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駅前のタワマンに引っ越してきた、元カレ・園原将嗣。
ヤツに会う心配をして、数日タワマンには近づかずに過ごしてきた。
でも、よくよく考えれば歯科医院の勤務医である将嗣の休みは、木・日曜日だったはず。それを避けた曜日の日中に買い物へ行けば、仕事をしているヤツにばったり出会うこともないだろう。
そして、今日はスーパーで水曜日のお客様感謝デーとドラックストアのポイントアップが重なる日。
こんなお得情報を逃すわけには行かないのだ。
いざ出陣!
タワマンの駐車場に車を入れ、美優をショッピングカートに乗せて店内に。
さすが、感謝デーとポイントアップが重なる日とあって人が多い。
だが、この戦いに負ける訳には行かないのだ。
先ずは、ドラックストアを目指しカートを走らせる。
カートの下の段にオムツの大パック2個を乗せ、上の段へおしりふきトイレに流せる用3個1パックを放り込む、後はテッシュペーパーとトイレットペーパー・シャンプーリンス。離乳食などの赤ちゃん用品も選ぶと、カートは既にいっぱいだ。
娘が飽きて泣きださないうちに素早い行動が求められる。しかし、レジに行けば大行列だ。
ここは、上手く美優をあやしながら並ぶしかない。しかし、並んだレジの行列はなかなか進まず、おやつの赤ちゃん用おせんべいで誤魔化すのもそろそろ限界かもしれない。
ああ、お願いだから泣かないで!
どんどん不機嫌になってぐずり始めた美優にハラハラしている時だった。
「夏希、また会えたな」
っと、不意に声を掛けてきたのは、元カレの園原将嗣だ。
よりにもよって、逃げられない、このタイミングで……。
「チッ!」心の中で舌打ちをした。
美優がフニャフニャ言い出した。
万事休すの状態にフッと名案を思いつく。
お財布から一万円札とポイントカードを取り出し、元カレ将嗣にカートを押し付けた。
「ごめん、これでレジ精算して置いてね。私、この子が泣きそうだから表のベンチで待っているわ。よろしく」
美優を抱えて、ドラッグストアの外へ逃げ出す。
「おいっ、夏希!」
呼ばれても聞こえないふりをして、店外へ急ぐ。
少なくとも将嗣は、お金を持ち逃げしたりカートを放置する人間ではないから、お会計を終えるのをベンチで待つ作戦だ。
買い物も出来て、将嗣との会話も避けられ一石二鳥。
人の熱気で熱くなったドラッグストアの店内から出ると、ホッとする。
美優のほっぺたも赤くなって、かわいそうな事をしてしまった。
適温に保たれたビルの中のベンチに座り、一息ついていると、なんで平日の水曜日に将嗣が現れたのか気に掛かる。
暫くするとドラックストアの店内から、会計を終えた将嗣がやってくる。
雑用をいきなり押し付けられたにもかかわらず、何故か満面の笑みを浮かべていた。
こわっ! 意味がわからない。
「夏希、買ってきたぞ。凄い量だな。はい、これ」
将嗣は、そう言いながら、預けた一万円札とポイントカードを渡してきた。
「あなたに日用品を買ってもらう事は出来ない。なんで、渡したお金で払ってくれなかったの!」
「レジも混んでいたしな、カードの方が便利だろう? たいした金額じゃないし気にするなよ。荷物いっぱいだろう? 家まで送るよ」
仮にも元カレ、家の場所を知っているんだった。
「自分の車で来ているから、送って貰わなくても大丈夫」
「じゃあ、車まで荷物を運ぶよ」
本当は、将嗣にさっさとお金を払い逃げ出したいが、実際問題、この日用品の山を運んで貰えたらどんなに楽だろう。
くっ!
この提案は、甘んじて受け入れるしかない。
「……お願いします」
地下駐車場へと続くエレベーターのスイッチを押すと、扉がスッと開き乗り込んだ。
混んでいる日にも関わらず、エレベーターの中は私達だけだった。
サイアク!
案の定、将嗣は話し掛けてくる。
「夏希、あの時、俺は結婚していたし、それを隠して付き合っていて悪かった。夏希が怒ったのも無理はない。けれど俺の話しを聞いて欲しい」
それを聞いて今更どうするのか? と思う。男女の関係は、別れた時点で終わりなのだ。
でも、将嗣には言っていないけど、美優の実の父親。
いま、将嗣に美優の事を言ったら将嗣はどんな反応をするのだろうか。
今、重要な分岐点に立っている事は、理解している。だけど、決心が付かない。
頭の中は大パニック、ぐるぐると色々な思いが過ぎる。
ここであることに気が付いた。
区役所で会った時は、ただ、偶然で懐かしくて声を掛けたのかも知れない。
けれど、今日、声を掛けて来たのは不自然だ。普通、子持ちの元カノなんて、「結婚したんだな」って思うはずだ。
わざわざ私に声を掛けて来たという事は、もしかて、美優の事を自分の子供だと気が付いたのだろうか?
でも、知らない間に父親にされてしまったとしたら、こんなに自然と声を掛けてくる事が出来るとも思えない。
ただ、過去の過ちを謝罪したいだけなのだろうか?
本当に、将嗣の目的ってなんなんだ?