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◻︎家まで送る
このまま、三木ひとりを帰すのは気が引ける。
「私もこれで帰ります。三木さんを送っていくので」
「あの、俺、俺が送って行きます!俺の責任なんで」
結城が私の前に立ちはだかった。
「なんで?結城君は本気で結婚相手を探しに来たんでしょ?残りなさい。私がついて行くから」
「そんな、2人きりにはさせませんよ、俺もいきます」
「あの、僕のことでしたら、タクシーで家まで帰るのでご心配なく…」
「「いいえ!俺、私がついていきます!!」」
結城と声が重なった。
仕方なく、3人でタクシーに乗って帰った。帰り際、結城さんまだ帰らないで!とひきとめる女性の声が聞こえていたけど、当の本人には聞こえていないようだった。
タクシーの後部座席に3人で乗った。
三木がドライバーに告げた行先は、わりと繁華街の地名だった。
1時間と少し走って、大きなタワマンの前に着いた。
「え?まさか?」
私と結城は目で話した、このマンションに住んでる、とか?
「すみませんが、ちょっと肩を貸してもらえませんか?うち、ここから少し歩かないといけないので」
_____住んでるのはここじゃなかった
ならばと、また結城がおんぶした。人通りが多い街中では異様な光景だったけど、2人は何も気にしていないようだった。
タワマンの脇の道を奥へ進んだら、並木がしげる公園があり、その横に二階建てのアパートがあった。築年数はおそらく30年以上。
タワマンのせいで日当たりも悪く、階段の手すりはペンキが剥げていた。
「あ!お父さん!」
階段を駆け降りてくる女の子がいた。髪を二つに結って赤いオーバーオールを着ている。
「歩美、ただいま」
結城の背中から、三木が答えた。怪我をしてしまってこれから帰ると、連絡してあったようだ。
「お父さん、脚は?痛い?」
「大丈夫だ、湿布でもしてゆっくりしてればすぐ治るから」
「えっと、部屋は2階ですか?このまま上がりますから」
「はい、じゃあお願いします。202です」
歩美は、先に部屋へ行ってドアを開けていた。私は荷物を持って上がった。
「はじめまして、歩美ちゃん。私は森下茜といいます。ごめんなさいね、お父さんに怪我をさせてしまって」
「ううん、きっと、お父さんがつまづいて転んだんでしょ?よくやるから」
「うーん、でも、俺のせいだよ。はじめまして、俺は結城宏哉です。ごめんね、歩美ちゃん」
ぺこりとお辞儀をする歩美。
「お父さん、今日は好きな人を見つけに行ったのに、男の人も見つけて来ちゃったの?恋人とお友達?」
「あはは、違うよ、怪我をしちゃったから心配してついてきてくれたんだよ」
「なぁんだ、残念」
私は、大切なことを思い出した、仕事は?
「三木さん、明日からのお仕事はどうしますか?タクシー?」
「あー、仕事ですか。それなら大丈夫なんです。家でできる仕事なので」
「じゃあ、ご飯とかの家事は?」
「俺が来ますよ、手伝いに。森下さんは、家事が苦手そうだから」
「失礼な!」
そう答えながらも、ご飯ってどうやって炊くんだったっけ?と考えていた。
「それもお気になさらずに。歩美もいくらか家事ができるので。今日はありがとうございました。お世話になりました」
「ね、結城お兄ちゃん、茜おねえちゃん、また来て。お父さんのお友達になってよ」
私は結城と顔を見合わせた。
「また来るからね」
とその日は帰った。
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