テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
〝パーティーめちゃくちゃ事件〟は今も語り継がれ、関係者の脳裏に刻まれている。
あの時に何が起こったのか、誰が犯人なのかは公表されなかったけれど、泣いたタイミングで周囲の物が破壊されたので、私を疑う人は大勢いる。
勿論、アルフォンス様は何が起こったのかご存知だし、陛下にもお伝えした上で不問に処してくださった。
シャレット聖王国の面子を守るためにも、『突風が吹き荒れた』という事にしてくれている。
二度と同じ失態は起こせないと思った私は、徹底的にインビジブルハンドをコントロールする事に力を注いだ。
貴族たちからは相変わらず『無能の〝ハズレ姫〟』と冷笑されているけれど、城下町では割と歓迎されている。
慰問先で演奏すると喜ばれるし、城下町のパトロールがてら、大工が落とした釘を拾ってあげたり、高い所に上って降りられなくなった猫ちゃんを助けたりもした。
路地の間に張られた洗濯紐を直してあげたり、仲よくなった鍛冶師に誘われて剣を打った事もあった。
火事が起こった時は水魔術を使える人に肩に触れてもらい、インビジブルハンドを通して鎮火を手伝い、収まったあとは熱い瓦礫の片づけもした。
興味のある所にヒョッコリ現れては手伝いをするので、私は城下町で都合のいいお手伝…………、人気者になっていた。
**
毎日のんびり穏やかに過ごせていればいいのだけれど、やっぱり私は王族の端くれだ。
舞踏会や晩餐会が開かれると言われれば、いつものように青いドレスを纏って参加しなければならない。
けれど悪い事ばかりでもなく、ときどきアルフォンス様にお会いできる。
次に彼にまみえたのは、隣国が建国百年を迎える記念式典だった。
彼は歳を重ねるに従って凜々しさを増し、男性らしくなっていった。
私が十四歳、彼が二十三歳になった当時は、すれ違った女性がうっとりと頬を染めて振り向くような美丈夫になっていた。
銀髪かと見まごうプラチナブロンドに、瞳孔が際立つアクアマリンのような薄いブルーアイ。
長身なのは言うまでもなく、騎士たちに混じって鍛えた体はがっしりしている。
彼が視線を向けるだけで令嬢たちが黄色い悲鳴を上げ、聞こえてくる噂だと、失神する人まで出たとか。物凄い威力だ。
私は五歳の時からずっとアルフォンス様を想い、出会った当時は〝頼れるお兄様〟と思っていたけれど、その気持ちは恋心へと育っている。
彼は私が可哀想な子供だから気にしてくれたのではなく、成長した今も文通が続いている。
でもレティがそれを知らないはずがない。
彼女がアルフォンス様を好きかは分からないけれど、聖女として周囲から大切にされた彼女は、自分を〝誰からも愛されるべき存在〟と思っている。
いやみで言っているのではなく、当たり前に愛された人はそう思うものだ。
だからなのか、レティは私に対抗するようにアルフォンス様に話しかけていた。
今、私はレティが彼と親しく話しているのを側で見守っている。
彼女は表情豊かに話し、鈴が転がるような軽やかな声で笑う。
レティの会話の引き出しは多く、世界各国で見聞したものや某国での流行など、とにかく世界中の事に詳しい。
普段、城下町で活動している私は、小麦が値上がりしたからパンも高くなったとか、最近王都の西側で火事が多いなどの話題しか提供できない。
そのお陰で、早く鎮火の手伝いができたり、放火の犯人を捕らえたりもできたのだけれど。
(会話に花が咲いてるわ……)
私は二人の雰囲気合わせて微笑みを浮かべつつ、気づかれないように溜め息をつく。
レティは聖女として華々しく活躍し、アルフォンス様も皇太子殿下として立派にお務めを果たし、各国からの評判もいい。
周囲からは『お似合いね』と囁き合う声が聞こえ、落ち込んでしまう。
(……私はしょせん〝ハズレ姫〟なのよね)
溜め息をついた私はこの場から離れようと思い、お腹が痛い演技をする。
『んっ……』
声を漏らしたからか、レティが『どうしたの?』と尋ねてくる。
『ごめんなさい、ちょっとお腹が痛くなったので、離れた所で休んでいるわ』
『そう? 気をつけてね』
『ありがとう。アルフォンス様、お話の途中に申し訳ございません』
そう言って立ち去ろうとしたのだけれど、――思いも寄らない事が起こった。
『フェリ』
アルフォンス様は私を愛称呼びし、レティに『失礼』と断ってから歩み寄ってくる。
『大丈夫か?』
周囲の人は皇太子殿下が聖女より〝じゃないほう〟を選んだ事にざわついていた。
レティは強張った顔をしてこちらを見ていて、私は『まずい』と顔を引きつらせる。
『……だ、大丈夫です。新鮮な空気を吸って静かにしていれば収まると思うので、お気にせず』
苦し紛れにの言い訳をするけれど、彼は私の背中に手を当てて一緒に歩き始めた。
『気分が良くなるまで一緒にいよう』
『いえ! 一人で平気です』
(あなたが一緒だと、レティの機嫌が悪くなるんです~!)
そんな事、口が裂けても言えず、私はふつふつと冷や汗を浮かべる。
『一国の王女を一人になどできない』
彼はとても真剣な顔をしていて、『お腹が痛いのは嘘です』なんて言えない雰囲気だ。
(どうしよう……)
チラッとレティを見ると、彼女はあきらかに苛立った表情をしていた。
その顔を見た私は、つい言い訳をしたくなる。
――あなたを傷つけようとした訳じゃないの。
――あなたに敵意はないから、心配しないで。
双子だというのに、私はいつもレティより〝下〟に位置づけられているので、何かがあると過剰なまでに彼女の機嫌をとろうとする癖を持っていた。
『行こう、フェリ』
けれどアルフォンス様はそう言い、私の手を握るとボールルームを突っ切って歩いていく。
(……あとでレティに謝らないと)
アルフォンス様に選ばれて嬉しいはずなのに、とても複雑な気持ちになってしまった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
273
17