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「グランツ……」
私の後ろにいる彼を見ると、グランツは唇を強く噛みしめていた。そして、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。
「ごめん探してた? って、私も探してたんだけど……って、グランツ?」
「なんで」
と、呟くように彼は言葉を漏らす。
そして、彼は私を見た後にアルベドに視線を移し、殺意の籠もった翡翠の瞳でアルベドを睨み付けた。
前もそうだったが、グランツがアルベドに向けるこの感情は何なのだろうと。そりゃあ良いものじゃないだろうし、感じられるように殺意やら怒りやらは感じるのだけど、その根本にあるもの、理由が分からなかった。
私は、ただその光景を見つめるしか出来なかった。
アルベドは、それを涼しい顔で受け止めている。
「可笑しいと思ってたんだよなあ……エトワールの護衛がいなかったこと。迷子にでもなってたのか? 護衛騎士のくせに?」
と、挑発を仕掛けに言ったのはアルベドだった。
その挑発にピクリと、グランツの指先が動いた。だが、彼も彼でこの間の二の舞にはならないぞと必死に堪えているように見えた。
そんな彼の様子を見て、アルベドの口角が上がる。
「まっ、俺には関係無いことだし別に良いが、もう少し遅かったらお前の大切な聖女様はどうなっていたことか」
アルベドは、わざとらしくそう言うとその金色の瞳をグランツに向ける。
何故アルベドがグランツを挑発するのか分からず、我慢できなくなった私はつい口を挟んでしまう。
「私の騎士のこと酷く言わないよ! 何にもアンタにしてないでしょうが!」
そうして、思わず手まで出てしまい彼の頬をひっぱたいてしまう。アルベドの顔にはモミジ型の痕が出来、彼は何すんだ!と怒っているが、今の私にとっては知ったこっちゃなかった。
私の言葉にアルベドはぎゃんぎゃんと吠える。そして、グランツは私の方を見ていた。
私自身も、どうしてこんな事してしまったのだろうか。自分でもよく分からないけど……一応彼は公爵家の人間で、叩いちゃいけない人であることは分かっているんだけど。
「いってえ! お前叩くほどのことじゃねえだろ!」
「本当は、私が迷子になってて……そこでふらっと路地に立ち寄ったらアンタが倒れてたの! アンタは私が来なければしんでたかも知れないし、それに危なかったって言っても、アンタが助けてくれたんだし良いじゃない!」
そう言い返すと、アルベドは眉間にシワを寄せた。そして、何かを言おうと口を開こうとした瞬間、グランツが口を開いた。
「エトワール様を助けて頂きありがとうございました」
「……グランツ?」
とっさに、私は彼の名前を呼ぶと彼は私の方に振り向いた。その表情は、いつも通り無表情だった。
私は、彼の言葉に驚いていた。まさか、グランツが素直にアルベドに感謝を述べるなんて思ってもいなかったから。
だけど、彼をよく見てみると小さく震えているようで、怒りを抑えているようにも見えた。
アルベドはその言葉を聞き拍子抜けし、肩をすくめていた。
「まっ、これからはこのおてんば聖女様から目を離さないこったな」
「誰がおてんば聖女よ! って、何処行くのよ。アルベド!」
と、アルベドはすたすたと歩いて行く。
身体は回復魔法をかけたがまた怪我だらけで、澄ました顔をしているが見た感じはとても痛そうで。それに、私はまだ彼に聞きたいこととかあったため呼び止めてしまう。
けれど、アルベドは何も言わずに歩いて行き、グランツもそれを留める様子はなかった。
「もう、待ちなさいって言ってるでしょうが!」
私がそう叫び、アルベドに手を伸ばした瞬間だった。ジジッという聞き慣れない音と共に私の伸ばした手の手首に光の枷のようなものが現われガチャンと音を立てて手錠のような物が嵌められた。
(んな、何これ――――!?)
突然のことに、私は唖然としてしまう。すると、前を歩いていたアルベドが耳が痛くなるような高い声で「痛え!」と叫ぶ。
その声に反応して、慌ててアルベドの方を向くと彼はこちらを振返って涙目になりながら私を睨み付けていた。
「おい、エトワールどういうつもりだ!」
「ひぃいいッ! ど、どういうつもりって何が!?」
「これだよ、これ!」
と、アルベドは私の方へずかずかと近づいてき私と同じく彼の左手首には枷のようなものがはめられている。
鎖さえないものの、私達が繋がっていると言うことを物語っていた。
今にも殺さんとばかりに睨み付けてくるアルベドに怖くて震えていると、スッと私達の間にグランツが入ってきて私を庇うようにしアルベドを空虚な翡翠の瞳で見つめていた。いや、睨み付けていた。
「それは、光の枷です」
「ひ、光の枷?」
「はい。言ってしまえば、拘束具ですね」
「こ、拘束具!?」
グランツは淡々と私とアルベドの手にはめられた光の枷のようなものについて語り出した。
曰く、これは本来なら両手にはめさせる拘束魔法なのだとか。光魔法のものから闇魔法のものにが普通らしく、両手にはめられている状態では魔法が使えないのだとか。効果は一日ほどで、枷をはめた側の魔力が強ければ強いほど拘束力を増す。逆に、魔力が低いと拘束は簡単に外れるのだとか。
私は説明を聞きながら、自分の光の枷とアルベドの光の枷を交互に見て発狂しかけ口を閉じた。
枷と言いながら全然拘束できていないようにも思え手は簡単に動かせるし、動き回れる。
普通の手錠とはまた違った存在なのだろうと私は思いつつ、グランツにどうやってやれば外れるのかと尋ねた。すると、彼は困ったような表情で無理です。と一言、余計な言葉も何もなしに言ったのだ。
「え、無理って。自力で外せないの?」
「はい。枷をはめた側であっても一日は外せないのです。拘束魔法ですから」
「え、いや、え……でも」
そんな、と私が呟くとグランツは困り顔でもう一度、残念ですが。と外せない有無を伝える。
拘束魔法というのだから、この魔法は本当に外すことが出来ないのだろう。
(あぁ、もうどうしたら良いのよ)
別に繋がれていると言っても両手がふさがっているわけでもなく自由に動き回ることが出来るため、別に見栄えが悪いだけでこのままでも良いかと私が思っていると、巫山戯るなとでも言うように顔を真っ赤にしたアルベドがまたぎゃんぎゃんと吠えだした。
「光の枷をはめられている状態だと、ろくに魔法がつかえねぇんだよ! また、さっきみたいに俺が襲われたら如何するんだ!」
「それは、アンタの問題じゃない。私には関係無いし」
「関係あるんだよ! この魔法の恐ろしさ知らねえのか!」
「何よ、この魔法の恐ろしさって」
「対象が三メートル以上離れると繋がれている者の身体に電流が走るのです」
「え……」
すかさず、グランツが説明を付け加え私はその言葉を聞いて思わず頬を引きつらせた。
それって、私にも害があるって事だよね? と。
そして、私は嫌々ながらもアルベドの方を見ると、アルベドはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いていた。
何でこんな奴と。そう言いたげな様子だった。
いや、でもそもそもなんで魔法を架橋と思っていないのに、魔法が発動したのか疑問である。確かに、行くな!って伝えたかったというか叫んでいたわけだけど……
(聖女の魔力は偉大って事ね……確かにイメージさえあれば魔法が使えるわけだし……)
と、自分の立てた仮説に納得しつつアルベドを見た。
これは私が彼を引き止めたかったから、とっさに出た魔法なのだろう。
だからといって、彼と繋がりたかったわけじゃないし、寧ろ全然嫌だし、アルベドと一日一緒にいないといけない事に今私は絶望していた。
一日も。
自分の視界に、あの紅蓮が。
「いつもならこれぐらいの拘束魔法なら解けるが、何せお前がかけた魔法だからな。それに、今の俺は消耗しているわけだし、闇魔法と光魔法は互いに反発する存在。下手に魔法を流せば手首事落ちる可能性だって考えられる」
「……」
「さあ、どうする? 聖女様」
「どうするも、こうするも、アンタと一日一緒にいなきゃいけないわけでしょ!? と、取りあえず聖女殿に戻って……」
「俺に、あの光魔法で溢れている……女神の加護がかかってる場所に行けって言うのか!? 俺を殺す気か?」
先程から、私に対して罵倒を浴びせるばかりで一向に話が進まない。
何なの、コイツ。
「子供みたいに騒がないでよ」
「騒ぎたくて、騒いでんじゃねえよ! お前の頭が可笑しいから!」
と、アルベドは言うと自分が聖女殿にいけない理由を言ってくれた。
いや、多分わかりきっていたことなんだろうけど彼は闇魔法の使い手で、光魔法、善の塊である女神の加護がかかっている場所には行けないのだとか。行ったら行ったで、吐き気やめまいがするとかなんとか。
まぁ、気持ち悪いのは分かるけど、そんなんでいちいち喚かないで欲しい。こっちまで気分が悪くなる。と、思いながら、私はまた一つ溜息をついた。
(ああ、もう。本当に最悪……)
「それじゃあ何処で一日過ごすのよ……」
「そんなの決まってるだろ」
私が何処で過ごすのかと聞いた瞬間彼はニヤリと笑い、グランツを押しのけ私の前に立った。
そして、私の顎を掴み上を向かせ、その端正な顔を近づけてきた。
「ほげぇええああああ!?」
私は、突然の行動に驚き目を見開き固まっていると彼は私を抱き上げて、何やら詠唱を始めた。すると、彼の足下が緑色に輝きだし彼を中心に突風が巻き起こる。
「まさか、貴方エトワール様を!」
「そんじゃ、まあ此奴の使用人に伝えといてくれ。聖女様は一日俺んところで預かるってな。優秀な騎士様よぉ」
「待てッ……!」
アルベドは挑発的な笑みを浮べグランツにそう告げると、私達の身体は薄暗い翠色の光りに包まれシュンと音を立ててその場から消えてしまう。
きっとこれは転移魔法なのだろうと考えながら私は、これから一日彼と過ごさなければいけない事実に絶望していた。
「……クソッ」
私達が消えた暗い路地で、舌打ちをし壁に拳を打ち付けて怒りと殺意に溢れた表情をしていたグランツがいたことを私は知るよしもなかった。