現在の時刻は午前零時。 誰も居ないはずの探偵社内……コツコツコツ、、廊下を渡りドアノブに手を伸ばし、ゆっくりとドアを開ける。 そこには、ある人が居た。小さくて可愛らしい唇。月明かりに照らされて綺麗に輝いている翡翠色の瞳、柔らかそうな頬に白くて華奢な手首。噛み付いてしまいたくなる首筋。その人の全てが愛おしかった。 その人は飴玉を口に咥えながら私の名前を呼ぶ。
『やぁ、太宰』
その人が発する言葉の全てを録音したい。あぁ、好きです、と、つい口に出してしまいそうになる。
『乱歩さん…珍しいですね。こんな夜中に』
『太宰こそ珍しいじゃないか』
『あぁ、私は乱歩さんがここに居ることを知っていたので。』
これを聞いてもあの人は顔色ひとつ変えず、ふーん、と返事を返すだけだ。何故、私が貴方の居場所を知っているのか、そんなこと興味無いのか、はたまた全てお見通しなのか判らないが兎に角、こんな夜中に乱歩さんに会えて幸せだ。
『どうして…探偵社にいらしたのです?』
そう問掛けるとあの人は少年のように笑う。
『まぁ、細かい事はいいじゃないか』と。
あの人が何を考えているのか、どこまで心の内を知られているのか、この私でも全てを知ることは不可能だ。だけど、私はそこに惹かれた。あの人の魅力についてなら四六時中話せる自信がある。あ、でもそれで惚れられてしまっては困るなぁ。あの人は私だけのものだ。
『太宰、お前なんか変な事考えているだろ。』
あ、バレました?太宰はそう言って、ふふっと笑う。
『そんなことより、、夜中にお菓子を食べては健康に悪いですよ?』
『大丈夫だよ。僕、細いし。』
細身なのと健康なのとでは大変別物なのだが、それはわかっていての発言だろう。でも、確かに彼は細い。お菓子ばかり食べていても、全てその頭脳で消化されてしまうからだろうか…。
『隣、いいですか?』
『……嫌って言ったら?』
彼は冗談交じりの言葉をはき、猫のように目を細めて笑う。こちらも笑い返す。
『それでも、行きます』
ははっ、『いいよ。おいで』
うっ、やばい。そのおいでは破壊力が凄まじい。鼻から出そうなものを何とか引っ込めて乱歩の横に座る。
『そういえば、ラムネを買ってきたんです。』
ふーん、ありがとう
ラムネを渡す時はそのまま渡してはいけない。しっかりラベルを剥がし、ビー玉を押す。そうしないと飲んでくれないのだ。コクッコクッと、ラムネを飲んでいる姿も、なんとも可愛らしい。写真に収めて額縁にでも飾っておきたい。乱歩をジーッと見つめていると、それに気づいた乱歩もまた、こちらを見つめ返した。
『何?ラムネ飲みたいの?』
『え、くれるんですか?!』
乱歩さんの、飲みかけのラムネ…関節キス…淡い期待と裏腹に乱歩は、それを突き破るように言葉を返す。
『いや、あげないけど』
なーんだ、、とあからさまに顔に出して残念がる。
『……ビー玉ってさ、綺麗だよね』
『太宰、知ってる?猫の目も横から見るとビー玉みたいで、とても綺麗なんだ。』
『……乱歩さんの目は、ビー玉よりも綺麗です。まるで宝石のようで。』
これから先も貴方のそばに居たいと願ってしまうくらいに、どうしようもなく、その宝石のような美しい瞳に囚われてしまったのだ。
コメント
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私は鼻から出そうなものを引っ込めようとしましたが引っ込まずに出てきましたよ…
良すぎて泣く🥹🫶