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瓦礫の街に、風が鳴いていた。
かつて人が笑い、灯りが並んでいた通りは、今では灰と鉄の残骸だけが残っている。
焼け焦げた看板が、かろうじて揺れていた。
その中を、ひとりの男が歩く。
赤く汚れた制服。
胸元は裂け、乾いた血が黒く固まっている。
両手には、それぞれ一丁ずつのショットガン。
――彼は、戦い続けていた。
引き金を引く。
爆音。
肉が裂ける音。
崩れ落ちる影。
それが何だったのか、もう考えることもない。
侵略者“ルナティック”か、
元は人間だった何かか――
どちらにせよ、撃つしかない。
「……チッ」
空腹が腹を焼く。
何日まともに食べていないのか、思い出せない。
水も、食料も、仲間もない。
あるのは、ただ――
戦う理由すら曖昧になった、惰性だけだった。
ふと、彼の脳裏に浮かぶ。
丸い生地。
溶けるチーズ。
焼ける匂い。
笑顔で差し出す自分。
「……ピザ……」
名前は思い出せない。
だが、それだけは残っていた。
だから彼は、自分をこう呼ぶ。
――「pizza guy」(ピザ男)
それ以外に、自分を証明するものがないから。
やがて、視界が揺れた。
足がもつれる。
銃が重い。
呼吸が浅い。
限界だった。
瓦礫の影に身を預けるように崩れ落ちる。
意識が、ゆっくりと暗く沈んでいく。
眠りか。
それとも――終わりか。
そのとき。
コツ、コツ、と。
乾いた足音が近づいた。
影が、彼を覆う。
それは、人ではなかった。
漆黒の外套。
赤く灯る眼。
半ば獣じみた顔
――翼を持つ影。
“ノスフェラトゥ”(あるいは、“吸血鬼”)
「……珍しい」
低く、くぐもった声。
それは彼の頬を指で持ち上げ、観察する。
骨ばった体。
乾いた唇。
血の匂いよりも、飢えと腐敗の匂いが強い。
「これは……不味そうだ」
吐き捨てるように言いながらも、
その赤い瞳は、どこか愉しげに細められる。
――通常ならば。
見つけ次第、血を吸い尽くす。
だが今は違った。
「痩せすぎだな。……価値がない」
しばしの沈黙。
そして、ふっと笑う。
「ならば――育てるか」
気まぐれだった。
ただの、ほんの些細な興味。
この男を、少し“まともな肉”に戻してから、
その血を味わう。
それだけの話。
ノスフェラトゥは、彼の身体を軽々と抱え上げる。
「……目が覚めた時、どんな顔をするか」
その呟きは、わずかに愉悦を含んでいた。
崩壊した街を背に、
闇は静かに去っていく。
――彼を、城へと連れ帰るために。