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サイド トキ
今日はCD作りの打ち合わせがある。
昨日、誘拐事件があったから延期にするという話もあったみたいだけど、僕は無理を言ってやらせてもらった。
みんなには迷惑かけてばかりで申し訳ない。
周囲の人に気付かれないよう気配を殺して、打ち合わせ場に向かう。
「おはようございま……」
「トキ君!」
ただならぬ様子で走ってきたのは、いつも的確なアドバイスをくれる佐藤さんだ。
なにがあったも動じることのない彼が慌てるなんて……一体何があったんだろう。
「どうしたんですか?」
「逃げて!トキ君を傷害罪で逮捕させようとして、ネットにフェイク動画がアップされたんだ!それを見た警察が今、中に!!」
フェイク動画?
「それを嘘だって言えばいいんじゃ……」
「違う!!なんでかわからないけど、画像自体は加工していないことになっているんだ!!」
……え?
どうなってるんだ?
「とにかく!ここは僕らが時間を稼ぐから、ほとぼりが冷めるまで逃げるんだ!!」
佐藤さんの言葉に、僕は頷くしかなかった。
大通りを避け、気配を殺しながら路地裏の壁に寄りかかる。
スマホでその動画を見て、僕は深くため息を吐いた。
おそらく、この動画を作ったのはあいつ……母さんの上司で間違いないだろう。
そして、この動画……おそらく、昨日僕が気絶している間にとったんだろう。
この動画のカメラは固定されたもので、映っている人物も遠い。
側から見れば服と体格が似ているから、僕だと勘違いされてもおかしくない。
警察は僕のことを知らない。だから、仕方ないのだろう。
「…………とりあえず、家に帰ろう」
こうしている間にも、あいつが母さんを虐めているかもしれない。
今、僕ができることはそれくらいしかない。
「なんで捕まってねぇんだよォ?」
「っー?!」
なんで、ここにー?
勢いよく振り返ると、そこには見慣れてしまったあいつの姿があった。
「なっ……がっ……!」
次の瞬間、世界が回った。いや、僕が吹っ飛ばされたんだ。
「痛っ……」
「お前がいなくなれば、海美のこと可愛がれるのになァ」
……耳障りな声で母さんの名前を呼ばないでほしい。
怒りで頭の中が真っ白になる。腸が煮えくりかえる、とはまさにこのことだった。
「あんたは!どれだけ僕らを傷つけたら、気がすむんだ!」
「……ホントに、お前は目障りだなァ。お前さえいなければ……ァ、そうか」
動けない僕の首に、汚くて大きい手が伸びる。
そのまま地面に押し倒された。
……っ、息が…………。
「こうすれば、いいのかァ!」
意識が、朦朧とする。ひどい耳鳴りしか聞こえない。
抵抗出来るはずもなく、僕が死ぬ覚悟をしたそのとき、
バキンという大きな音がした。