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メイドさん五人と感動の再会を果たしたあと、ルークとエミリアさんにも感動の再会をしてもらうことにした。
積極的な交流は無かったとは言え、王都にいる間は二人も大変お世話になっているのだ。
それを踏まえると『積もる話』には事欠かないわけで、話の切れ間を探すのもなかなか難しい状態だった。
「――みなさま! 簡単ではありますが、食事を用意しました!!」
唐突に、ポエールさんが部下を伴って部屋に入ってきた。
その手にはそれぞれ、ハンバーガーやらサンドイッチを乗せたトレイを持っている。
「すいません、食事まで用意してもらっちゃって……」
「何の何の! その辺りは私共に任せて、みなさまは楽しくお過ごしください!
まだまだお持ちしますから、たくさん食べてくださいね!」
たくさん――
その言葉を聞いた瞬間、何となく全員がエミリアさんの方をちらっと見た。
「……ふぇ?」
思わぬ視線の集中砲火を浴びて、エミリアさんから力の抜けた言葉が出てくる。
何と言うか、これはもはや全員の共通認識だ。
リリーはみんなの真似をしただけかもしれないけど、それなりに食べているところはもう目撃してるからなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仕切り直して、再びみんなで会話に花を咲かせる。
私は最初に結構話をしてしまったので、部屋の隅でのんびりとその様子を眺めることにしていた。
――などと油断していると、リリーとキャスリーンさんがそれぞれ近寄ってきた。
「ママー。ひまー」
「えぇー……? このメイドさんたちはね、私がとってもお世話になった人たちなの。
だから、リリーも仲良くしてくれると嬉しいなぁ」
「分かったの! それじゃ、えっと……」
リリーは口元に人差し指を当てながら、近くに来ていたキャスリーンさんを見上げた。
キャスリーンさんは私に話し掛けようとしていたが、しばらく悩んでから、リリーの相手を始めてくれた。
「初めまして、リリーちゃん。
私のことはキャスリーンと呼んでください」
「分かったの! キャスリーン、よろしくなの!」
「はい、よろしくお願いしますね♪」
キャスリーンさんはリリーに綺麗な笑顔を向けてから、楽しそうにお喋りを始めた。
たまにこちらをちらちらと見ているのが気になるけど、あとで時間を取ってあげた方が良いよね……。
「――アイナ様」
「ん? ああ、クラリスさん」
まったりとオレンジジュースを飲んでいると、クラリスさんが飲み物を持って話し掛けてきた。
改めて見ると、クラリスさんの私服姿も新鮮だ。……というか、全員がなかなか新鮮だ。
「アイナ様のもとで、また働けるのを嬉しく思います。
お屋敷の荷物はポエール様に確保して運んで頂きましたし、また再開……という感じですね」
クラリスさんは嬉しそうに微笑んだ。
彼女のこんなに眩しい笑顔は、今までで初めてかもしれない。
「うん、またよろしくね。私も本当に嬉しいよ。
荷物と言えば、お店の入口に付けていた鐘が盗まれちゃったみたいなんだよね……。何だろう?」
「私も気にはなったのですが、そのときはもうあまり動けない状況でして……。
お屋敷の中を清算したあとで、外部の方がたくさん入ってきていたのです」
「なるほど……。あのお屋敷、結構気に入ってたんだけどなぁ……。
お店も付いてたのがポイント高かったよね、今となっては」
「アイナ様のお店を求める声も多かったですよね……。
特に裕福な女性にとっては、大きな痛手だったかと」
「あはは。でもまぁその分、クレントスで頑張るか――
……って、そうならない可能性も実はあったりして……」
「え?」
「ああ、ごめん。他のところに引っ越すかもしれないんだけど、まだ本決まりじゃないから何も言えないんだよね」
――……しまった。
街なり国なりを作ると言いつつ、お屋敷のメイドさんを絶賛大募集してしまった。
……とは言え、まだまだ下準備は要るから、やっぱりメイドさんは雇わなければいけないか。
「大丈夫だと思いますよ。
少なくても私とキャスリーンさんは、どんな田舎であろうとも、絶対に付いていきますから」
「え? クラリスさんって、そんなアクティブな人だったっけ……」
「誘われたからとは言え、こんなところまで追い掛けてきたくらいですよ?」
「……本当だ」
その時点で、実は難易度が相当に高い。
例え時間があろうとも、例えお金があろうとも、ただそれを浪費してしまう可能性の方が大きいのだ。
何か芯になる思いが無ければ、そんな決断はできないだろう。
「引っ越しについては、私からみんなにやんわりと伝えておきましょう。
何があっても、大体は『アイナ様だから』で済まされてしまうと思いますけど」
「えぇー……。
それ、メイドさんたちにも言われてるの……?」
ルークとエミリアさん、ジェラード辺りにならよく言われてるから良いんだけど……。
メイドさんたちにまで言われ始めると、何だかちょっと切なくなってしまうかもしれない。
「神器を作ったり、英雄を倒したり……。
そこまでやられたら、もう何でもありそうな気がしませんか?」
「むぐ、確かに……」
――でも次は『街を作る』だよ!
『国を作る』かもしれないけど――
……いや、それはそれで、やっぱり『アイナ様だから』で済まされそうかもしれない?
「ところでアイナ様。どうしようか悩んだのですが、やはりお伝えしておくことにします」
「え? 何かあったの?」
「アイナ様が王都からいなくなったあと、テレーゼさんがお屋敷の前に、毎日のように訪れていたんです。
……その、最初は私も話し掛けていたのですが、徐々に居た堪れなくなって、あとの方はあまり声を掛けられなかったのですが……」
「うぅ、テレーゼさんのことも気になっていたんだよね……。
詳しくは説明できないけど、テレーゼさんからもらったもので命拾いもしたし……」
「私たちが王都を発つときに錬金術師ギルドにも寄ってみたのですが、その日はお休みだったんです。
……まとまりのない話ですが、アイナ様のお耳に入れておこうかと思いまして」
「うん、ありがとう。
私たちって逃げるように王都を去ったから――……っていうか、本当に逃げたんだけど」
私が力無く笑うと、クラリスさんは察するように静かに微笑んでくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ポエールさんの用意してくれた食事をすべて平らげ、話もひと段落したときを見計らって、今日は解散することにした。
メイドさんたちに働いてもらうのは、メイド服の準備ができたあとにでも――と思ったら、それは持参してきたらしい。
メイドを続けるか悩んでいたクラリスさんの分は、キャスリーンさんが持ってきていたようだ。
他の三人はそれぞれがしっかりと持ってきていた。
「――私も、カフスボタンだけは持っていたのですが……」
そう言いながら、クラリスさんは小さな鞄からアメジストがあしらわれたカフスボタンを取り出した。
「あ、懐かしい! 持っててくれたんだね」
「ええ。とても大切にしております。
他の四人も、みんな持ってきていますよ」
「そっかー。それは嬉しいなぁ……」
カフスボタンは、アーティファクト錬金にハマっていたときに、メイドさんにそれぞれ作ってあげたものだ。
髪の色に合わせて、五人とも違う宝石をあしらっていた。
「それでは準備も出来ていることですし、今日からアイナ様のお屋敷に参りましょう」
「え、もう? 観光とか、大丈夫?」
「それは休日のときにでもしますので。
ここまで3週間も掛かっていますし、そろそろ働かなくては!」
「最初からあんまり飛ばさないでね……?
そうそう、警備メンバーは今のところ2人いるんだよ。紹介しないとね」
「――あ、それです!」
「え?」
「警備メンバーですが、実は護衛ということで、王都から一緒に来てもらった人がいるんです。
……その方もまた雇って頂いて、大丈夫ですか?」
「もちろんだけど、リリーの件は大丈夫かな。
ちなみに誰が来てくれたの?」
「レオボルトさんです」
「おお、意外や意外――」
レオボルトさんは、とことん無口の剣士だ。
ミュリエルさんのメシマズなご飯に胃袋を掴まれている人なんだけど――
……もしかして、ミュリエルさんに付いてきた? ……のかな? ……まさかね?
ディアドラさんとカーティスさんは他所にいったというから、他の残りはランドルさんとサブリナさんか。
この二人は他の人に比べていまいち影が薄かったけど、今はどうしているんだろう。
「ちなみにランドルさんとサブリナさんって、どうなったか知ってる?」
「あの二人はいつの間にか仲良くなっていて、一緒に雇われ先を探していたようです。
ピエール様に斡旋を頼んだ――までは聞いておりますが、それ以降は特に……」
「はぁ……、人それぞれだね……。
まぁきっと上手くやっていくだろうし、私たちも上手くやっていくことにしよう。これから、よろしくね!」
「はい、かしこまりました!
それでは早速仕事の話ですが、今晩の夕食の準備は――」
……切り替え、早っ!!!!