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部活も終え、無事帰宅。今日も隠れ真面目系男子としていたって真剣に学校に通った。
「ただいま〜」
家の玄関を開けても物音ひとつ家の中から音がしなかった。
そういえば、今日は魔桜皇国に行ってるんだっけ…。静かに閉まった玄関のドアの音が静かな家の中だとやけに大きく聞こえる。今朝、ミニトマトで揶揄ったことを思い出しながら少しの申し訳なさと多くの寂しさが体の内側から滲み出るのを感じた。まぁ、こんなことを表に出して言うようなことは“絶対“しないが…、なんて少しの強がりを心の中に吐いて手を洗いに向かう。
課題をある程度進め、気がつけば6時。夕飯の支度の時間だ。普段は甲斐田くんとぼくで代わり代わり夕飯を作っていて、今日は甲斐田くんが作る予定だったのだが、今日ばかりは仕方がない、たったの1人分の食事だしさっさと作ってしまおう。冷蔵庫の中にはそこそこ食べ物が入っていたはずだ。
僕が簡単な料理を作っている間も家の中はやけに静かで、改めて甲斐田くんが魔桜皇国に行ってしまったことを実感する。普段は甲斐田くんが元気に口を動かしていたため退屈しなかった。適当に聞き流していた気でいたが結構聞いていたのだろう。別に話の内容など覚えてもいないが、僕も他愛のない話を聞いて笑っていた記憶はある。ここまで思い出してまた寂しさが滲んできた。僕はこんなにも寂しがりやだっただろうか?または魔桜皇国という自分の知り得ない場所に行ってしまったことへの心配もあるのか。
気がつけば朝だった。朝になっても家の中に人の気配はなくて、いないとわかっていても甲斐田くんの部屋の前まで来てしまった。一応3回ノックしてドアを開ける。やはり部屋の中は、締め切られたカーテンの微かな隙間から光が漏れ出した、昨日の朝となんら変わらない空間が広がっていた。なんの膨らみもない甲斐田くんのベットに近づき、いつものように布団を捲る。いつもならここに顰めっ面をしながら項垂れている甲斐田くんがいるのだが、今日は白いマットレスが出迎えてくれた。嬉しくない出迎えだ。僕の朝のルーティーンとなっていた甲斐田くんとの攻防戦がない、これだけでなんだか調子が狂う。普通は、朝の無駄な時間をなくせるんだ、嬉しいことのはず。…なのに、
ガチャ…
甲斐田くんが魔桜皇国に行ってから早一週間、いつも通り学校から帰宅。
流石の僕も寂しさが滲むどころではなくなってきてしまった。甲斐田くんは今、魔桜皇国で何をしているのだろうか。おそらく仕事だろうが、危ない目に遭っていないだろうか。親のような心配だし、甲斐田くんなら大丈夫だろうという信頼もある。しかし、体は思っているより頭に従ってくれないらしい。寂しさが涙という形をとって溢れ出てくる。泣いたのなんて久しぶりだ。しかも一人が寂しくて泣くなんて。甲斐田くんにバレたら揶揄われてしまうだろう。
「うぅ…」
しばらく玄関で鼻を啜っていたと思う。涙を堪えることに必死でどのくらい時間が経っていたのかはわからないが、ようやく涙でぼやけた視界が鮮明になってきた。いつまでも玄関で泣いているわけにもいかないので家に上がろうと靴を脱ごうと屈んだ時、
「落ち着きました?剣持さん」
…っ!聞き慣れた、しかししばらく聞くことのできなかった声が耳に入ってきて反射的に振り返る。そこには心配そうな顔をした甲斐田くんが僕を見下ろしてた。久しぶりに顔を見れたことへの安堵と、泣いているところを見られたことへの羞恥心が僕の中で入り乱れている。僕が言葉に詰まっていると、甲斐田くんが屈み、僕に目線の高さを合わせた。
「…何かあったんですか?」
なんて言いながら僕の濡れた頬を撫でた。…なんでそんな距離近いんだよ。普段僕が泣いているところを見たら、まず慌てふためいてるだろうに。なんで今回はこんなに冷静で、優しいんだよ。
しかし、理由を言うわけにはいかない。普段は媚びないと心に誓っているんだ、そんなことは甲斐田くんももちろん知っていて。そんな僕が一人が寂しくて泣きました、なんていえばイジリの格好の的だ。それは僕のプライドと自尊心が許さない。
「なんでもないです…。ちょっと、部活でうまくいかなかっただけ…」
「それで、こんな?ぁ、いや、それならいいんですけど…」
ここで会話が途切れてしまった。気まずい以外の何者でもない。双方この後そう動けばいいかわからないようだ。甲斐田くんはおそらく僕が嘘をついたことに気づいただろう。それでも深くは訊いてこない。今はそれ以上にありがたいことはない。一方の僕はやのプライドだの自尊心だので甲斐田くんを困らせてしまってる。…情けないな。でもそれが僕の売りで、個性の一つとしてみんな捉えてくれている。今ここで曲げる意味もなかろう。甲斐田くんには心配させてしまうが、さっさと話題を変えなければ。
「えっと…、とりあえず、入りましょう。中…」
「ぇ、ぁ。そうですねっ」
一週間前まで仲良く揶揄いあっていた仲とは思えないほど辿々しい会話だ。リビングについてからもあまりに会話がなかった。なんだか居心地が悪くて、いっそ理由を話せばいつも通りの雰囲気に戻るのではないか。プライドと居心地の2つを天秤にかける。
まず甲斐田くんは仕事帰りだ。もちろんのこと疲れているだろう。それで、帰ってきたらこの雰囲気だ。流石にかわいそうだと思う。これは僕は素直に慣れないだけで媚びではないのでは?
いや、流石に一人が寂しかった、なんて早く帰ってきて欲しかったと言っているのと同義なわけで、立派な媚びだ。多分。
う゛〜ん
よし、いけ、がんばれ僕。
「あの、甲斐田くん…」
いいところですが切らせていただきます。
遅くなってしまい大変申し訳ありません🙏
なんか雰囲気重いですが、短略化すると、もちさんが寂しくて泣いちゃったけど素直に慣れてないだけなので、そこまで重くないんですよね。かわいいですね。
次の話はいつになるかわかりませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。
それではさようなら👋