テラーノベル
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竹之内の口から明かされた高浪との過去。弱い存在をいたぶって楽しむ、クズとして生きる事を生まれた時から宿命づけられた彼女を、赤沼はますます気に入ったようで。
「なるほど。ありがとうございます竹之内さん。僕のことも狙ってるって解釈で良いんですよね、高浪さん」
「うん。ただ死にたくはないけどね」
「僕は貴女と死にたいんですが」
「話しが合わない〜やだ〜」
「あの竹之内さん、普段の高浪さんってこんなに気が抜けた人なんですか」
「あぁ。間抜けだろ」
比較的敵対の意思を見せていた八木がいなくなるだけで、場の緊張感は失せていた。ただ一人話の輪に入れない水谷は口を開ける事すらできず黙って見ているだけしかできていない。
「あの、水谷さん」
「えっ。ひひゃっっはい!?」
ぼーっとして意識を手放そうとしている最中、赤沼に話しかけられた水谷は椅子から転げ落ちそうになるも持ちこたえた。
「貴女は紙幣偽造をしてたんですよね。なんでそんなことを?」
「え、えーあの、印刷に興味があって。悪いことだとは分かっていても、精巧な偽物を作っていって、本物と並べて比較するのが楽しくて……どんどん本物に近づいていくと嬉しくってしょうがなくて。見分けがつかないくらいのものを作った後、自販機やATMを騙せた時はもうすごく嬉しくて…………って、すみません小さな声で早口で!」
「謝る必要はないですよ」
「えっあ、ありがとうございます……」
休息のひとときは4人全員の癒しになった。炒飯の袋とスプーンを片付けたところで、イヤホンから音声が流れる。
『休憩は終わりだ。新たなゲームは、既に始まっている』
高浪、赤沼、竹之内の顔が強ばった。水谷は慌てるのみ。
『このレストラン内に“合鍵”を六つ隠した。合鍵にはそれぞれお前達の名前が記されている。制限時間内に全ての合鍵を見つけることに成功すればゲームクリア。しかし名前の記された鍵を見つけられなかった場合、イヤホンから高圧電流が流れ感電死する。自分の名前の鍵を持っていれば感電は免れる。そしてもうひとつのルール。自分以外の名前の鍵でも、2つ以上持っていればその場合でも感電は免れる。ゲームスタートだ』
説明が終わると、真っ先に竹之内が動き出す。今回の標的となっているのは彼だ。合鍵、マンション。
「散らばれ! ひとつでも鍵を見つけたら報告しろ」
「はーい」
「了解しました」
「は、はいぃ!」
四人はそれぞれ別方向に歩き出した。自分の名前の鍵を見つけるのがベストだが、他人のものでも良い。高浪は厨房、赤沼と竹之内と水谷は客席を担当。レストランの外にも出られるようにはなっていたが、今回のゲームははっきりと“レストラン内”と明言されている。
厨房内の冷蔵庫や引き出しを片っ端から開けていく高浪の動きは素早い。乱雑ではなくむしろ正確で、埃や油まみれの場所にも構わず手を突っ込んで鍵を探していた。
「お、あった」
鍋の中を覗くと一つの鍵を発見。しかし記された名前は“南 橙子”だった。既に死んでしまっている。
「ハズレ、でもないな。自分以外の鍵でも2つ持っていれば感電はされないはずだし」
客席を探していた赤沼と竹之内も、テーブルの足付近に落ちていた鍵を見つけた。赤沼が手にしたものは高浪の鍵。竹之内の方は水谷の鍵だ。
「高浪さんの鍵、見つけました」
「俺は水谷のを見つけた。おい水谷、お前の分の鍵があるぞ」
「ほ、ほんとですか!?」
転びそうになりながらも水谷が駆け寄ってきた。彼女もまた鍵を手に取っていた。
「わ、私も見つけたんですけど……八木さんのものです」
竹之内から自分の鍵を受け取ると、八木の名前が記された鍵を二人に見せた。と、ここで疑問が浮かびあがる。今の八木の立場はどうなっているのか。
「八木はまだ生きてはいるだろう。もし八木もゲームの対象になっているのなら、鍵を持たせないと死んでしまうな」
「な、なら早く渡しに行かないと!」
「行くならここの4人の鍵を全て見つけてからだ。鍵は6つと聞いた。きっと南の分もあるんだろう。例え4人のうち3人分の鍵しか見つからなかった場合でも、八木と南の鍵を持っていれば生き延びることができる」
八木は薬物の影響で錯乱中だ。自分の腕や足に虫の幻覚が見え、そこにいないのに掻きむしる。ああなってしまえば感電死しなくとも人として死んでしまうのも時間の問題。今は縄で縛ってはいるが、鍵は“持っている”事で感電を免れるという黒幕側の説明もある。発狂している八木が鍵を所持し続けていられる確証はない。
「探すぞ。まだ俺や赤沼の鍵が見つかっていない。八木を助けたければ探すんだ」
「う、うぅ……やらなきゃダメですよね」
見落としている場所が残っているかもしれない。そんな希望を胸に捜索を続けた。
「こっちで南さんの分の鍵は見つけたよ〜。だけど厨房にはもうなさそうだね。箒とか使って床も調べたけどゴミしか出てこない」
「分かった。高浪もこちらを手伝え」
厨房の捜索を終えた高浪が加わり、4人全員が客席を調べあげる。イスをひっくり返し裏に貼り付けられている事を期待したが的外れ。竹之内が赤沼に肩車をし、照明部分を探すと鍵が一つ見つかった。
「これは……僕のですね」
これで竹之内以外の鍵は出揃った。南と八木の鍵を竹之内が持っていれば八木は死んでしまうもののゲームはクリアだ。
「まだ続けるぞ。八木を死なせたくないんだろ? 水谷」
「は、はい……あの人は薬物を引き受けてくれましたし、私を信頼してくれてましたし。見捨てられません」
決死の捜索は続いた。ほとんどを探し尽くしたはずだが竹之内の鍵は見つかっていない。
『制限時間、残り5分』
唐突に残りの時間が告げられた。制限時間は今まで言及されていなかった。ギリギリまで隠す手法はいやらしい。
「……もう、諦めた方がいいんですかね」
今にも潰えてしまいそうなか細い声で水谷は呟いた。ここまで探しても見つからないのならば、最初から六つ目の鍵なんて存在していなかったのではないかと。そう感じてもいた。
「……鍵を八木に持っていけ」
「え……?」
薄い笑顔を浮かべた竹之内は八木の鍵を手渡した。自殺行為だ。これには高浪も動揺する。
「ちょっと待ってよタケさんどういうつもり? 死ぬつもりなの?」
「ルール説明の時、俺のイヤホンにだけ追加事項が流れた。『炒飯に竹之内の鍵が入っている』と」
「そんなの、食べる時に気がつかない?」
「“鍵”はなにも鍵の形をしているわけではなかったんだろう。俺達が今持っている鍵だって、どこかに挿してつかうものじゃない。持っていれば感電を防げるんだ。監視している人間が見て判断してるはずだ」
「なんで、黙ってたの」
後出しの情報が卑怯すぎるものだ。高浪は当然の疑問を零した。最初からその情報を話していれば水谷は諦めていた可能性もあったはず。
「……前々から思っていた。あのマンションと高浪。お前達は、俺の手には負えない存在になるだろうと。どんどん規模が膨れ上がっていったからな。おかげでこんなゲームに巻き込まれたかもしれないしな」
「だからって、死ぬ必要は……」
「俺の野望、この目で見れなかったことは残念だ。高浪……代わりに頼む」
「タケさん……答えになってないよ」
「…………元々長くはなかったんだ。俺の命は」
「まさか持病?」
無言で頷いた竹之内は椅子に座り、自分への呆れ笑い。
「病っていうのはいつ襲ってくるか分からない。俺のはもう治らないが、八木は治療できる可能性はまだ残っているだろう。水谷、早く行け」
「は、はい!」
残された時間は少ない。高浪は憂いの表情で竹之内を見つめた。水谷を引き止めず、最後の時間を共に過ごすと決めた。
「ねぇタケさん。ありがとね、今まで」
「珍しいな」
「ちょっと悲しいから」
「ちょっとだけか?」
「……ごめん。結構悲しい。いつかは別れが来るとは思ってたから、泣くほどじゃないけど」
「そうか。お前はせいぜい生き延びて、赤沼とよろしくやっていてくれ──」
次の瞬間、竹之内の身体に電流が走る。一度だけ大きな痙攣が起きた後、テーブルに頭から倒れた。
「持病のこと、私が気づいてないとでも思ってたの? ほんとタケさんって……バカ」
高浪の目元と眉が少しだけ下がった。背後から見ていた赤沼には彼女の表情がどんなものか、想像するしかなかった。
できれば、笑っていてほしい。そうしたらますます僕の好みだ。
しかし現実の高浪の口は一直線。父親代わりとして接してくれていた人間が目の前で殺されては、極悪人であれ悲しみはする。
「ねぇ悟くん。悟くんはさ、“このゲームを仕組んだ黒幕を始末する”って言ってたよね」
「はい。その後、僕は貴女と一緒に死にたいんです」
「私も、その“始末”に全力で挑みたくなってきちゃった。タケさんの野望には私も協力してたし、それが邪魔されたと思うと、殺意が湧いてきた」
低く、重い声で黒幕殺しの宣言。誘拐犯と放火犯。腕っ節は強くない。だがそれでも、この二人を前にすれば威圧感に押されるであろう。黒く大きなこの二つの意思に対抗できるのは、白い正義感を持った者でなければ難しい。
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