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勇斗side
放課後の教室は昼間とは
まるで別の場所みたいだ。
西日が差し込んで机の影が長く伸びている。
誰も居ないはずなのに、
そこに残っている空気はやけにあたたかい。
???「まだ居たんだ」
ドアのところから聞こえた声に、
俺は振り返る。
少し驚いたがいつもの調子にすぐ戻った。
勇斗「そっちこそ。部活は?」
???「今日は休み」
そこに居たのは同じクラスの
吉田仁人だった。
当たり前のように前の席に座る。
しばらく沈黙が続いたものの
それは気まずいものではなかった。
チョークの匂いとか、
遠くから聞こえる運動部の声とか、
そういうのが全部混ざって
静かに時間が流れていく。
仁人「なんで残ってんの?」
勇斗「・・・何となく?」
笑って誤魔化したけど本当は違う。
理由は自分でも分からないけど
ただ、この場所に居たかった。
仁人「ふーん」
こういう時、仁人はそれ以上聞かない。
そういうところがずるいと思う。
勇斗「仁人は?」
仁人「俺も、なんとなく」
同じ答えだったけど
どうしてか、意味が違うように聞こえた。
窓の外はもうすぐ夜になりそうで
オレンジ色がゆっくりと青に変わってく。
仁人「勇斗」
突然名前を呼ばれた。
勇斗「何?」
仁人「勇斗ってさ」
言いかけて仁人は一瞬黙った。
そして視線を逸らして呟く。
仁人「無理すんの上手いよね」
勇斗「・・・は?」
思わず笑ってしまった。
勇斗「なにそれ笑
褒めてんの?」
仁人「別に」
素っ気ない返事だったが
いつもより重い声だった。
勇斗「無理してないし」
本当かどうかなんて俺にも分からない。
仁人「してるよ」
即答だったそのたった一言に胸が締め付けられる。
勇斗「・・・なんで分かんの?」
仁人「見てるから」
あっさりした答えだった。
教室の空気が少し変わり、
何か言わなきゃいけない気がするのに
言葉が詰まる。
仁人「別にさ」
仁人はゆっくりと立ち上がり
俺の横に来る。
仁人「無理すんなって
言いたいわけじゃない」
机に手をつかれ、距離が近くなる。
仁人「ただ、」
そこで、一瞬だけ目が合う。
仁人「俺の前では、別にいいんじゃね」
その言葉は驚くほど静かだったが
確かに俺の心に響いた。
勇斗「・・・そろそろ帰る」
仁人「俺も一緒に帰っていい?」
勇斗「いいよ」
帰り道、並んで歩く。
いつもと同じ道なのにどこかが違う。
仁人「勇斗」
また名前を呼ばれた。
仁人「明日も、残る?」
少しだけ迷ったけど俺は笑った。
勇斗「気分次第?」
仁人「そっか」
仁人も少し笑っていた。
その顔が、不思議と安心した。
無理した自分じゃなくて
ちゃんと息をしていられる場所。
それがどこなのか、分かりかけていた。
コメント
1件
2人の距離感が…!! 分かる!分かるぞ!なんて素敵な文章なんだ……👼
29
ゆ。