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あの日から2日後、
今日は美術の授業がある。
小六の一学期の恋が、多分わたしの最後の恋。
こんなに毎日が楽しいのは、
小学校を卒業してから初めてである。
友達と隣に並んで、今日は一番乗りの美術室。
「おねがいしまーす」
と、作業みたいに挨拶。
中村は基本くせ強な先生である。
加えて人見知りもあるらしく、一言でいうと取っ付きにくい先生なのだ。
ギャグのセンスもよく分からなく、ボケよりツッコミの方がおもしろい。
あんなに優しくされなきゃ、絶対絶対、好きになってなかった。
中村は好きでも、美術の授業は嫌い。
昔から手先が器用じゃなかった私は、
なんだかんだ色々苦労した。
絵は少しだけ好きで書いていたけど
今はもうー。
今の単元は、自画像である。
1番嫌いまである。
私は自己表現も苦手だ。
なんでこんなこと、義務教育でさせるんだろう。
この単元では、<私が知ってる私>を表現する。
みんながまだ知らないであろう自分の人格を絵で表現する。
ーそんなの、誰も見ない
中村先生は怒らせたら長いので、 普段うるさい問題児も美術の時間は比較的静かだ。
しんとした美術室がすこし蒸し暑くなる。
もうすぐ5月、気温が上がってくる頃。
また、もうすぐ「体育祭」。
「運動会」はもうやってこない。
ふと、後悔に駆られる。
どうしようもないことである。
過去に戻れたらと、何度も思う。
でも、
私が過去に戻って、なにかを変えたら、
昨日の中村先生は見れなかったんだろうか。
そう思えば、
今日を一生懸命生きられる気がする。
毎日を、一日一日を
前よりすこし、丁寧に。
美術の授業が終わり、みんながぞろぞろと教室に帰り始める。
波に乗る寸前を、中村先生に呼び止められた。
「木の絵どうする?今日もやる?」
「先生が、構わなければ…」
「今日美術部も休みだから、時間とれるよ」
「じゃあ、やります」
「そしたら帰りの会終わったら1-4来てね」
「はい。」
中村先生は私たちの隣のクラス。
なので、度々姿を見かける。ありがたい。
ー放課後
1-4の教室からも人がどっと出てきて、圧倒された。
中村先生の姿は人で見えず、ドアから 教室を覗くしかできない。
どうしていいか分からず困っていると、
急に声をかけられた。
「誰か呼ぶ?」
ビクッと体が震える。
「あっ、えと、中村先生居ますか、!?」
どうしようもなくコミュ障で、はずかしい。
「いるいる!せんせぇえーーーー!!!」
そのハツラツさやテンションの高さ、声の大きさに萎縮していると、中村先生が出てきた。
「うしっ、行こうか」
「あっ…はい!」
スタスタと歩いていく中村先生に食らいつく。
眺めれるうちに、先生の背中をじっと見つめる。
ーなんでこんなに、かっこいいんだろう
しばらくそうしていたら、いきなり先生が振り向いてきた。
さっきみたいに、ビクッと体が震える。
先生は、表情ひとつ変えずまた前を向いた。
やっぱりよく分からない人だなあ、と思った。
そこも好きだ、とも思った。
木の下に着くと、いい感じに木陰になっている。
一昨日よりは弱く、ふわっと撫でる風が通り過ぎていく。
5月が、春が、 大好きだった。
新鮮で、あたたかくて、居心地がいい感じが。
変化も、非日常も、少し前までは愛していた。
今は、不変や、生活が好き。
自分が知らない自分というものも、またある。
<私が知っている私>が、ただ自分の前頭葉が映す虚像だとしたら、本当の私というものは誰が知ることが出来るんだろうか。
そう考えてるうちに、未来が見えなくなっていく気がする。
最近は、それが怖い。
パレットにオレンジと、赤と白、青を出す。
水をたっぷりふくませた筆で、薄く繰り広げる。
「上手だね」
「そんなことないです」
「褒められるのきらい?」
「当たりです。」
「って、こわいわ!なんで当てられるの?」
「なんとなく。」
「やっぱり、先生ってよく分からない人ですね…」
「よく言われる」
言い返すように、中村も言う。
「それ言ったら、俺薗田さんの方がよく分かんないけどね 」
「いやあ自分、分かりやすいほうだと自分では思うんですけどね」
「いや、全く。
全然本音が見えないから、心配」
心配してくれるのは、素直に嬉しい。
「心配しないで大丈夫ですよ。あたし、脳内お花畑なので。」
けらけら笑いながら言うけど、中村先生はやっぱり、表情ひとつ変えない。
冗談めかして、「ここ笑うとこですよ」って言う。
少しだけ、間が空く。
空気がおかしくなる。
何?なになになに?
気に障ること、言っちゃったのかな
なんか失言しちゃったかな
言わない方が良かったかな
前頭葉がぐるぐるぐるぐる、 気を失いそうなほど働く。
それを塞き止めるように先生が口を開く。
「…あのさ、傷付かないでほしいんだけどさ」
その切り出し方は絶対少し酷いことを言われる気がする!
身を乗り出して、心を防衛体制にする。
どんな言葉が来ても大丈夫なように。
いつものように。
「なんか、薗田さんの冗談めかして言う感じ が、全部、演じてるみたいに見える 」
「…はい、?」
「いや、あのなんかね、他の人が見る薗田さんって言う人物を、全部全部、打算で作ってる感じがする」
「…打算、」
「いや、みんなやりがちだと思うんだけど、
薗田さんのはなんか、演じることで、冗談を言うことで、自分の心を守ってる感じがする」
「私がずっと演技してるってこと?」
「そう、見える
変なこと言ってごめんね」
「いやいや、そんなわけないでしょ!
そんな器用なこと私できないし」
「…ほんとに?」
「ほんとに」
「…あ、うそだ」
「ほんとに」
「絶対絶対嘘だよ」
「何を根拠に?」
「…だって」
「泣いてるじゃん」
いや私、また?
第二話 fin.