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サッカーオタク
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# 『6番の約束』
朝。
いつもより少しだけ早く目が覚めた。
はるきは制服に着替えながらスマホを開く。
通知はない。
昨日のまま。
一番下に並ぶ最後の言葉。
「ばいばい。応援できて嬉しかった」
「なんだったんだよ。」
小さく笑う。
「また今日聞けばいっか。」
そう思って家を出た。
学校へ向かう道。
夏の空。
蝉の声。
いつもと何も変わらない朝。
変わらないはずだった。
教室へ入る。
「あ、おはよう。」
友達が挨拶する。
「おはよ。」
いつも通り。
でも。
どこか空気が重い。
みんな静かだった。
「なんかあった?」
誰も答えない。
チャイムが鳴る。
担任が入ってくる。
教室中が立ち上がる。
「お願いします。」
先生は返事をしなかった。
教卓の前で、
静かに俯いていた。
教室がざわつく。
長い沈黙。
やがて先生が口を開く。
「今日は……」
声が震えていた。
「みんなに伝えなければならないことがあります。」
その瞬間。
胸がざわつく。
理由は分からない。
嫌な予感だけがした。
先生は息を整える。
そして。
ゆっくりと言った。
「昨日の夜――」
言葉が止まる。
先生が涙をこらえている。
教室は静まり返った。
「○○さんが……」
はるきの鼓動が速くなる。
「病気のため、亡くなりました。」
……
耳鳴り。
何も聞こえない。
誰かが泣いている。
誰かが息をのんでいる。
でも。
何も入ってこない。
頭の中で、
昨日のLINEだけが繰り返される。
「幸せになるんだよ」
「もう未練はないよだいじょうぶ」
「ばいばい。応援できて嬉しかった」
全部。
全部。
最後の言葉だった。
「……嘘だろ。」
声にならない。
先生は何か話している。
病気だったこと。
家族の希望で公表していなかったこと。
今日の放課後にお別れの時間があること。
何一つ頭に入らない。
椅子が音を立てる。
はるきが立ち上がっていた。
「はるき!」
友達が呼ぶ。
聞こえない。
教室を飛び出す。
廊下。
階段。
気づけば走っていた。
どこへ向かうのかも分からない。
ただ。
ここにいたくなかった。
気づくと、
グラウンドにいた。
誰もいない。
夏の日差しだけが照りつける。
真ん中まで歩く。
6番を背負って立った場所。
昨日まで、
応援してくれる人がいた場所。
足から力が抜ける。
その場に崩れ落ちた。
「なんでだよ……」
誰もいない空へ。
声が漏れる。
「なんで言わなかったんだよ……」
涙が落ちる。
止まらない。
「約束したじゃん!」
叫ぶ。
「大会終わったら話そうって!」
拳を芝生に叩きつける。
「なんで置いていくんだよ!!」
「なんでだよ!!」
喉が痛い。
それでも叫ぶ。
「俺はまだ……」
息が詰まる。
ずっと言えなかった言葉。
ずっと胸の奥にしまっていた言葉。
「会いたかったのに……」
「まだ……」
「好きだったのに……!」
涙で前が見えない。
「ひとりじゃ無理だろ……」
風が吹く。
返事はない。
いつもなら、
「6番頑張れー!」
そんな声が聞こえてきそうなグラウンド。
今日は、
蝉の声だけだった。
放課後。
担任が静かに近づいてくる。
「はるき。」
名前を呼ばれる。
振り向く。
先生は一通の封筒を差し出した。
白い封筒。
少し丸みのある文字。
見間違えるはずがなかった。
『はるきへ』
彼女の字だった。
「ご家族から預かりました。」
「あなたに渡してほしいと。」
手が震える。
受け取ることができない。
怖かった。
開けたら、
本当に終わってしまう気がした。
でも。
震える指で、
封筒を受け取る。
たった一枚の便箋なのに。
腕が震えるほど重かった。
その夜。
部屋。
机の上。
封筒だけが置かれている。
時計の針だけが進む。
一時間。
二時間。
開けられない。
「なんで……」
涙が落ちる。
「最後まで……」
「泣かせるんだよ……」
深呼吸をする。
封を開く。
便箋を取り出す。
一番上に書かれた文字。
『はるきへ。』
そのたった四文字で、
涙があふれた。
第四部【後編】へ続く。
コメント
1件
読了…読み終わったあとも、胸の奥がぎゅっとしてる。 「ばいばい」のあの軽さが、まさか最後の言葉だったなんて…。はるきが気づいたときにはもう届かなくて、グラウンドで叫んだ「好きだったのに…」が本当に痛かった。ずっと言えなかった想いを、たった一人で抱えて叫ぶしかなかったんだね。 手紙を開けるシーンも、ただの便箋なのに“重い”って感じる気持ち、すごくわかる。開けたら終わっちゃうって思うよね。 愛さんの描く“別れ”は、いつも静かで、それでいて心の奥までじんわり沁みる。 続き、ちゃんと見届けたい。読めてよかったです。ありがとうございます。