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王の決断により、玉座の間には感動と和解の空気が流れていた。 ──その空気を、私は一枚の紙切れで切り裂いた。
「はい、こっちの請求書もよろしくね?
今回の侵略にかかった経費とか諸々──ざっくり、十億」
「じゅ、じゅうおくぅ!?」
王の威厳が3秒で消し飛び、危うく白目をむきかけた。
私はさらりと続ける。
「リンド村と常闇のダンジョン村の開拓費用に炊き出し、モンスター雇用費、
ついでに──エスト様のオヤツ代(大声)と私のエステ代(小声)も込みで十億ね♡
いや、美は戦力なんで」
「ちょっ……お姉ちゃん! オヤツ代バラさないでぇええ!?」
エスト様が顔を赤くして叫ぶ。
「感動の空気に乗じて強引に筋を通そうとしてる……恐ろしいお方だ……」
辰夫が呆然と呟いた。
「まぁ王様、考えてみて?
これはね、投資なのよ。”国が良くなるための出費”ってやつ」
「……投資、だと?」
私は玉座の上で堂々と胸を張った。
「そう。リンド村とダンジョン村が活性化すれば、周辺の経済も潤う。
結果、税収も上がるし、インフラも整う。雇用も生まれる。
ついでに魔物との共存モデルケースにもなる──完璧でしょ?」
「……」
「未来への先行投資ってやつよ。十億なら安くない?」
私は王にパチンとウィンクを投げた。
「払えとは言わないよ?
ただ、”払わない理由”はもう無いよね?」
王の迷いを見透かすように、私は軽く肩をすくめた。
「ま、国費から出してもいいけどさ?
その代わり、”誰の財布から出すか”くらいは、
王様が考えてよね?」
私はニッコリ笑って、こう続けた。
「例えばさ──ろくに働きもせず……
贅沢三昧してた貴族どもから徴収するとか?」
その言葉に、
壁際に控えていた家臣たちがビクリと肩を跳ねさせた。
「開拓費用十億。村々の整備、物資供給、住居とインフラ整備。
エスト様のオヤツ代(大声)、私のエステ代(小声)……
全部こっち持ちでやってんのよ。
……でもね、それって結果的に”国の利益”でもあるでしょ?
投資よ。投資」
「ちょっ……お姉ちゃん! もうやめてぇええええ!?」
エスト様が羞恥心で悲鳴を上げる。
「なんか……筋通ってる気がしてきましたな……」
辰夫が洗脳されかけて遠い目をしている。
「”浪費だろ”って思った?──いいえ、それは違う。
”使った”ってことは、勝ったってことだ。
……伝説のプロレスラー、ムダ様はそう言ったのよ。
つまり、私たちは──勝ったの」
「お姉ちゃんのスキル:謎理論きた!」
エスト様が素直にツッコむ。
「相変わらず意味不明な説得力だけはある……」
辰夫が頭を抱えた。
家臣たちは絶句し、王はぐっと目を細めた。
「オーミヤの領主なんか、搾取しすぎたせいか──
盗賊団に誘拐されかけてたよ?
あれ、もうテロだよテロ。されてた側ね。
……なのに態度だけは一人前だったの。やたら偉そうでさ?
なんか最後はモンスターになって襲ってきたし?」
私は肩をすくめて笑う。
王の顔がわずかに歪んだ。
「払いたくないなら、それでいいけど?
代わりに、あんたの屋敷から燃やすから」
殺気を込めた笑みを浮かべると、
王は背筋を伸ばして震え──
そして、観念したように苦笑した。
「……なるほどな。
貴族どもを炙り出す口実としては……十分すぎる」
そして、静かに頷いた。
「やってみよう。君の”投資”に、賭けてみる価値はある」
「それとさ、王様」
私は天井の巨大なシャンデリアを指差し、
無邪気な笑顔で言った。
「この城、まず売れば?」
「……は?」
王が一瞬、時が止まったような顔をした。
「維持費すごいんでしょ?
シャンデリアとか装飾とか高そうだし。
今の時代、ミニマル志向よ?
”豪華な玉座”より、”実働部隊の食費”の方が大事でしょ」
「…………」
「シャンデリアひとつで、村に井戸が何本掘れるか考えなよ」
『スキル:屁理屈』(エスト様が頷く)
「貴族の茶会1回で、炊き出し何人分かってこと。そういうこと」
『スキル:ロジハラ』(辰夫、小声)
「……屁理屈……?ロジハラ……?」
私は笑顔のまま、小娘と辰夫の方を見た。
あとで“確認”しよっか。(笑顔)
「あのさ?一回屋台でも出して国民と触れ合って来いよ。
テメーの顔なんざ誰も知らねーからよ?
なんで顔も知らねーヤツのシャンデリア代を国民が払ってんだよ?
その浮いたお金で、十億。余裕で捻出できるよね?」
王は頭を抱えた。
「異様に合理的な災厄だ……
彼女は感情で壊さない。理屈で奪う」
騎士団長のバルドスは悟った。
贅沢をしていた家臣たちは泣いた。
──でも、その中で何人かの若き兵士たちが、思っていた。
(……たしかに……この国、変わるかもしれない)
王は深くため息をつき──そして、立ち上がった。
「……君は……恐ろしいな」
「ん? ほめてんの? けなしてんの?」
「ほめている。
少なくとも、”本気で国を見ている”者にしか言えぬ言葉だった」
王はゆっくりと歩みを進め、
私と正面から向き合う位置に立った。
「君は敵だった。
だが……もはや、敵で居るには惜しい存在だ」
「……へぇ?」
「私は、提案したい。ラウワを──共に治めないか?」
「……共に?」
私は眉を上げた。
「君たちは魔物の側を。私は人間の側を。
それぞれの民の事情に通じた者が手を取り合えば、
この国はきっと変わる。
それが”未来”を持つ国の形だと信じたい」
私は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。
そして──ふ、と笑った。
「やるじゃん王様。その提案、乗った」
私が即答し、右手を差し出したその時だった。
「ちょ、ちょっと待ってぇえええええ!!」
今まで空気と化していたエスト様が、
バサァッとマントを翻して(裾を踏んで少しよろけた)、
私たちの間に割って入った。
「お姉ちゃん! 王様! 二人だけで話を進めないで!
いい? 私は魔王! 恐怖と混沌を統べる終焉の化身なんだから!
こういう重大な契約は、私を通してもらわないと困るんだからねっ!」
エスト様はふんす!と鼻息荒く胸を張り、
精一杯の「魔王の顔 (ただのアヒル口)」で王を睨みつけた。
王は呆気に取られて固まっている。
「あ、ちょうどいいわ。秘技!エスト☆フルチャージ!」
私はエスト様の頭のツノを両手でガシッと掴んだ。
ギュッ!!
「そこはダメぇえええ!?」
エスト様の魔力が強制的にフルチャージされる。
ズゴゴゴゴゴ……!!
圧倒的な魔力の渦が玉座の間を震わせ、
シャンデリアがガシャガシャと揺れた。
「な、なんだこの尋常ならざる魔力は……!?」
王とバルドスが顔面蒼白になる。
「はい、発射」
私はエスト様の顔を窓に向ける。
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!
エスト様の杖の先から放たれた極太の暗黒魔法が、
窓の外へと一直線に射出される。
それは遥か上空を覆っていた分厚い雲を、
一瞬にして円形に消し飛ばした。
王都の空に、ぽっかりと巨大な青空の穴が開いた。
チーン……。
口から一筋の煙を吐きながら、
エスト様が私の小脇でぐったりと白目を剥いている。
「やはりエスト殿の魔力は凄まじい……」
辰夫はポカンと口を開けていた。
「……」
「……」
王と家臣たちは、天を貫く魔法の威力と、
不自然に晴れ渡った空を見上げ、完全に石化していた。
私は白目を剥いた魔王を床にポイッと転がし、
王へ爽やかな営業スマイルを向けた。
「ごめんね王様。うちの『看板娘』、たまに暴発するの。
一応、安全装置(セーフティ)かけとくから気にしないで。……で、さっきの続きだけど?」
「……あ、ああ……ああ。
よ、よろしく頼む……実務担当殿」
王は震える両手で、
私の右手を包み込むようにガシィッと握りしめた。
その手は、冷や汗でびっしょりだった。
「私の威厳がぁぁぁ……」
私たちの結んだ手の上に、下から「私が魔王なんだからっ!」と、涙目の小娘が必死に背伸びして、小さな手を乗せてきた。
私はその手のぬくもりを感じながら、
ゆっくりと目を細めた。
(……ふっふっふっふ……)
(どさくさに紛れて──)
(10億請求できてよかったあああああ!!!!)
(やっほおおおおおおおおおお!!!!!)
(見たか会社の経理部ぅぅぅぅ!!)
(これが私の!異世界式!領収テロだ!!)
(エステ代まで通っちゃったし!? 何それ!? 怖ッ!!)
(予算の回収の目処? ないよ。でもテンションはある!)
(言ってみるもんだなー!?)
(……10億の請求来た時は世界を滅ぼせば借金チャラじゃん?とか思ってたけど、良かったな世界?)
(あぶない。あぶない。マジで一瞬、人類滅ぼしかけたわ)
(今のノリなら【ラウワ王国】じゃなくて【サクラ帝国】に改名も通るんじゃない? どうする? 行っちゃう?)
──私は内心でガッツポーズを決めながらも、
顔は冷静そのものだった。(ぷるぷるぷる)
「あ!お姉ちゃんが”なし崩し的に10億も請求出来てラッキー”って顔してる!」
エスト様が笑いながら指差す。
「ち、ちがうし!?」
私は慌てふためく。
「エスト殿はエスパーかな……」
辰夫が遠い目をした。
こうしてサクラは、無血征服をやってのけた。
「あ! 領収書お願いね?」
◇◇◇
玉座の感触に、私はほんの少しだけ身を沈めた。
「辰夫!フルーツ盛り持ってきて?」
「え、え?フルーツ盛り?……ど、どこに?」
困惑する辰夫を横目に──
(ふふん、玉座……なんか……悪くないかも)
そう思った瞬間だった。
ぴょん☆
膝の上に、小さな重みが乗った。
「お姉ちゃんー!」
小娘が私の膝に乗ってきた。
「……ちょ、エスト様?」
「えへへー!」
「っていうか、魔王は私なんだよぉおおお?」
「ふふ……そうだっけ?」
私は小娘の頭を撫でながら言った。
「もー!」
「ふふ」
……じゃあ──私は、大魔王かな──。
(つづく)
◇◇◇
《征服ログ》
【征服度】:10%(ラウワ国統治達成 ※タマイサ地方ゲット)
【支配地域】:タマイサ地方・ラウワ王国全土(共同統治により平和的移行完了)
【主な進捗】:
・魔王軍、史上初の無血征服を達成
・住民満足度98%(過去最高記録)
・王との協定により”二頭体制”確立
・請求書問題解決
・借金問題解決
・城売却提案により行政改革フラグが成立
・サクラ帝国構想浮上
【特記事項】:
・征服とは破壊ではなく、創造である。
・真の勝利とは、敵さえも味方に変えること。
・領収書一枚で国家改革を実現した女がいた。
・そして、彼女はまだ、世界の1割しか落としていない。
「は。残り9割?楽勝よ?」
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『浪費? それは違う。
”使った”ってことは、勝ったってことだ!』
解説:
金を使う。それは敗北じゃない。
むしろ”予算”という名のリングで、先に殴った者が勝つのだ。
「領収書が後出して何が悪いッ!!」
……それが、ムダイズム。