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結局大人になんてなれなかった。
感情をコントロールできず、支離滅裂な言葉を叫んだ。きっと目の前の青年には二割も理解できなかっただろう。いや、二割わかっていれば上出来か。
それでも、涼は准の反応を待っているわけではなかった。押し殺していた本当の気持ちが堰を切ったように溢れ出して、涙ばかりが流れ落ちていく。
「あの人の……創さんのところに帰りたくないっ……もう、終わりにしたいんです……っ!」
不思議だった。嘘だけは上手いと自負していたのに。初めて、目の前の青年に嘘をつけなかった。
准は黙って聴いていたが、静かに涼の涙を指ですくいとった。
「何かやっと分かった気がする。お前のこと」
「……っ?」
初めて見る表情だった。悲しいとも、嬉しいとも違う。……それでも感じ取れる。優しい顔。
泣きそうな顔で笑っていた。
「助けてやれなくてごめん」
流れ続ける涙をなぞって、優しく拭く。その仕草は、涼の中を何かが掻き回した。
「な……んで、准さんが謝るんですか」
今はむしろ、優しくされる方が辛い。彼の言葉を否定し、その矛先を自分の首元に向ける。
「そりゃ謝るよ。何度でも……謝って済むなら良いんだけどな」
「ちょっと待って、俺に何を謝る必要があるんですか?」
「だから、助けてやれなかったからだよ!」
突然の強い口調に涼はビクッとした。准はそれに気付いて咳払いする。
彼の声に驚いて涙は止まった。それが不幸中の幸いだが、やはり解せない。
「助けてやれなかったっ……て」
情けない心臓がバクバクしていたが、涼は落ち着いて彼の眼を見返した。
「准さんは一から十まで被害者ですよ。責任を感じる必要は一ミリないし、……俺は元気ですよ」
「そんな泣きまくって、何が元気なんだよ。説得力なさすぎだろ」
……。
返す言葉もなくて視線を逸らした。泣いたって何かが解決するわけじゃない。他人に弱みを握られるだけなのに、どうしてこんなにも泣いたりしたんだろう。
早くこの邪魔なものを取り払いたくて、涼は袖口で目元を擦った。ところが、それも准の手によって阻まれる。
「ストップ」
強く腕を掴まれ、それ以上動かせなかった。
「は、離してください」
「断る」
涼の意見を清々しく却下し、准は彼と距離を詰める。
久しぶりに身の危険を感じたが、彼の目的は別にあることに気付いた。