テラーノベル
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昼下がり。
ファミリーの屋敷には、
珍しく穏やかな空気が流れていた。
カポはソファで新聞を広げ、
ソルは書類整理、
ラクティーは木の板を磨き、
リエーレは紅茶を淹れている。
そして中央。
マフィオソは、
いつものように静かに仕事をしていた。
——その時。
コン、コン。
「お届け物でーす」
軽い声。
全員が顔を上げる。
「……誰だ」
カポが扉を開ける。
だが外には誰もいない。
「は?」
足元。
ぽつん、と黒い箱。
「……爆弾とかじゃないですよね」
ソルが後ずさる。
「開けてみましょうか?」
ラクティーが普通に持とうとする。
「待て」
マフィオソが止める。
自ら近づき、
箱を持ち上げる。
軽い。
「……妙だな」
机の上へ置く。
リエーレが目を細める。
「差出人は?」
箱の裏。
そこには、金色のインクで一言。
——“From Chance”
「チャンスゥ〜〜〜〜……」
カポが頭を抱える。
「絶対ロクなもんじゃねぇ……」
「でもちょっと気になります」
ラクティーはわくわくしていた。
マフィオソは無言で箱を開く。
中には——
一本の黒いネクタイ。
静寂。
「…………」
ソルが固まる。
カポも固まる。
ラクティーだけが、
「似合いそうですね!」
空気読めない。
マフィオソはネクタイを持ち上げる。
さらり、とした高級な布地。
そして下に、
一枚のカード。
見覚えのある字。
『前回は邪魔が入った』
そこまで読んだ瞬間、
「読むな!!」
カポが叫ぶ。
「絶対ダメなやつだろそれ!!」
だがもう遅い。
マフィオソは続きを読む。
『次は最後までやるか?』
沈黙。
完全な沈黙。
ソルの耳まで真っ赤になる。
「さ、最後って……」
「おいチャンス殺すぞ俺」
カポがキレ始める。
リエーレは静かに目を閉じていた。
「……挑発ですね」
「明らかに」
「しかもボス限定」
「最悪だ……」
マフィオソは何も言わない。
ただ、
カードを見つめる。
『夜明けまで付き合え』
『次は最後までやるか?』
脳裏に蘇る。
ネクタイを引かれた感触。
近かった距離。
笑う声。
「…………」
「ボス」
リエーレが慎重に声をかける。
「返事は不要です」
「そうですよ!!」
ソルが即座に乗る。
「絶対乗っちゃダメです!!」
「でもボスちょっと顔赤くない?」
ラクティー。
全員が凍る。
「お前は黙れ」
カポのツッコミが速い。
だが——
「……赤くない」
マフィオソが低く返す。
「いや絶対」
「黙れ」
しかし耳が少し赤い。
「うわぁ……」
カポが顔を覆う。
「終わった……ボスもうダメだ……」
「まだ何も始まってない」
マフィオソはカードを机に置く。
だが捨てない。
それどころか——
ネクタイまで丁寧に畳む。
リエーレの目が細まる。
「……捨てないのですか」
「証拠品だ」
即答。
「どの辺がです?」
「挑発の」
「なるほど」
絶対納得してない。
その時。
ひらり。
カードの裏側に、
さらに文字があることに気づく。
マフィオソは裏返す。
『追伸』
全員、嫌な予感。
『今度はシャツの続きからな』
数秒の静止。
そして——
「チャンスーーーーー!!!!」
カポ絶叫。
ソル、机に突っ伏して死亡。
ラクティー、「続きあるんだ」と感心。
リエーレ、ついに頭痛を訴える。
その騒ぎの中心で。
マフィオソだけが、
静かに目を閉じていた。
「……あいつ」
低い声。
怒っている。
はずなのに。
口元がわずかに笑っているのを、
誰も見逃さなかった。
「ボス?」
「……次会ったら」
カードを指で挟む。
「覚えていろ」
だが。
その声音は、
本気で嫌がっている人間のものでは、
全くなかった。
その頃。
チャンスの屋敷。
「……届いたかな」
ピアノを弾きながら、
チャンスは笑う。
きらきら星。
軽い旋律。
「今頃真っ赤かもな」
楽しそうに呟く。
しかし次の瞬間。
ふと、
指が止まる。
「……いや」
静かな部屋。
「案外、平気な顔して読むか」
それを想像して。
また笑う。
「……会いてぇな」
ぽつりと零れた本音は、
誰にも聞かれなかった。
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