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いちゃらぶ……? 今回も長いです。
若様視点。
泣きじゃくる涼ちゃんを腕の中に閉じ込め、綺麗に着飾った姿をそれとなく眺める。
本当はドレスを着てもらおうかと思ったけれど、それだとあまりに何かありますって言ってるようなもんだから結婚式にとっておき、元貴と相談してスーツにしたけれど、やはり元貴の見立てに間違いはないなぁと少しだけ悔しい気持ちになる。
的確に俺の好みと涼ちゃんの好みのど真ん中を突いていて、それでいて絶対的に元貴の好みも反映されている。腰回りのラインがきゅっと絞られてるのは俺の好みで、ふわっと揺れるワイドなスラックスは涼ちゃんの好み、首元のネクタイやベルトなんかの小物類は元貴の好みかな。
ってか、何気にバングルお揃いにしてない? 耳のピアスも元貴のと涼ちゃんのやつがふたつでワンセットみたいな? ほんと油断ならない……けど、今回は散々迷惑と心配をかけて協力してもらったから、文句を言うわけにもいかない。
せっかく記憶が戻って涼ちゃんにプロポーズして返事をもらったのだ。余計なことを考えるのはやめよう。スーツ姿でカッコいいのに、ちょっとドレッシーな感じが可愛くて綺麗な涼ちゃんを堪能しよう。
この綺麗で可愛くてかっこいい涼ちゃんは俺のものなわけだし、元貴には嫉妬するだけ無駄だ。涼ちゃんの中で元貴の位置付けはかなり上位だ。Mrs.そのものである元貴を、そして人間としての大森元貴を、俺に対するものとは違う種類で愛しているからそれに嫉妬するだけ無駄である。
嫉妬しないとは言わないけど、そこの部分ではおそらく俺は勝てない。
だから俺は、俺にだけ見せてくれる涼ちゃんの姿を愛すればいい。俺だって元貴のことは大切だから、涼ちゃんを渡すことはできないけど、これから先もずっと一緒にいたいとは思っているしね。
「いてっ」
にやけながら涼ちゃんを愛でいる俺の背中に衝撃が走る。振り返ると呆れ顔の元貴が顎をしゃくった。
「そろそろ移動するよ」
いつまでもここにいるわけにはいかないのはわかっているけど、もう少し余韻を浸らせてせてくれてもいいじゃん。一世一代のプロポーズをしたんだから。
俺がムスッと不満げな表情を浮かべると、涼ちゃんが小さく笑った。わぁ、かわいい……俺の感覚だと久しぶりな感じがして、より一層可愛く見える。いや、正しく久しぶりだ、こんな風に柔らかい笑顔を見るのは。
もっと見ていたいという俺の熱に反するように、するっと未練なく涼ちゃんは身体を離した。寂しくなって引き止めたくなるけれど、帰ってから好きなだけ抱きしめればいいかと我慢する。
「若井、ちょっとこれ持っててくれる?」
先ほど俺が渡したブーケを差し出され、いいよと頷き受け取る。本当に好き勝手選んでくれたなぁと花束を眺めると、先に歩き出した元貴に向かって涼ちゃんが小走りに近寄り、後ろから元貴に飛びつくように抱きついた。
「ぉわっ」
予想していなかったのか元貴が少しだけよろめくが、鬼のような体幹で転ぶことはなかった。ちょっと涼ちゃん? 彼氏の前で違う男に抱きつくって……相手が元貴じゃなかったら許されないよ?
「……ありがと、もとき」
涼ちゃんが震える声でそう言った。涼ちゃんの方が背が高いから、元貴の肩あたりに顔を埋めるような体勢になる。元貴の表情は見えないけれど、背中から感じるオーラはやさしくてあたたかくて、少しだけ寂しそうだ。元貴の涼ちゃんへの説明しがたい執着と愛情を知っている俺は、複雑な気持ちで二人を見守った。
ゆっくりと離れた涼ちゃんに身体を向けた元貴が甘く笑って涼ちゃんの頬に触れた。宝物に触れるように、やさしく、丁寧に触れているのが遠目でも分かった。
「……しあわせになって、誰よりも」
それは祈りの言葉だった。穏やかな声音で発せられた、元貴の心からの叫びだった。
元貴の激情を知ってか知らずか、涼ちゃんはいつもどおり、元貴が愛してやまないほんわかとした笑みを浮かべた。
「若井がいて、元貴がいたら、俺はしあわせだよ」
元貴より先に名前があがって安心する。記憶を失ったのは俺の落ち度ではないかもしれないが、その期間のやりとりはうっすらとだけど覚えている。涼ちゃんを傷つけたっていう自覚はあるから、もしかしたら元貴に負けるかもしれないと思っていた。プロポーズを受けてもらって不安になるのもおかしな話だが、相手が元貴となれば油断はできない。
「可愛いこと言ってくれるじゃん」
「だってほんとのことだもん」
うーん、可愛いな。とはいえ、俺以外の男に向ける笑顔じゃないんだよね、今日は許すけど。
元貴の目も可愛いとか愛しいとかじゃ言い表せられないくらいどろっとした甘さをたたえている。
このままほっとくとキスくらいしそうだなと涼ちゃんたちを追いかけて涼ちゃんの腰を抱き寄せる。わっと小さく声を上げて俺を見た涼ちゃんに、拗ねたような顔をして見せると、どうしたの? と言って、ふにゃりと甘く笑い返されて思わず喉が鳴った。可愛すぎる、キスしたい。
元貴がこれみよがしに溜息を吐いた。仕方ないじゃん、記憶にないけど少なくとも1ヶ月近く触れ合っていないわけで。目の前にこんなに可愛くて綺麗な恋人……婚約者がいたら我慢できるわけないじゃん?
「……ったく、浮かれてやがんな……」
元貴は、ニヤニヤが止まらない俺を冷めた目で見たあとそれを微笑みに変えて、ジャケットの胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
「俺からの婚約祝い」
差し出されて反射的に受け取る。白いカードに記されたロゴに、えっ、と二人で声を上げて元貴を見つめた。勝ち気で強気なのに、やっぱりどこか泣きそうに元貴はニヤリと口角を上げた。
「明日は三人でパーク巡りするからね!」
言外に、今夜は盛り上がりすぎるなよって言い残して、元貴はスタスタと歩いていってしまった。取り残された俺と涼ちゃんは顔を見合わせて、同時に手の中のルームキーを見て、再び視線を合わせてぷっと吹き出した。俺も涼ちゃんも、元貴こういうところがカッコよくて大好きなのだ。
純粋に喜ぶ涼ちゃんとは違って、俺の中にはひとつの確信があった。
俺の記憶が戻らなかったら、きっと元貴は涼ちゃんとここに泊まる予定だったのだ。俺が企画したプロポーズ大作戦を変更して、俺との関係が終わったことに傷ついた涼ちゃんを慰めるために活用したに違いない。甘やかして愛を囁いて、一夜を共にしたのだろう。どうせ俺は覚えていないんだから有効活用した方がいいに決まっている。
俺の記憶が戻ったことを心から喜んでくれている反面で、涼ちゃんをその腕に抱く機会を逸したことを残念にも思っているだろう。どちらも本音で、全ては涼ちゃんのためにどうすることが正解かを考えた結果だ。だからそれを責めるつもりはない。記憶を取り戻したことは察していたと思うから、こうなることは元貴の中で予定調和だ。
元貴のそんな献身的な愛情に、心からの敬意とあまりの愛の強さに少しだけ恐怖を覚えるけれど、今は親友からの粋なお祝いに全力で乗っからせてもらうことにしよう。特別な日に、大好きな人と、最高の夜を過ごすことができそうだ。
ごく自然に手を繋いで、元貴がくれた婚約祝いのホテルに向かって歩き出した。
チェックインは元貴によってすでに行われており、エントランスを抜けて部屋へと向かう。フロアの階数でどんな部屋なのかは予測がついていたが、いざ入ってみると部屋の豪華さに二人して入り口で固まってしまった。
部屋っていうか家じゃん。広さで言ったらうちと大差ないんじゃないのか、これ。
閉園後に貸し切ってもらった上にこの部屋を予約するなんて、いったいいくらかかったんだろうか。考えるだけで恐ろしい金額に、明日からどんな無茶振りをされても暫くはいうことを聞こうと密かに決意する。同時に、それだけの費用と労力を割いてもいいと思ってくれたこと、元貴の中での涼ちゃんという存在の大きさを実感する。思い出さなかったらどうなっていたのだろうか。
いったいこの部屋は何人で利用することを想定しているのか、やたら机と椅子が多い。その机のひとつに紙袋がふたつ置いてあって、それぞれ青い薔薇と黄色の薔薇が持ち手に付けられていた。
中を覗くとカジュアルな服が一揃え入っていて、メッセージカードには事務所スタッフ一同よりとだけ記されていた。プロのスタイリストが選んだ、もはや衣装と呼ぶべき完璧なセットアップに、涼ちゃんが俺の手を握って、嬉しいね、とかわいく笑った。そうだねと返して、笑みをかたどる唇に触れるだけのキスをした。
たったそれだけで真っ赤になる涼ちゃんが可愛くて、もう一度キスをしようと腰を抱くと、涼ちゃんがそっとそれを止めて、視線を合わせないまま小さな声で問い掛けた。
「いつ、記憶戻ったの? ほんとに、戻ったの?」
……まぁ、そうなるよね。不安に思うのも仕方がないから、きちんと話をしよう。元貴に言葉が足らないと怒られたくないし、誤解を与えたまま放置したくないし、信用されないっていう状態は避けたかった。
長くなるから先に花のケアをしておこうと、ホテルのキャストさんにお願いして大きめのグラスを借りる。束にした花を水を入れたグラスに一輪ずつ挿していく。俺でもわかる花がいくつかあるが、ほとんどは分からなかった。誰がどれを渡したのかも気になるし、あとで確かめながら調べてみよう。
花を活けて、大きな窓の下にあるソファに隣り合って腰掛ける。涼ちゃんの手をぎゅっと握ると、暑いくらいの気候なのに涼ちゃんの手はやっぱり少しひんやりとしていた。
「……完全に戻ったのは2日前。それまではなんていうか、映像を見てるような感じだった」
「映像?」
「うん。映画とかドラマのシーンが頭の中に流れ込んでくる、みたいな。それがだんだん俺自身の記憶になっていったって感覚なんだよね」
お酒で記憶をが曖昧になったことくらいはあっても、記憶をなくしたことがない涼ちゃんに説明するのが難しく、それ以上どう言えばいいか分からない。
「どうしたら信じられる? なんでも訊いてよ、答えるからさ」
涼ちゃんは少しだけ考えて、
「俺に告白してくれたとき、俺の好きなところ言ってくれたじゃん? あれ、言える?」
と言った。
なるほど、そうきたか。でもね、そんなん余裕だよ。だっていつも思っていることだから。記憶をなくしていた俺も感じていたことだから。
「言えるよ。……『好きなところなんていくらでもあるけど、涼ちゃんの笑った顔が好き。なんにでも一生懸命で、努力家なところが好き。音楽に対してすごく真面目なところが好き、俺が作ったものを美味しいって言ってくれるところが好き。俺と元貴の話を否定せずに聞いてくれるところが好き、ノリが良くて一緒にバカみたいなことをやってくれるところが好き。誰も傷つけないよう気をつかえるところが好き』」
多少順番は違うかもしれないが、共同生活の最終日、二人でご飯を食べに行ってアイスを買った帰り道に俺が言った言葉だ。
「朝起きて最初におはようって言いたい。夜寝るときにおやすみって一緒に寝たい。だから俺と住んでよ、って俺から同棲を持ちかけた」
涙を浮かべる涼ちゃんに、意識的にやさしく微笑みかける。
「ぜんぶ、覚えてるよ。初めて涼ちゃんと二人で海に行ってさ、砂でお城作るって二人で張り切って、ヨーロッパの城かと思ったら日本の城でさ、貝殻で籠城戦ごっこしたよね。結局波が一番強くて全部なくなって、自然ってすごいねって笑った」
うん、と頷いた涼ちゃんの目からぽろっと涙がこぼれる。
「元貴に付き合い始めたって話をしたとき、元貴の真顔がこわくてさ、親に言うより緊張した。むしろうちの親の方が楽勝だったよね。俺より涼ちゃんの方が自分の息子かってくらいの扱いだし」
「ふ、ふふ……うん、若井のご両親はほんとに俺に良くしてくれるよね」
隠しておく必要も理由もないと、俺の親にも涼ちゃんの親にも報告済みだ。驚かれはしたが反対はされなかった。むしろ俺が一人で実家に帰ると、涼ちゃんは? って訊いてくるし、連れて行かないと、愛想尽かされたのかと心配される始末だ。失礼にも程がある。涼ちゃんのご両親は、涼ちゃんがこんなに優しい人に育ったのがよくわかるような優しい人たちで、二人が選んだことなら反対する理由がないよとあっさりと祝福してくれた。
いちばん緊張したのは元貴だ。反対はされなかったし祝福もしてくれたけど、俺は元貴に散々「泣かせたら許さん」と言われていた。だから今回はマジで危なかったのだ。
「……なんで教えてくれなかったの?」
涼ちゃんが拗ねたように唇を尖らせた。記憶が戻ったことは信じてもらえたようで、そこは安心する。
「中途半端な状態で伝えたくなかったのと、サプライズに向けて各方面に働きかけてて……」
忙しくてゆっくり話ができなさそうだったから、プロポーズが成功したら話そうと思って、とごにょごにょと言い訳をする。
「……今朝、さいあく、って言った」
「へ?」
「朝、ソファで起きたとき、さいあくって言ったじゃん!」
朝……と考えて思い出す。起きたら涼ちゃんの可愛い顔があって……
「あぁ!」
「起きてすぐ俺の顔があったからそう言ったんじゃないの?」
「まさか! あれは、起きてすぐに涼ちゃんの顔があったからキスしそうになって!」
「へ?」
「準備に時間かかるから朝イチで打ち合わせ入ってたのに寝落ちたことに最悪って言っただけだよ! 風呂入ってなかったし、涼ちゃんに臭いって思われたらどうしよってなって!」
ぽかんと口を開けた涼ちゃんが、なにそれ紛らわしい! と叫んだ。
「てか起きてたの!?」
涼ちゃんがこくん、と頷く。
「起きてすぐに天使がいるのに最悪だなんて思うわけないじゃん!」
「わかんないよそんなの! 記憶ないと思ってたし!」
「それはごめん!」
勢いよく謝ると、むぅと眉を寄せた涼ちゃんが、
「……いっぱい甘やかしてくれたら、ゆるす」
なんて可愛いことを言うものだから、迷わずソファに押し倒した。
押し倒した勢いのまま唇を重ねる。何度も角度を変えて、存在を確かめるようにキスを繰り返す。
「ん……は……っ、ぁ、んぅ……」
舌を絡めると涼ちゃんから甘い声が吐息と共に漏れ、その甘美な響きに高まる熱を感じる。思えば1ヶ月禁欲生活だったのだ。よく我慢したと自分を褒めてやりたい。
「ぁ、んっ、ね、おふろっ」
「……ん?」
「おふろ、入りたいっ」
涼ちゃんの首元を飾るネクタイに手をかけて固まる。
……今? 確かに暑かったし着飾ったから汗もかいたしさっぱりしたい気持ちは分かるけど、今?
「……滉斗が思い出してくれたから、これから先いくらでもできるじゃない」
不満げな俺の頬を撫で、涼ちゃんが嫣然と微笑んだ。
いや、煽るだけ煽ってひどくない? 無意識かも知んないけどその笑顔も焚き付けるだけだからね?
それでもすぐにでも涼ちゃんと熱を交わしたかった俺に、はにかんだ涼ちゃんが続けた。
「……いっしょにはいろ?」
「入る」
すぐに身体を離した俺に、現金だなぁと笑った涼ちゃんの手を引いて、いそいそとバスルームに向かった。なんとでも言えばいい。婚約者からの可愛いお誘いに乗らない男はいません。
スイートルームなだけあって、バスルームもアホみたいに広かった。ガラス張りのシャワールームとは別のジャグジー付きのバスタブ。バスルームの隣がすぐにベッドルームという間取りも最高だった。
大きなバスタブだったけれど案外すぐにお湯が溜まり、先に身体を洗うから入っててと言われて、渋々湯船に浸かってシャワールームを凝視する。湯気で全貌は見えないが、涼ちゃんがシャワーを浴びてる姿がなんとなく見える。これはこれでたまらなく蠱惑的な光景だった。
新曲に合わせて青く染めた髪は少しばかり鮮やかさをなくしたが、落ち着きと艶めきを放って涼ちゃんの魅力を引き立てていた。髪にも毛根にもダメージはあるはずなのに、女神の美髪と言われるだけあって煌めいて見える。
涼ちゃんはお腹に肉がついたと嘆いていたけれど、夏までに痩せるという宣言通り以前に比べて引き締まり、なめらかな腰のラインを強調して、肉付きのいいお尻とむっちりとした太腿は色っぽかった。
「……生殺しすぎる……」
見られているとは思っていない涼ちゃんは隠すことも恥じらうこともせず、普段通りに頭と身体を洗い流していく。ぽこぽこと細かい泡を放つジャグジーに揺られながら両手で顔を覆った。
「どしたの若井。のぼせた?」
洗い終わった涼ちゃんがぺたぺたとこちらに歩いてきた。
顔を上げると全裸の涼ちゃんが不思議そうに俺を見ていた。首を横に振って大丈夫と伝える。
「そう? 若井も洗ってきたら?」
「あとでいいから、はやくこっち」
これ以上待たされてたまるか。
俺の真剣な声に薄く笑った涼ちゃんが、お邪魔しまーすとバスタブに足先を入れ、俺の正面に座った。
「あー……生き返る……」
ぐぐっと伸びをした涼ちゃんの、のけぞった首筋が美しくて思わず見惚れる。言っていることはおじさんくさいのに。
「……こっち、おいで」
両腕を広げるとおずおずと浴槽内を移動して、俺の近くまでにじり寄った。ぐいっと手を引いて俺の上に座らせ、涼ちゃんの腰に両腕を回し身体を密着させる。
「涼ちゃん」
「なに?」
「名前呼んでよ」
「ぁ……」
さっきからことあるごとに若井呼びになっていることを指摘すると、涼ちゃんが気まずそうに目を泳がせた。
俺の記憶が戻ったことを疑ってはいないのだろうが、防衛本能が俺の名前を涼ちゃんに呼ばせないようにしているのだろう。
そのくらいに俺の態度に涼ちゃんは傷ついた。それは仕方がないことだ。
「……涼ちゃん」
「ん?」
「あのまま俺の記憶が戻らなくてもさ」
「……うん」
「俺はまた涼ちゃんに恋をしたよ、きっと」
涼ちゃんが目を見開いた。
「涼ちゃんの笑顔や優しさに、俺は何回でも恋をするよ」
その過程で涼ちゃんを傷つけてしまうかもしれないが、記憶を失っていたときでさえ、元貴に渡したくないと俺の本能が叫んでいたのだから。
「……ずるい、そんなの」
涼ちゃんが濡れた声で呟く。ずるいか、そうだね。俺もそう思うよ。でも、誰にも渡したくない。元貴にだって、譲りたくない。ずるくたっていい、傷つけて泣かせるのも、そんな涼ちゃんを癒して甘やかすのも、全部俺がいい。
「ひろと」
「うん」
「ひろ、と……」
「うん」
泣きながら俺の名を呼ぶ涼ちゃんを抱き締める。
「……いやってほど甘やかすから、覚悟しといて?」
「ふは……っ、のぞむところ」
前世も今世も来世も、俺は何度でもきみに恋をする。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ(崇徳院)
続。
次回最終話です。
拗らせるのは風邪じゃなくて愛だけにしたい。
コメント
5件
更新ありがとうございます🥹 体調大丈夫かなとまた勝手に心配してました! この回があるから、初めらへんの辛い場面、安心して読み返せます🫶💙💛 付き合う時や同棲する時のお話もチラッとでて来て、色々妄想が膨らみました〜🫣💕 魔王ももちろん大好きなのですが、作者様の💙💛もこのお話で更に好きになりました🙌
体調悪い中更新ありがとうございます😭 終始ニヤニヤしながら読んでました!若様甘々だ🤭 魔王が魔王たらしめていてカッコいいし少し切なくてギュンとなりました… 魔王ENDは妄想で楽しんでおきます笑 あと「俺はまた涼ちゃんに恋をしたよ、きっと」←このセリフ!こんな感じのことを若様に言ってもらいたかったので、私こそ詳細いろいろお願いしたかなと思うぐらい見たいシチュエーションたくさんありがとうございます😭