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お父様がトゥーンで行われていた演奏会から帰ってきた。
「マリアンヌ、ふくれ面をしてどうしたんだい?」
「お父様……、お話があります」
私は首都から帰って来たばかりで疲れているだろうお父様を客間へ連れて行った。
そこには、ロザリーの担任の先生から受け取った、山積みの宿題が置いてある。
お父様をソファに座らせ、私は腕を組んだ状態で、彼を見下ろす。
「え? 君を怒らせることをしたかな……」
「これ、なんだと思います?」
「えっと……、問題が書かれた紙の山。程度からすると……、ロザリーの学校がやってそうな範囲だね」
「その通りですわ。ロザリーが”一か月”学校をサボっていましたの! お父様、何か知っているんじゃなくて?」
「……僕もついさっき知ったばかりだ。君には誤魔化しておこうと思っていたのに、もうバレてしまうなんて」
やっぱり。
ロザリーの行方が一か月分からなくても、悠長にしていたのは、彼女の行方を知っていたから。
私だけ何も知らないまま、ロザリーの安否を心配していたのだ。
「ロザリーが誘拐されたんじゃないかって、心配でしたのよ。それなのに!!」
「ごめんごめん、悪かった」
私は怒りの感情をテーブルに叩きつけた。
ドン! という音と共に、山積みになっていた課題が、パラパラとカーペットへ崩れ落ちる。
私に睨みつけられたお父様は、手のひらを私の方へ出し、額から出た冷や汗をハンカチで拭きとっていた。
「僕が知っていたのは、始め、ロザリーがずる休みをしていることだった。それで、町で聞き込みをしていたら、娘をトゥーンまで乗せた御者を見つけてね」
「……ちゃんと調べていたのですね」
「ロザリーは賢いね。代金を多めに払って、御者に口止めをしていたんだから」
「あら……」
ロザリーの行動は思ったよりも計画的みたいだ。
「演奏会のついでに、トルメン大学校に寄ってみたら―ー」
「ロザリーがいたんでしょう? 私に変装して」
「あれ、知っていたのかい? 驚くと思ったのになあ」
やっぱり。
お父様に言われて、私が考えていたことが事実だったことが分かった。
お父様がトルメン大学校に寄ったのは、きっと私の退学届とロザリーの編入届を出すためだ。手続きをしている最中に、マリアンヌが在学していると聞き、ロザリーを見つけたといったところか。
だけど、トゥーンから帰ってきたのはお父様だけ。
ロザリーはまだ、私に扮してトルメン大学校にいる。
「それで……、ここへ連れ戻さなかったのですか?」
「うん。ロザリーはマリアンヌのために頑張っているから。あの子なら君に代わって実技試験を突破すると思うよ」
「……」
「ロザリーはマリアンヌがピアノを辞めた理由を知るために無茶なことをしているんだ。君が話してくれたら、こうはならなかったよ」
「私は……、私は―ー」
「トルメン大学校で何があったのか、僕に話してくれないかい?」
「……分かりました。ですが、ロザリーには秘密にしてください」
私はすうっと空気を吸い、お父様に音楽を辞めようとした理由を話す。
☆
私がお父様に音楽を辞めたい理由を打ち明けてから、さらに一か月が経った。
「……憂鬱だわ」
お父様には”ピアノを一日三時間、弾きなさい”と言われた。
その言いつけを守らせるために、演奏室には私がピアノを弾いているかメイドが監視している。
とりあえず、私は譜面をピアノに置き、フタを開く。
弾いてはみるけれど、以前のような楽しさは全く感じれられない。ただ、譜面の通りに弾いているだけだ。これを三時間続けるなんて苦痛だ。
「マリアンヌ! ロザリーから手紙が来たよ」
「本当!! お父様、見せて!!」
一曲弾き終え、ため息を吐いていると、お父様が入ってきた。
お父様の手には包みが二個ある。
ロザリーから手紙が来るなんて、嬉しい。
私はお父様から包みを受け取り、それを開けた。
「……あの子、私が何も知らないと思っているのね」
手紙の内容は、町の学校で勉強に励んでいますという嘘の内容だった。
それを読んだ私は、ロザリーに嘘をつかれていることに心が傷ついた。
ロザリーの事だから、私を心配させまいという気遣いなのだろうけど、除け者にされているようで嫌な気持ちになる。
けれど、包み紙から出てきた、私の名前が彫られた小さな長方形の木箱と、その中にあるガラスペンには喜んだ。これは、ロザリーとおそろいの物だという。
「お父様には……、なんて?」
「うーん、マリアンヌには過激すぎるかなあ」
「もう! 私、もう十五歳ですのよ!! もったいぶらないで教えてくださいまし!!」
「ごめん、ごめん。じゃあ、教えるね」
お父様の手紙には、実技試験が終わった後の出来事が淡々と書かれていたらしい。
手紙の内容に『報告書』みたいだ、とお父様は苦笑していた。
「そう。メリアが……」
ロッカーから物を盗難していた犯人を突き止め、その犯人は退学処分になった。
そして、チャールズとの関係は良好。
チャールズとリリアンとの仲は最悪で、自分が板挟みになっている状態であること。自分とチャールズのやり取りに激昂したリリアンに首を絞められ、殺されそうになったこと。マリーンに助けられ、リリアンが二か月学校を停学になったこと。リリアンの行動に我慢が出来なくなったチャールズが、彼女との婚約を破棄する動きに出たこと。
「だめ…! そんなことしたらーー」
「ロザリーは”何も”知らないんだ。マリアンヌのためを思って行動している」
私はロザリーがやってきたことを聞き、つい思っていたことが声に出てしまう。
「マリアンヌ、ピアノは欠かさず弾きなさい。それが、ロザリーの助けになるのだから」
ロザリーはいけない方へ進んでいる。
私が演奏を辞めようと決意した出来事をもう一度、起こそうとしている。
その時になったら、ロザリーはどうするのかしら?
逃げずに、立ち向かうのかしら。
立ち向かうのだったら、今度は私も―ー。
そのためには、お父様の言う通り、ピアノを弾いて、以前の感覚を取り戻すべきだ。
「ええ。それがロザリーの力になるのなら」