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王都での事件が解決してサウスプリングの町へと帰ってきてから早3か月が過ぎた。
この世界へとやってきてから怒涛の日々から一変してこの数か月の間は本当に何事もなく平穏そのものだった。まあ人生って言えばこれくらい日々が平穏なのが当たり前だからこの前までがおかしかっただけなんだけれども。
しかし、全く変わったことがないかと言われるとそういう訳でもない。
この3か月の間も俺は冒険者として研鑽を続けてきた。
Dランクに上がったこともあって今まで以上にいろんな依頼をこなし、実践の経験を積み続けた。その甲斐もあって今では早くもCランクに昇格することが出来た。ここまでくると一つ一つの依頼の報酬がかなり多くなってきており、おかげで貯金もかなり貯めることが出来ている。
もしかしたら夢ののんびり隠居スローライフも近いのかもしれない。
それに加えて魔法の勉強や開発、レベル上げにスキル習得など戦闘能力の向上にも注力してきた。王都での一件で痛感した自分の詰めの甘さなどの反省点を改善するため、以前にも増して持ち前の妄想力を用いてあらゆる事態を予測した攻撃手段や防御手段を確立させていった。
その結果、新たに習得したスキルや魔法は軽く30を超えている。
厳密には数えていないのでもしかしたら50も超えているかもしれない。
そんなたくさんの魔法やスキルを習得していざという時に使えるものなのかという心配もあるだろうが、それに関しては問題ない。実は以前から持っていたスキル『超理解』のおかげで取得しているすべての魔法やスキルを全てしっかりと把握しており、言うなれば必要な時に必要なものを脳内で瞬時に検索してくれているような感じなのである。
こればかりは感覚的なことなので言葉で説明するのは難しいが、要は大量のスキルや魔法を覚えていようが全てちゃんと適材適所で使いこなせるので安心してほしい。
まあこれだけ備えてはいるが、実際のところ俺が妄想しているような最悪の事態が起こらないでこのままずっと平穏が続いていって骨折り損終わってくれればそれが一番いいのだけれどね。
…そんなこと言ってるとフラグが立ってしまう気がするからこれ以上は言及しないことにしよう。前世から一級フラグ建築士のセンスがあるっぽいから気をつけないと。
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「おはようございます!!!」
身支度を済ませて宿の部屋から一階へと降りると朝食の後片づけをしているランちゃんの姿があった。目が合うと彼女はすぐに元気よく挨拶をしてくれる。これも俺にとって変わらない平穏な日常である。
「おはよう、ランちゃん」
「今日も依頼ですか?」
「うん、そのつもりだよ」
ランちゃんは急いで手に持っていた食器を厨房の方へと持っていくと帰りには小さな巾着のような布袋を手に持って来ていた。
「最近冷えてきたのでこれどうぞ!」
そう言って俺にその布袋を手渡す。
受け取るとじんわりと袋から熱が伝わってくる。
もしかしてカイロ的なやつだろうか?
「これ、どうしたの?」
「これ持ってるとほんのり温かくなるんですよ。お父さんがいくつか温めてくれてるので一つぜひ持って行ってください!!」
聞くところによると、どうやらこれは中に熱をため込みじわじわと放出する性質のある金属が入ってうるようだ。ここではそれを温めてカイロ代わりにしているらしい。
魔法がある世界なのにこれは何だか科学って感じがするな。
「ランちゃん、ありがとう!では行ってきます。」
「いってらっしゃい~!」
朝から手のひらだけではなく心まで少し暖かくなったように感じる。
俺は何だか重力が軽くなったかのような足取りで冒険者ギルドへと向かっていく。
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「あっ。おはようございます!ユウトさん」
「レイナさん、おはようございます!」
ギルドに到着すると書類を両手いっぱいに抱えているレイナさんと鉢合わせした。ギルドの中は気温が下がってきてから徐々に賑わいが減ってきている。レイナさん曰く、寒くなるにつれて冒険者は仕事をしなくなってしまう人が多いのだそうだ。
みんな、寒さに弱いのか?
ちなみに俺は暑いより寒い方が好きなので逆に活発になります。
…えー、唐突な自語り失礼しました。
そのため受付嬢たちもこの時期辺りからはメインの仕事が冒険者の対応ではなく書類仕事に切り替わるらしい。だからかは分からないが今日のレイナさんはいつも以上に書類を手に持っている気がする。
「その量、大丈夫ですか?もしよければ運ぶの手伝いますよ」
「いえ、大丈夫ですよ!見た目ほど重くないので。それに私だって少しは鍛えてるんですから!」
どうですかっ!と言わんばかりの得意気な表情でそう答える。
何とも可愛らしい仕草で思わず口元が緩んでしまった。
まあ実際、レイナさんは見た目ほどか弱くはないらしい。あのガイルさんの娘ということもあって幼少期から護身術と称して多少の剣術や魔法を学んでいたと聞いている。それに子供の頃の夢は母親がギルドの受付嬢をしていたこともあって、なんと冒険者を目指していたのだという。
正直初めて聞いた時は驚いて言葉を失ってしまった。しかし思春期にあった気持ちの変化や母親の助言もあって今の受付嬢という仕事に就くことになったそうだ。
本当に人って見た目で判断できないものだと思った一件である。
「あっ、そういえばユウトさん。ギルドマスターが話があると仰っていたんですよ。少し待っててくださいね!」
「あっ、はい」
そう告げるとレイナさんは少し駆け足でギルドの奥へと姿を消した。
しばらくしてどこかに書類を置いてレイナさんが帰って来た。
「応接室でギルドマスターが待っていますので来てもらえますか?」
「はい、もちろん」
俺はレイナさんに言われるがまま応接室へと向かっていった。基本身に覚えがない用事で呼びだされるときって面倒なことになりそうな気しかしないのだが、ここで行くのを断ったら困るのはレイナさんだし大人しくついていくことにした。
まさかこんなにも早くフラグ回収をしてしまうのだろうか…
どうか厄介事には巻き込まれませんように!