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オゾンが放り込まれた牢獄は独房だった。牢じたいはかなり広く、他の房にはほかの囚人の姿もあるのだが、自分のいるところは自分だけである。さすがに用を足す手段は用意されており、そして翌朝らしきタイミングで、洗面器一杯分の水だけが牢の中に運ばれてきた。牢番は何人もおり、ほかの房の囚人たちには朝食が配られているようなのだが、オゾンのところには水しか運ばれてこない。
「あの……食い物は……? 俺の分は……?」
「ない」
その牢番の答えはにべもなかった。
「俺が何をしたっていうんだ。いや、仮に何かの間違いで俺があんたたちにとって犯罪者にあたる立場なのだとしてもだ、飯を食わせないのはゆるやかな処刑と同じだろ。なんか食わせてくれ。後生だから」
「お前はそもそも、囚人ではない。ほかに置いておく場所がないから牢屋に繋いでるだけで、お前の立場は『食用』だ。どうせ今日の夕方には闘技場行きになる」
「えぇ……」
オゾンはげっそりした。あんまりな言われようである。仕方がないので、じっと房の隅にうずくまり、何もせずに空腹に耐える。ちなみに毛布の用意すらもない。藁が積んであるからその上にいる。凍死の心配をするほど室内が寒くはない、ということだけが救いであった。そうして、どれだけひもじい思いに耐えたことか、気が付いたら昼飯の時間になったらしくほかの囚人たちにはパンやらスープやらが配られ始めた。もちろんそいつらの食事も粗末な内容ではあるのだが、朝から洗面器一杯分の水だけ、という立場に比べればなんぼかましなわけである。オゾンは羨望のまなざしでほかの房の囚人たちを眺める。カツ丼がふいになったおかげで、結局丸三日以上というものまったく食事らしい食事をしていない状態が続いているのである。恨めしいことこの上もない。
と、思っていたら。
「異世界のおっちゃん。オゾン、って言うんだって?」
「オゾンじゃなくてノゾムなんだが」
「ノゾンヌ?」
「いや、発音が難しいならオゾンでもいい……それより、何か?」
牢番たちの中でいちばん年の若そうな、見るからに見習いという風情の少年が、一切れのパンを、鉄格子ごしにオゾンに差し出した。
「同じ人間として、不憫でならねからさ。オゾン、食え。これ」
「あ、ありがとう」
オゾンは一切れのパンを押し頂き、それを口に含んだ。硬いパンではあったが、涙が出るほどうまかった。
「あんた。名は、なんという」
「おらか? おらは、ドロージ。見習い牢番のドロージだべ」
「ドロージ。礼を言う。礼を言わせてもらうよ。何度でも。何度でもだ」
「やめてけれ。照れるべさ。ほいじゃ、な。オゾン」
「あ、ああ」
ああ、人の情けが身に染みる。そう思って、オゾンはまた藁束の上に転がり、夕方というものが来るのを、待った。