テラーノベル
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最初に感じたのは、柔らかさだった。
沈み込むような感触。
瓦礫でも、冷たい地面でもない。
「……?」
ゆっくりと、意識が浮かび上がる。
重たい瞼を開くと、そこには見知らぬ天井があった。
石造り。高い天井。燭台の炎が、静かに揺れている。
――生きている。
その事実に、ほんの一瞬だけ思考が止まる。
次の瞬間、反射的に体を起こそうとして――
「っ!?」
ガシャン、と鈍い音。
両腕に走る重み。
視線を落とすと、手首には鉄の枷。
そこから伸びる鎖が、ベッドの端に固定されている。
「……は?」
声が掠れる。
喉が焼けるように乾いていた。
そのとき。
「目が覚めたか」
低く、響く声。
視線を上げる。
部屋の奥。影の中に、それは立っていた。
赤い瞳が、こちらを見ている。
人ではない輪郭。
外套の奥から覗く、異形の気配。
――思い出す。
倒れる直前に見た、あの影。
「……お前、は」
「名乗るほどでもないが」
影はゆっくりと前に出る。
燭台の光が、その姿を照らした。
翼を思わせる外套。鋭い耳。
そして、血のように赤い眼。
「ノスフェラトゥ、とでも呼ばれている」
淡々とした口調。
まるで、ただの事実を述べるように。
pizza guyは、わずかに笑った。
「……はは、最悪だな」
乾いた笑い。
「化け物に拾われるとか……ツイてねぇ」
その言葉に、ノスフェラトゥの眉がわずかに動く。
「化け物、か」
一歩、近づく。
鎖がわずかに鳴る。
pizza guyは反射的に身構えるが、体に力が入らない。
「安心しろ。今すぐ殺すつもりはない」
「……は?」
「お前は痩せすぎている」
さらりと告げられる言葉。
一瞬、意味が理解できない。
「血も肉も、価値がない。今のままではな」
ノスフェラトゥは、彼の顎に指をかける。
強制的に顔を上げられる。
赤い瞳が、まっすぐ覗き込んできた。
「だから、育てる」
その声には、温度がない。
ただの“判断”。
「……太らせてから、食う」
沈黙。
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数秒遅れて、理解が追いつく。
「……は?」
「言葉の通りだ」
あまりにも淡白に。
あまりにも当然のように。
pizza guyは、しばらく呆然としたあと――
「……ふざけんな」
低く、吐き捨てた。
「家畜じゃねぇんだよ、俺は」
その瞬間。
ノスフェラトゥの目が、わずかに細まる。
「なら、証明してみろ」
「……?」
「食われるだけの存在ではないと」
静かに、しかし確実に圧をかける声。
「逃げるか。抗うか。従うか」
一歩、距離を取る。
「選べ」
わずかに息が止まる。
「……選んでやるよ」
かすれた声。
だが、その目には――
ほんのわずかに、火が戻っていた。
ノスフェラトゥはそれを見て、
ほんの少しだけ、口元を歪めた。
「いい目だ」
――“食い頃”になるのが、楽しみだ。
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