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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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三階建ての重厚な音楽学校の外観に、月子は圧倒されながらも岩崎達に続いた。


そして、階段を昇り、長い廊下を進んでいる。


どうやら二階に学生達の練習場所があるようで、確かに、さまざまな音が流れていた。


廊下の突き当たり。ガラス引き戸の教室らしき部屋が見える。


自習室と書かれた木札が掛かっていた。


岩崎が引き戸を開けて教室に踏み込んで行く。


中村も素知らぬ顔で入って行く。


月子は、流石に足を踏み入れるのを躊躇した。自分は部外者だ。お咲がいるとはいえ、玲子の件もある。


ひとまず様子を見るべきだろうと廊下の隅で佇んでいる。


手を繋ぐお咲も、どこか落ち着きがなかった。


教室からは、歌声、ピアノの音、何種類かの弦楽器の音が、賑やかに入り交じり漏れて来ていた。


楽曲とも何とも言えない不思議な調べが、ピタリとやんだ。


月子が何事かと思っていると、教室の中からざわめき声と、それを制する岩崎の声がする。


月子にもおおよそ見当はついた。


変更になった演奏会について、学生達が反発しているのだろう。


すると、


「お咲を!月子!お咲を連れて来てくれ!」


教室から岩崎の大声が響いて来る。


「は、はい!」


呼ばれ、あたふたしながら月子は教室の入口、引き戸に手をかけたが、果たして、本当に自分達が足を踏み入れても良いのかと恐ろしくなる。


それでも、岩崎の催促のような呼び声は止まらず、月子は意を決した。


「なんなの!!」


引き戸を開けたとたん、罵声に近い玲子の叫びがする。


瞬間、ひるんだ月子は、手を握っているお咲へ皆の視線が集まっていることに気が付いた。


「……説明した通り、今回の演奏会の後援者である岩崎男爵のご意向により、ご夫人と付き人との歌唱も加わる。ご夫人はご自宅で練習なされるが、付き人は、幼いため、場の空気に慣れることも含め私達と共に練習させようと思っている」


付き人、つまり、お咲の事なのだろうと察した月子だが、生徒達には、そこ、つまり、お咲が子どもだということが解せないようで、ヒソヒソ不満を言い合っている。


月子は、お咲の手をギュッと握った。


それで、好奇の目に晒されているお咲を守れる訳ではない。


しかし、教室の隅には玲子とその取り巻き達が陣取り、お咲どころか、岩崎へも、あきらかに嫌悪の視線を送っていた。


月子なりに、なんとかしなければと焦っていると、


「よーし!練習始めますか!」


重苦しい空気を破るように、中村がバイオリンを構え言った。


そして、お咲に向かってキィーキィー耳障りな音を出した。


「違うよー中村!桃太郎、そんなんじゃないー!」


お咲は、中村へ抗議する。


「おお!桃太郎だったな!そうだそうだ!」


ははっと笑いながら中村は、お咲の元へ歩みより、ゆっくりと弓を引く。


お咲も月子の手をはなし、中村の側へ行くと、どこで覚えたのか、あーーと、発声練習さながらの声を出し、大きく口を開け、桃太郎を唄い始めた。

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