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翌日も翌々日も、探して、探して、探した。
人に聞いても知っている人がいるはずもなく、暗くなるまで歩き続けた。
連絡先も今の居場所も分からないけれど諦めきれなかった。
どうしても会いたかった。
会いに来るためにここへ来たのだから。
再び、私の心は彼への想いで埋められた。
しかし、運命的に再開するなんてことはなく、1つの情報も得られずに日を終えた。
帰りの飛行機で空からなら見つけられるかな、なんて考えた。
それほど私は彼を欲しがっていたのだろう。
自宅に帰ってからは仕方のないことだった、と自分に言い聞かせながら面倒を見れていなかった紫色のアネモネに水をやる。
まだ、綺麗に咲いていた。
いつもと変わらない朝がやってきた。
眠い目を覚ますためにテレビをつけた途端、固まった。
交通事故のニュースだった。 彼の名前が出ていた。
『彼女を守り、亡くなった』と。
空気が抜けたように力が入らなくなって座り込んだ。
町の名前、日時、居眠り運転。
全てあのとき私が見た光景と一致した。
泣きながら話す女性が映し出されて、それが亡くなった男性が交際していた女性だと説明されていた。
そして、気づけば泣いていた。 声を出して泣いていた。
彼はあのとき、交通事故から彼女を守り、自分を死なせたのだ。
私は彼に会っていた。彼には守らねばいけないと思える彼女がいた。
ひとつずつ、なにかがすり抜けていくのを形にして分かっていく。
辛くて、苦しくて、頭が真っ白になったまま、たくさん泣いた。
あなたに会いたかったと思っていたけれど、私はあのとき、あの場所であなたと会っていた。
すでにあなたを見つけていた。
でも、今はもう生きていない。届かない場所にいる。
きっと彼女と幸せに暮らしていたのに、私はあなたに会いに行こうとして、私だけが必死になっていた。
そんな事実や虚しさ、悔しさが波のように私を飲み込んだ。
それから、突然にして押し寄せた現実をしばらく私は受け止めきれなかった。
現実として感じたくなかったのかもしれない。
夢であってほしいと毎日願った。
それでも現実は変わらず、過去として少しずつ時間は過ぎていく。
毎日泣いて、腫れた顔で過ごし、何度も胸が苦しくなったけれど、時間が経てば不思議と心が落ち着いていった。
そして、ようやく整理がついた頃には1年と半年の月日が流れていた。
あの頃より少し大人になった私は、未だ残った苦しさは抱えているけれど、前を向けるようになった。
毎朝コスモスと顔を合わせて新しい日を迎える。
立ち寄った花屋で買ったチョコレートコスモスという珍しい花。
黒色で暗いけれどとても綺麗な色で凛としている。
あなたより遅れたけれど私もまた幸せになるよ。
今彼に伝えるなら、そう言いたい。