テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
息が、まだ荒い。皮膚が痺れている。
冷えていくのに、どこか熱い。
──「……何、してんだよ。オレ」
問いは、誰にも向いていない。
答えが欲しいわけでもない。
ただ、喉の奥に詰まった“何か”が腐らないように、
吐き出すふりをしないと、潰れてしまいそうだった。
──「やだ、じゃない。痛い、とか、怖い、とか……
言えたら、マシだったのか」
喉の奥に、鉄の味。
泣いてるわけじゃないのに、目の奥が焼けるように痛む。
──「でも、それ言って、どうなんだよ」
「“やめて”って言って、やめるような奴らだったら、とっくに……」
声が途切れる。
──「とっくに、こんなふうになってない」
笑いそうになって、喉の奥でそれを飲み込んだ。
言葉にすれば、楽になると思ってた。
誰かに伝われば、なにかが変わると思ってた。
──ちがった。
伝わったって、何も変わらない。
むしろ、“わかってもらえた”ことで、
さらに深くまで踏み込まれる。
「……演技って、便利だな」
笑って、腰振って、舌出して。
媚びるふりして、期待通りの言葉を言えばいい。
「“自分からやってます”って顔してりゃ、誰も罪悪感なんて持たなくて済む」
誰も、悪くならなくて済む。
兄も、クラスの奴らも、教師も、日下部も。
──自分以外は、みんな、救われる。
「……おまえらが、そうしてほしいって言うから、やってやってんだよ」
怒鳴ったつもりの言葉は、かすれた息になった。
「……ほんとにそうか?」
思考が、自分に問う。
“やらされてる”ふりをすることで、
“壊されたくない”ふりをしてるんじゃないか。
“本当に壊れたら”、
自分ですら自分を、もう“守れなくなる”から。
──「だったら、オレ、まだ……期待してるってこと?」
瞬間、喉の奥がぎゅっと締まった。
「……ばっかじゃねえの」
そう吐き捨てる声が、
ほんのわずかに震えていた。
誰も見ていないのに。
誰にも聞こえていないのに。
それでも、
遥はその声に、顔を背けたくなった。