僕は昔から或る人物が気になっていた。
アア否、恋愛的な意味じゃないよ?
其の人を見た時の印象は、笑っているけど、やっぱり笑っていない感じ。
其の人の事は画像でしか見た事が無かったけど、作り笑顔と云う事が一目で、“大人の世界”を良く知ってると云う事が五秒もあれば分かった。
或る日、珍しく(唯の気分転換だけど、珍しい事は自負してる)外を散歩していた。
其の時に居たんだ。茶髪の、鳶色の目、パーカー。
まぁ僕は名探偵!だから一目見れば分かるんだ。「其の人だ」と云う事がね。
「ねぇ」
「…誰ですか?」
其の対応は当たり前だろう。僕だって知らない人から話し掛けられでもしたら「誰?」とか云うし!
「そんなに窮屈な場所で、楽しいの?」
大人の世界は窮屈だ。礼儀だとか作法だとか常識だとか。どうせ後からバレるのだから、礼儀、作法なんて必要無いじゃん。莫迦みたいに頭が怪訝しい人間しか居ない。
まあ、こんな事が思えるのは天才的な僕の頭脳が有るからだろう!なんて云ったって僕は日本一…否世界一の名探偵だからね!
「……」
黙りこくってしまった。
「アァ、自己紹介が未だだったね!僕は世界一の名探偵、江戸川乱歩さ!覚えておくと良いよ!」
「……否、そういう事じゃ……」
「え、何?誰だったか聞きたいんじゃなかったの?あ、そっか!先刻云った事?」
表情から察する。矢っ張りね!
此の人……表田裏道は、屹度苦しんでる。大人の世界で上に睨まれないように鼻に着くような態度は取らず、ずっと疲れる事をして、趣味も無く、感受性も死んでる。だけど人並みの幸せは欲しがるから、余計に苦しい。完全に希望を捨てきれずに居るのが、一番に苦しいんだ。
自分が希望を持ってる所為で、真面な所為で、狂い切れずにずっと大人の世界で苦しんでる。
多分、そう。だって、じゃないと僕が云った時こんなに苦しそうな顔してなかった。
______なんでそんなに、此の人に構うの?
何故かふと頭の中に浮き出た言葉。
確かに、僕が此の人を構う必要性なんて無い。だって僕は僕で、此の人は此の人。幾ら僕が幼子達を救済してやりたいとは云え、一個人に執着した事なんて無い。
「何で苦しむだけなのに大人の世界に居るの?」
「…じゃないと生活出来ないでしょう」
「でももっと他にやれる仕事はあるでしょう?アァ、でも其の年齢じゃ余り再就職はアレだもんね。」
此の人多分三十くらいかな。
三十なら一寸再就職は絶望的かもしれない。まぁ体幹は安定してそうだけど……又体操選手に逆戻り、も余りしたくは無さそうだし。
表では「うらみちお兄さん」として振舞っているかもしれないが、裏ではただの「表田裏道」だ。多くの人が表の「うらみちお兄さん」を見ている。だけど僕は、裏の「表田裏道」を見ている。
其れが不思議で、何故か嬉しく思えてしまう。何故だろうか。
_____好き 心惹かれる事、気に入る事。
何処かで見た物をふと思い出した。確かに、これが「好き」なのだとすると、全部辻褄が合う。其れも、恋愛としての「好き」として。
「僕と付き合って」
其の言葉が声にされるのは、其れから一年後であった。
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