テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん

28,181
鷹槻れん

5,813
鷹槻れん

4,188
#契約結婚
鷹槻れん

14,125
コメント
2件
わー、これは目立っちゃったね💦
お話、じわじわと落ち着く方向に向かってる感じがして、すごく好きです🥀 千紗さんが晴永さんに「お互い、ちゃんと幸せになりましょうね」って笑いかけるシーン、すごく胸にきました。あの一言が出せるのが本当に強いし、優しい。それにちゃんと笑い返す晴永さんも、もう一歩踏み出せたんだなって。 電話で「明日、迎えを出すから」って言う晴永さんの声のトーンが、なんか目に浮かぶようでした。瑠璃香さんが「心の準備」って言われても何をどうすればいいかわからないって思うのも、すごくわかる。最後の藤代秘書の登場、職場の空気が一瞬止まる感じ、すごく映像的でよかったです。 お仕事の隙間時間に、ちょっとずつでいいので、れんさんの言葉を待ってます🌙
応接室を出る際、千紗が晴永へ小さく笑いかける。
「お互い、ちゃんと幸せになりましょうね!」
晴永も自然と笑みを返した。
「ああ。藤井田さんも、木朝さんと、幸せにな」
「ありがとう。新沼さんも!」
「ああ」
「落ち着いたらまたみんなではーくんのお店に集まりましょうね!」
晴永は小さく頷いた。
「そうだな」
婚約者として彼女と会うことは、もうない。
けれど友人としてなら、きっとまた笑い合える。
これからは、それぞれが本当に隣にいたい人と歩いていく。
自分たちの選んだ未来へ向かうための――新しい扉が、静かに開いた。
***
夕食を終え、食器を片付けていた瑠璃香のスマートフォンが鳴った。
晴永と別居を始めて数日が経っている。
盛晴からは、二人きりで晴永と会うことは禁じられていたけれど、電話をすることまでは制約されていない。
瑠璃香は電話で晴永と他愛のない会話を交わし、近況を報告し合うのを楽しみにしていた。
『今日、藤井田家へ行ってきた』
開口一番告げられた晴永のセリフに、瑠璃香は息を呑む。
「どうでしたか?」
『じいさんが向こうへ頭を下げてくれて、向こうからも木朝さんの存在が明かされた』
「ってことは……」
『両家合意の上で婚約はなかったことにしようって話でまとまったよ』
晴永の言葉に、瑠璃香はホッと胸を撫でおろす。『Cielo Sereno』で、皆で好きな相手と添い遂げられる未来にするため、力を合わせて頑張ろうと話した。千紗も晴永も、約束を果たしてくれたのだ。
婚約破棄の会見など、まだまだバタつく予定ではあるらしいけれど、それでも両家の足並みがそろったという報告は、瑠璃香にとっても喜ばしい。
「よかったです」
心の底からそう思いながらつぶやくと、晴永が『ああ』とつぶやいた。
そうして『それでな……』と続けるのだ。
『それでな、じいさんが……瑠璃香にもちゃんと会って謝罪したいって言ってな』
「えっ!?」
『もとはと言えばじいさんの暴走が今回の悲劇を生んだわけだろ? 瑠璃香にも嫌な想いをさせちまったし、これからも我慢を強いることになるから……って』
「そんなの……」
『お前は気にしなくてもじいさんは気にしてるんだよ』
そう言われてしまっては、何も言えない。
瑠璃香が押し黙ったのを確認して、晴永が畳みかけるように言った。
『でな、明日仕事の合間を縫って、お前んトコに迎えを出すからって』
「迎え?」
『ああ。……だから一応心の準備、しといてくれるか?』
「…………はい」
心の準備……。
そう言われても、瑠璃香には何をどう準備すればいいのか分からなかった。
すべては迎えが来てから考えるしかない。
そう思った。
***
翌日。
企画宣伝課では、昼下がりの穏やかな時間が流れていた。
「小笹さん、この販促資料なんだけど――」
「はい、すぐに修正します」
瑠璃香はパソコンへ向かいながら返事をする。
その時だった。
企画宣伝課のフロア内が少し騒がしくなる。
なんだろう? と瑠璃香が顔をあげたと同時――。
「小笹瑠璃香さん、ちょっとよろしいですか?」
背後から穏やかな男性の声が響いた。
瑠璃香が振り返ると、そこには社長秘書の藤代有馬が立っていた。
企画宣伝課の空気が一瞬だけ止まる。
「藤代さん……?」
瑠璃香は思わず立ち上がった。
藤代はいつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、小さく会釈する。
「社長がお待ちです。ご案内いたします」
「……あ、えっと……」
今、上司から仕事の指示を出されたばかりだ。まだ訂正は終わっていない。
瑠璃香が恐る恐る河瀬課長を見ると、「大丈夫だ。行って来なさい」と即座にOKが出た。
「はい。あの……訂正は――」
「僕がやっておくから気にしなくていい」
河瀬課長の言葉に、藤代秘書が「恐れ入ります」と会釈をして、瑠璃香に「では行きましょう。社長をお待たせするわけには参りませんので」と急かしてくる。
その様子に、課内が小さくざわついた。
「なんで社長が小笹さんを?」
「小笹さん、なにかしたのか?」
「藤代秘書が呼びに来るとか普通じゃないだろ」
そんな声が聞こえてくる。
瑠璃香は昨夜の晴永との電話を思い出し、小さく息を吸った。
ノートパソコンをぱたりと閉じると、藤代のあとへ続いた。
***
藤代のあとを追って企画宣伝課を出る。
廊下へ出たことで、背中に集まっていたいくつもの視線からようやく解放され、瑠璃香は小さく息を吐いた。
「驚かせてしまいましたね」
「はい。……藤代さんが直接いらっしゃるとは思っていなかったので」
「社長から、私が迎えに行くよう申しつかりましたから」
それだけ告げて、藤代は涼しい顔で歩いていく。
昨夜、晴永から迎えが来るとは聞いていた。
けれど、てっきり秘書室にいる誰かが呼びに来る程度だと思っていたのだ。もっと言うと、社内電話で呼び出されるのかな? とも。
まさか社長秘書の筆頭たる藤代が、わざわざ企画宣伝課まで出向いてくるとは思わなかった。
おかげで、しばらくは課内の噂の的になりそうだ。