テラーノベル
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それを片手でグッと肩を押さえるようにして制したランディリックに、リリアンナが困惑した視線を向ける。
「ランディ?」
「休みなさい、リリアンナ」
あえて、〝リリー〟と呼ばずに〝リリアンナ〟と語り掛けて命令口調で言い放てば、敏い子だ。すぐにランディリックの意図を察したらしい。
「イヤ! 私、カイルの看病をしなくちゃいけないの!」
「ダメだ」
「どうして!? ……カイルは私のせいであんなひどい目に遭ったのに!」
「リリー。自分でも分かっているだろう? 頑張り過ぎだ。これ以上はキミの体調に悪影響を及ぼしかねない。庇護者として、許すことは出来ないんだよ」
「でも!」
「カイルが意識を取り戻し、医務室から自室へ戻るまで、キミも医務室へ行くことを禁じる」
その声には逆らえない強さがあった。
リリアンナは、それでもなにか言い募ろうと懸命にランディリックの顔を見つめて言葉を探す。
けれどランディリックはそんなリリアンナからふいっと視線を逸らせると、背後を振り返った。
「ブリジット」
いつの間に、来ていたのだろう?
リリアンナの自室の扉のすぐ外へ、侍女頭のブリジットが控えていた。
「忙しいところすまないが、ナディエルが回復するまでの間、キミがリリアンナに付いてやって欲しい」
ランディリックはブリジットに、ナディエルが回復するまでの間、彼女自身がリリアンナの世話係として付くよう申し付ける。
他の侍女ならまだしも、リリアンナもブリジットには逆らえないのを知っていての采配だ。
それは実質、リリアンナが勝手なことをしないよう、監視役を付けると言われているようなものだった。
「ランディ!」
リリアンナが抗議の声を上げたけれど、ランディリックはそれを一切聞き入れなかった。
喧嘩にこそならなかったが、リリアンナはそんなランディリックの所業にとうとうプイッと横を向き、唇を固く引き結んでしまう。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、ランディリックにはその小さな背中がひどく遠く感じられた。
ベッド上、そっぽを向いた小さな背中に生まれた隔たりを感じながら、ランディリックは黙ってそんなリリアンナを見守るしか出来なかった。
リリアンナの身を案じてのことだというのは間違いじゃない。
だが、それにも増してランディリックの胸の奥で渦巻くのは、リリアンナがやたらとカイルにばかり心を向けていることを苦々しく感じるどす黒い感情だった――。
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嫉妬?