が4台ほど止められて、駐輪スペースもある。
草花が好きな店主さんな為、家に絡みついている天然の蔓を取ろうともしない。
それがまた素敵な演出となり、おとぎの国のお家のようだと小さい頃も気に入っていた。
そんなおとぎの国のカフェに母が待っているのだという。
ドアの前までくるとカリンはそっと手を離した。
「どうぞ」優しい声に導かれドアノブに手を置いた。