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追憶の探偵

9 - 1-case09 猫探しの依頼

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2025年01月05日

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「――それでね、春ちゃん」

「あっ……」



他愛もない会話を(ぶっ通しで神津が喋りっぱなし)しながら事務所へ戻ると、事務所前に四十代半ばぐらいの男性が立っていることに気がついた。

もしかして、依頼人かと足を止めるとあちらも俺たちに気がついたのか駆け寄ってきた。



「明智さんですか?」

「はい、お……そうです。私が、明智探偵事務所所長の、明智春です」

「そうでしたか、よかった」



と、胸をなで下ろす男性。見覚えのない顔だったため、新規の依頼人かと俺は頭を下げる。


俺、といってしまいそうになって慌てて「私」と訂正する。口が悪い自覚がある為、こういうしゃべり方にはなれていない。 それよりも、依頼者を待たせてしまったことに罪悪感を感じている。



「立ち話も何ですから、どうぞ中へ。話は中で伺います」

「はい、お願いします」



依頼人はぺこりと頭を下げて、俺の後に続いて探偵事務所に入る。



「どうぞおかけになってください」



と、俺は依頼人を促しながら自分の席に座る。すると、スッと後ろに神津がやってきて耳打ちをする。



「春ちゃん、僕お茶入れてくるね」

「おう、ありがとな」



神津はふわりと笑って別室にあるキッチンへと向かっていった。

そして、俺も依頼人に向き直って改めて挨拶をした。



「改めまして、私はこの明智探偵事務所所長の明智春と申します。今回はどのような依頼で?」



と、尋ねると、依頼人の男性は胸ポケットから折りたたまれた写真をとりだした。



「うちの猫を探して欲しくて」

「猫ですか……?」



またか、と思いつつ、写真に目を移せばそこには黒い毛並みの猫とそれを抱きかかえる少女がうつっていた。



「娘さんですか?」

「はい、一人娘でして」



そう照れくさそうに依頼人の男は笑う。

娘という割には似ていないななどと、依頼人の男と写真に写る少女を見た。依頼人の男は目尻が垂れ下がっており優しい印象を受けるが、写真に写る気の強いこと言う印象を受けた気の強いという印象を受けた。それと、とても猫を抱いていると思えない表情をしている。だが、男の言葉に偽りはないのだろうとそこには突っ込まないことにした。



「家族のように接してきた猫なんですが、ああ、名前はマモっていいます。逃げ出してしまって。その事で娘は落ち込んでしまって」



依頼人の男は悲しげに目を伏せた。

俺は、なるほどと相槌を打ちながら依頼書を取り出した。

猫探しの依頼はよく受ける。今年で何件目か数えるのも面倒くさくなってきた。ペットを飼うと逃げ出したり、家出したりするケースも多いため、飼い主からよく依頼が来るのだ。たまに犬。

俺は、依頼書にサインをしてもらいながらもう少し詳しく話を聞くことにした。



(|安護《あご》……変わった苗字だな)



依頼人の苗字はかなり珍しく、名前より苗字の方が際立っていた。そうしている間に、神津が戻ってきて依頼人と俺にお茶を出す。



「ありがとな、神津」



そう俺が彼の名前を呼べば、依頼人は何かに気がついたかのように神津さん? と首を傾げた。



「もしかして、神津きょうさんでいらっしゃいますか?」



と、少し前のめりになって聞く依頼人に、神津はキョトンとしつつも、えぇ、そうですよ。と肯定する。


神津はプロのピアニストとして有名で最年少で有名な大会にも出たことがあった為知っている人も多いだろう。それに、探偵としても俺よりか有名で。まあそんな有名な探偵がこんな猫探しの依頼ぐらいしか来ない探偵事務所にいたら驚くだろうと。



「矢っ張り。一回、生で神津さんの演奏を聴きに行ったことがあって……」

「そうだったんですか。ありがとうございます」



そう言って神津はニッコリ微笑む。それを見て、依頼人は興奮気味に話し出した。

俺はそれを眺めつつ、依頼書に視線を落とす。依頼内容は大体いつも通り。いなくなった猫を見つけて欲しいという内容だ。何かの間違いで殺人事件の――などと書いていないかと思ったが勿論書いてあるわけがなかった。

依頼人と神津の会話を盗み聞いていれば、依頼人は神津の事を|神津恭《かみづきょう》と呼ぶことに気がついた。彼の芸名なのだろうか、神津の下の名前は「きょう」ではなく「ゆき」なのだ。よく間違えられるといっていたが、彼は表むきでは「きょう」と名乗っているらしい。本人曰く、探偵としての偽名とか……偽名にもなっていないだろうと突っ込みたくなるものではあったが、本当の理由を聞けば「春ちゃんにしか名前呼ばれたくないから」だそうだ。といっても俺が彼奴のことを下の名前で呼ぶことなどあまりないが。



「それで、神津さんは何故ピアノをやめたんですか?」



と、依頼人は彼の触れてはいけない内容を口にした。

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