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折西が昴のもとに運ばれた翌日。
昼頃にようやく折西は意識を取り戻した。
仕事を放り出して食事に行っていたため昴に
どんな暴言を吐かれるかとヒヤヒヤしていたが
意外にも昴は淡々と処置をした後、
憐れむような目でベッドにいる折西を
見下すだけだった。
折西は耳をそっと触り、あー、と声を出す。
どうやら聞こえているようだ。
「…耳、ちゃんと聞こえるように
なってます…!」
「やったね融くん!!!昴くんって
パワハラだけが仕事じゃなかったんだね!」
お姉さんは昴を貶しているのか
褒めているのかはよく分からないが
治って安心しているようだった。
昴からは安静にしておけ、と言っていた。
明日まではここでベッド生活らしい。
これ以上昴の神経を逆撫でするのも嫌なので
大人しくまたベッドに入った。
・・・
真夜中の1時、折西はバチッと目が覚めた。
流石にずっと寝っぱなしだと
変な時間に起きるものだ。
「…体も軽くなってますし御手洗に。」
そう言うと折西は昴のデスク前をちらりと見る。
奇跡的に昴はPC前で仮眠を取っている。
折西は昴を起こさないようにトイレへと
向かうのだった。
・・・
折西が用を足し、満足気な顔で
トイレから出ると嗚咽のような声が微かに
聞こえた。
折西はそっと音の先へ向かうと
東尾の部屋に辿り向いた。
珍しいことに鍵を閉める癖のある東尾が
鍵を開けている。
それに加えて扉が少し半開きになっていた。
そっと中を覗くと洗面台に突っ伏して
ごめんなさいを繰り返し、過呼吸になっていた
東尾がいた。
折西は思わず部屋に入り、
東尾の背中をさする。
「東尾さん。大丈夫です、大丈夫ですからね。
呼吸は慌てて整えなくて大丈夫です…!
出来なくても大丈夫なのでゆっくり息を
吐くことを意識して…」
前の職場でパニックになった時に
助けてくれた同僚の言葉を思い出しながら
東尾に深呼吸するよう伝える。
最初こそは呼吸が上手く出来なかったものの
徐々に息が整うようになってきた東尾を
そっとベッドに座らせる。
「ごめんなさい。」
東尾は顔を俯かせたままだ。
「僕は大丈夫です…落ち着きましたか?」
「ええ、大分落ち着きました。
申し訳ありません…意識を取り戻したと
昴から聞いたのにお見舞いに行けなくて…」
「外に出れないくらい辛い時って
ありますもんね…あれ、エモさんは?」
折西は周りを見渡す。
しかしエモらしき本はどこにもいなかった。
「…エモは一時的に契約を停止して
いるんです。1時間だけですが…」
「えっ、契約を停止って出来るんですか?」
「全てのファージができるとは限りませんが
エモが言うには現時点では一日のうち
数時間くらい停止が出来るみたいです。」
現時点では、と言うと真契約後には
また変わってくるのだろうか?と
折西は考えた。
「…それにしてもどうして契約を
停止してるんですか?」
「ここに来た時から意図的に
やっている事なんです。」
契約停止、ということは普段吸収されている
代償である感情が一気に脳内に
押し寄せてくるということだ。
それを意図的に、となるとかなり苦しい筈だ。
「こんなに辛いことをどうして…」
「人は感情がなければ生きやすくなると
言うでしょう?実際それは正しい事です。」
「…けれども自分が罪を犯したのなら、
償う必要があります…罪悪感や後悔の
苦しみを、感情を、忘れてはいけないんです。」
東尾は拳を強く握る。
その手にはいつもの手袋はなく
両手は古い火傷跡のようなものがあった。
「…!」
薄々勘づいていたがもしかしたら…
折西がとあることに気がつくとお姉さんが
隣にぱっと現れた。
「融くん、東尾くんって…」
「…」
折西は何も言えなかった。
「…すみませんね、折西さんに怪我を
負わせた上に長々とお話してしまいました。」
東尾は立ち上がる。
そしてフッと現れたエモが東尾に取り憑いた。
「この事はどうかご内密に。」
またあの不気味な笑みに戻り、
折西さんは病み上がりですのでお早めに
休んでください。と東尾は折西を部屋から
やんわりと出したのだった。