別動隊が無事に陣地を突破したのを見たカサンドラは、自らの策が成功したことを確信した。彼ら騎兵隊に待ち受ける運命など露知らず、目の前の因縁ある女を嘲笑う。
「お馬鹿さん、見たかい?今頃町は大変なことになってるだろうねぇ?アンタはなぁんにも護れないんだ。辛いねぇ?エレノア」
「だったらどうしたってんだ!てめえを殺ってアイツらを始末すれば済む話だよ!」
気焔を上げるエレノアだったが、衣服の大半を切り裂かれてほとんど下着姿になっていた。
完全にカサンドラに遊ばれており、二人の力量の差が顕著に現れていた。
「威勢が良いねぇ、ここで詫びるなら素っ裸に剥くのを勘弁してあげたんだけど、ねぇ!」
再びカサンドラが踏み込んで高速の突きを放つ。エレノアはなんとか反応して左手のカトラスで受け流し、右手のカトラスを薙ぎ払うように振るうが、身を屈めたカサンドラはそれを容易く回避して、受け流された姿勢のまま剣を振り上げる。
カサンドラの剣に切っ先はエレノアの肌を傷つけることなく胸に巻かれたサラシを切り裂き、その豊かな胸を露出させる。
「てっ、てめえ!」
流石のエレノアも羞恥心から片手で胸を隠す。切り抜けて振り向いたカサンドラは笑みを深めた。
「へぇ、胸だけは負けのようだね。ほらどうする?次は下だよ。そうすれば素っ裸だ。詫びを入れるなら今のうちだよ?」
「ふざけんな!誰がてめえ何かに詫びを入れるか!」
吠えるエレノアではあるが、双方の力量の差に内心戦慄していた。もちろん『暁』に来てからも鍛練を怠ったことはないが、目の前の女には遠く及ばないことを示されたのだ。
現に自分は無傷のままほぼ全裸になるまで剥かれ、対するカサンドラには一切の攻撃が届かない。
「残念だよ、もう少し賢いと思ってたんだけどねぇ?それなら……望み通りに剥いてあげるよ!」
雨で泥濘む大地をものともせずに踏み込むカサンドラに、エレノアは身構えるが。
突如として戦場に凄まじい銃声が鳴り響く。カサンドラは咄嗟に身を引き、周囲を素早く見渡す。
乱戦から離脱して後方へ下がり身体を休めていた数人の傭兵達が血を吹き出しながら倒れるのを見たカサンドラは、時間切れを確信するに至る。
そしてエレノアは銃声が響いた場所に眼を向けて、そして安堵の表情を浮かべた。
ごきげんよう、町の反対側までは駆け抜けたシャーリィ=アーキハクトです。泥だらけになってる私は、誰がどう見ても貴族令嬢だとは思われないでしょうね。
直ぐに動ける人員を率いて東部陣地へ馳せ参じ、威嚇の意味も込めて後方へ退避していた傭兵達へ銃撃を加えましたが、予想以上の効果を発揮したみたいです。味方と乱戦状態になっていた敵は明らかに浮き足立っています。
一部の敵が陣地を突破したようですが、アスカから問題ないとの信号弾が上がりましたので目の前の敵を殲滅すればこの戦いは終わりです。
「総員突撃!この戦いを勝利で締め括るのだ!」
ダンさんの号令で歩兵隊が銃剣突撃を敢行。後は任せて大丈夫だと判断した私は、乱戦の真ん中で敵大将と対峙しているエレノアさんのところへ駆けつけました。
「シャーリィちゃん!?」
「エレノアさん、随分と魅力的な姿をしていますね」
何せパンツ以外何も身に付けていないんですから。海での生活が長いはずなのに日焼けを知らない真っ白な肌に抜群のスタイル。お胸さまもまた抜群と来ました。肩凝らないのかな?経験なんてありませんけど。
「おやぁ?誰かと思えば『暁』のお嬢ちゃんじゃないか。逃げてきたのかい?」
相手は……確か、リューガの側に居た人でしたね。
「残念ですが、逆です。リューガは死にましたよ。『血塗られた戦旗』本隊は総崩れとなって敗走、現在追撃戦の最中です」
「勝った!?流石シャーリィちゃんだ」
「……そんな戯言を信じろって言うのかい?」
「信じるかどうかは貴女次第ですが、私がそれなりの戦力を率いてここに現れた時点である程度の説得力があると思いますが」
逃げるにしてもわざわざ東部陣地に来たりしませんからね。
私の言葉を聞いて、敵は顔を歪めました。
「あと、陣地を突破した人間についても既に処理を済ませています。つまり貴女は孤立無援。周りを見てください」
援軍も加わったことで敵の傭兵は次々と討たれ、逆に味方は雄叫びをあげています。
ただ、無傷とはいきませんか。何人か倒れている人が見えました。また大切なものがたくさん失われた。私に、私達に力がないから起きた結果です。
もっと強く、更なる力を。復讐を果たすため、そして大切なものを護るために。
「なるほどねぇ……こりゃあ分が悪そうだ。まさか一千近く用意して負けるなんてね。最近の噂もお嬢ちゃんの仕業かい?」
「答える必要を感じませんが、良いように踊ってくれたことに感謝します」
慎重な策士が居たら危なかった。いや、レイミからの報告にあった少女とスネーク・アイが参加していませんでした。或いは見抜かれたか。まだ脅威は残っていますね。
「わかった、降参するよ。こう見えて腕っぷしには自信があってね。雇わないかい?」
武器を捨てて降伏してきました。いや、自分を売り込んできましたね。傭兵らしいと言えますが。
「なに言ってやがんだい!?そんな提案呑めるわけ無いだろ!?」
「そうかい?アタシは傭兵にも顔が利く。兵隊を集めるのも簡単だ。始末するより利益があると思うんだけどねぇ?」
兵隊を集めるのが得意ですか。それに実力もある。普通なら採用するところですが。
「エレノアさん、彼女と因縁があると聞きましたが?」
「私とロメオの眼を抉った張本人さ!この女は私の眼を抉る代わりに見逃すと言って、ロメオの目まで抉りやがったんだ!」
「若気の至りさ、勘弁しておくれよ。それに、今は未来の話をしようじゃないか」
「なんだと!?」
私と出会う前の話ではありますが、容赦の無さと残虐性については興味が出ました。
エレノアさん達と出会う前だったら私は彼女を採用したかもしれません。
「エレノアさん、敵討ちに拘りはありますか?」
「無いよ、この女が死ぬのを見れるならね!」
「過去のことに拘って利益を捨てるような真似をしないと信じているよ。後悔はさせない」
右手を差し出してきたので、私も手を差し出します。
「お名前は?」
「カサンドラだ」
「シャーリィちゃん!?」
「そうですか。カサンドラさん、これが答えです」
私は握っていた勇者の剣に魔力を流して起動。光の刃が彼女の胸を貫くのを見ながら……嗚呼、駄目ですね。自分が笑顔を浮かべているのを自覚しながら目を見開く彼女を見つめるのでした。
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