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🌹はなみせ🍏
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ようやく、この瞬間が来た。
玄関の鍵を閉めたとき、カチャリという音がいつもより重く、そして心地よく響いた。
「……今日から、ここがらんちゃんの家だよ」
そう言うと、らんちゃんはまだ少し遠慮がちに「お邪魔します……じゃなくて、ただいま、ですね」とはにかんだ。その破壊力に、危うくその場で抱きしめそうになるのを必死でこらえる。
二人でキッチンに立って、簡単な夕食を作る。
僕が野菜を切って、らんちゃんが味付けをする。5年前、上野で別れたときには想像もできなかった、あまりにも家庭的で、あまりにも愛おしい光景。
「元貴さん、味見してもらえますか?」
差し出されたスプーンを口に含む。
「……美味しい。世界で一番、美味しいよ」
「もう、大げさですよ」
なんて笑い合う時間が、僕にとってはどんな音楽の賞よりも価値がある。
お風呂上がり。
リビングで少し湿った髪を揺らしている彼女の隣に座り、約束通りドライヤーを手に取った。指の間をすり抜ける、柔らかくて細い髪。
「元貴さん、手が優しい……」
「……だって、宝物だからね」
鏡越しに目が合うと、二人して同時に照れて笑ってしまった。
髪を乾かし終えて、照明を少し落とす。
ソファで肩を並べて座り、どちらからともなく手を繋いだ。
「ねぇ、らん。5年前、あの場所で仕事場に誘って、本当によかった」
「私もです。あの時、元貴さんが見つけてくれなかったら、今の私はいないから」
今日からは、もう「また明日」と送り出す必要はない。
眠りにつく瞬間まで、そして目が覚めた瞬間から、彼女は僕の隣にいる。
「おやすみ、らん」
額にそっとキスを落とすと、彼女は僕の胸に顔を埋めて「おやすみなさい、元貴さん」と小さく呟いた。
5年間の渇望が、ようやく穏やかな幸福へと変わっていく。
僕の人生で最も静かで、最も熱い、最高の夜が始まった。
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