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それは、ずっと見てきた光景。

バスに乗り、目的地を楽しそうに待つ人、不安そうに手を握る人、緊張している人、嬉しそうに外を眺める人、色んな人が乗ってくれた。

このバスは特殊で、乗って来るのは一人や、同じ目的地の人。その人達を目的地の前まで送る、バス停に止まらない、珍しいバスだった。だからみんな、降りる時に『ありがとう』と言ってくれる。

俺はそれが大好きだった。急いでいて、バス停が目的地の近くにない時、みんなこのバスに乗ってくれる。そして最後に感謝をしてくれる、それが大好きだった。

でももうこのバスは動かない

燃料となる魔石は事故で壊れてしまったから。1つあれば一生持つと言われている魔石は、昔より遥かに高価になり、もう手を出せなかったから。

だからもう、やめ時なのだ。もう魔石は買えない、それに目的地の前まで行くならバスより小さい車で送ってくれるものがある。

必要ないのだ、このバスは


それでも、俺はこのバスが好きだ。例えそれが動かず、誰にも必要とされなくなったものだとしても。

手入れをしても動かなければボロくなっていくだけ。ほかのバスとは違い、黒く、傷のあるバス。



俺は久しぶりに車庫を開き、バスの中に乗った。懐かしい匂いと、懐かしい運転席。ハンドルを握れば手に馴染み、『ありがとう』と言われた記憶を思い出し、思わず涙が溢れそうになった


そんな時、乗車口からコンコン、とノックの音がした。俺は驚きで涙が引っ込み、上擦った声で「はい」と返事をした。

乗車口ボタンで開くことのない扉を手で開ける。そこに居たのは一人のお婆さんだった

「南方の海辺まで、お願いします」ゆったりとした声に、俺は首を横に振った

「申し訳ありません…このバスはもう動いていないんです」

「それに、ここは私の家の敷地内ですよ…?どうやって入ったんですか?」

お婆さんははて?と首を傾げた

「動かないのかい?どうしてかの…」

「えっと…燃料の魔石が壊れてしまったんです…なのでもう動かないんです」

俺だって、動くなら動かしたい。まだあの景色が見たい。自身の手を強く握り締めれば、お婆さんは手に持っていたバッグから取り出したものを俺へ見せた

「これがあれば動くかしら…?」

それは、魔石だった。

「え…?」

「?これじゃあ無かったかしら…?」

「い、いえ…それです」

お婆さんはあら、良かったと微笑み、はい。と俺へ魔石を渡した。驚いて受け取ってしまったが、こんな高価な物は貰えない

「い、いえ。こんな高価なもの…」

「あら、いいのよ。私は使わないもの。私は、貴方のバスに乗りたいわ」

真っ直ぐとした目で見られ、俺は頷いた。そうだ、お婆さんを送り届けたら返せばいいんだ。そう思い運転席のハンドル横にある空洞に魔石を嵌め込んだ。

ガコンと音を立て、魔石はピッタリと空洞に収まり、その瞬間バスのエンジンが掛かり、バス内の電気が灯る

俺は乗車席に置いておいた帽子を取り、頭に乗せてお婆さんに向き直る

帰路01きろ ぜろわんにご乗車、ありがとうございます。目的地はどうなされますか?」

お婆さんは杖を着き、ゆっくりと運転席の斜め後ろ、反対側へ座る。

「南方の海辺まで、お願いしますね」

「はい、では出発します」

久しぶりに乗車口ボタンを押し、自動で閉まる姿を見届け、長年動かなかった換気扇を回す。

そして、ハンドルを握りペダルを踏む。ゆっくりと動くバスに、じわりと涙が浮かぶ

人が乗っていることを思い出し、涙を拭いてしっかりと前を見る




また動けたね、俺の相棒



久しぶりに見るバスからの光景。俺は眺めながらバスを運転すれば、いつの間にかトンネルに入り、抜け、海辺へ辿り着いていた。ああ、もうすぐ終わる。







バスを開き、席から立ち上がったお婆さんへ取り出した魔石を渡す。受け取らず、首を傾げるお婆さんに俺も傾げた

「あの、これありがとうございました」

「どうして?いらないの?」

「え? 」

お婆さんはくすくすと笑った。

「ここで外したら、家に帰れなくなってしまいますよ?」

「でも…」

「それに貴方はまだ、このバスを運転したいでしょう?貴方の運転を見ていたら分かるわ」

お婆さんに差し出していた魔石の乗った手を、お婆さんは押して俺の胸へ当てた。

「貴方が貰ってくださいな。またいつか、貴方のバスに乗るわ。その時、どんな人に会ったのか、どんな場所に行ったのか、教えてくださいね」

お婆さんはゆっくりと歩き、バスを降りた。俺はバスの中からお婆さんの背中を見た

「ありがとうございます!」

身体を折り、お辞儀をする。お婆さんは手を振り、そのまま海辺へ歩いていった。




運転席へ座り、魔石を嵌め込む。エンジンの掛かったバスのボタンを押し、扉を閉めた。
















これは俺が、お婆さんのおかげでバスを再開し、色々な人と出会っていく、そんな話だ









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