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【水縹と紫苑の行く末】
nk×sm 死ネタ含む
ちょっとだけ辺りを散策してみて、分かったことがいくつかある
①俺は誰からも認識されていないし、声も聞こえない
②ありとあらゆるものをすり抜けることができる
③宙に浮かんで自由に移動することもできる
この状況を総合的に見たとき、俺は俗に言う「幽霊」なのだろう。
空を飛ぶ体験をこの生涯ですることができるだなんて夢にも思わなかった。もう死んでるけど。
しかし、こうなった原因がよくわからない。別に俺自身はこうなることを望んではいなかったはずだ。そもそも、なぜこのタイミングでこの姿?になったのだろう。こういうやつのセオリーは現世に未練があったとか何とかだ。でも、俺の記憶は死ぬ直前までしかないから本当のところは分からない。
というか、この湿っぽい空気の葬儀場はちょっと嫌だ。
俺はふわりと宙に浮き、葬儀場を飛び出した
「うわ、やっば!」
空から街を眺めながら、行く宛もなく移動する。上空から見るとまるでジオラマ模型のようで面白い。ふと目”ある場所”が目に入る。興味本位でそこに降り立ってみた。
そこは、あの交通事故の現場だった。ガードレールが曲がり、民家の塀が崩れている。電柱の下には花や飲み物、菓子が供えられていた。
なんとも言えない気分になる。これは故人を偲ぶために供えられたもので、その故人とは自分自身なのだから。
ゆっくりと歩き、道路の真ん中まで出る。両手を広げ、空を仰ぐ。目の前からまたトラクターが走ってきた。反射で目を瞑るも、エンジン音が駆け抜けるだけで自分の体には傷一つない。
手のひらを太陽にかざしても、その手が陽の光を遮ることはなかった。
「オレ……死んだんだな……」
急に実感が込み上げてきて、泣きそうになる。それでも、実体のないこの体から涙が溢れることはなかった。小さな呟きは空気に溶けた。
「家に、帰ろっかな……」
またふわりと浮き上がったけど、すぐ降り立つ。周りの景色を眺めながら、家までの道を進んだ。
数十分ほど歩くと、家が見えてきた。毎日過ごしていた家だ。
当たり前のように鍵がかかっているが、この体にそれは意味を成さない。するりとすり抜けてしまった。
そこに広がるのは、毎日見ていた光景だった。リビングもキッチンも、最後に見た時と同じような形で残されている。
階段を登り、自室の扉を開ける。そこもまた、大きな変わりなく残されていた。物の配置が少しだけ変わっている気がする。家族の誰かが入ったのだろうか。
少し散らかっているけど、一番落ち着く場所だ。
ごろりとベッドに寝転ぶ。この体は疲れを感じなさそうだけど、精神的なものは別だ。なんだか、すごく疲れている。スマホが無いから暇をつぶすのが難しい。特に眠かった訳ではないけど、瞼を閉じた。