テラーノベル
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蹴飛ばした小石に目線を辿ったら
なんと、くるみのマンションの玄関ホールに立っている洋平が、視界に飛び込んで来た
彼はあの壁ドンされた場所に佇み、素敵な茶色い瞳でくるみを見つめている、その表情はよくわからなかった
くるみはその場に佇み、一歩も動けなくなった
―幻?・・・
私があんまり会いたいと思っているから、夢を見ているのだろうか?
心臓が飛び出しそうに感じて、大きく息を飲み、両手で口を押えた
全身の細胞が純粋な喜びで満たされる、信じられない気持ちでくるみは目をしばたたいた
紺色のナイキのパーカーにブラックのデニム・・・そして厚底のフォーキンズの靴が何より彼の脚を長く見せた
億万長者のくせに大学生のような服装は相変わらずで、くるみの心臓は三倍の速さで打ち続けた
会いたかった・・・でも・・・彼は私を嫌っているはず何しに来たんだろう・・・
くるみはゆっくりと彼の傍に歩み寄った、そしてしばらくのあいだ二人は互いを見つめ合うしか出来なかった
「こんばんは、くるちゃん」
「こ・・・こんばんは・・・洋平君・・い・・・いい夜ね・・・」
って、何普通に挨拶しているのっっ私ったら!
思わず焦って目を泳がせた彼は何しに来たんだろう
彼はホッと息を継ぎ・・・・優しい表情で言った
「どうしたら大切な君を信頼できるか教えてもらいに来た」
「信頼?」
途端にくるみの胸は重く沈み、呼吸は苦しくなった
彼はまだ私を疑っているのね・・・・
「あの雑誌は会社でもらったの、もちろん読んでいないからあなたが載っているなんて、知らなかったわ・・・嘘などついていないけど、証明は出来ないし、証明しようとも思わないわ・・・・」
ガッカリして言った
もう泣かないと決めたのに・・・またジワリと目に涙が溢れる、きっと彼は女の涙も嫌いなはず
「あなたが本当に私の事を信じてくれているのなら、私があなたを騙したりしない女だってわかるはずよ・・・それさえ分からないで、どうして私があなたにとって大切な人間だとわかるの?」
「この一週間・・・・君がいないと、僕の人生から明かりが消えたみたいな感覚に陥っていたんだ・・・」
「私もよ・・・・あなたと離れているのは辛いわ」
「すごく辛い・・・ああ・・・くるちゃん・・・君が僕を騙す理由を百通り考えた!でもその百倍君を信じたい気持ちが溢れてくるんだ!僕は君を信じることにしたっ!!」
「洋平くんっ!!」
洋平はくるみの手をぐいっと引き寄せて胸にかき抱いた、くるみも泣きながらしっかりと洋平に抱き着いた
そっと唇が重なり、そのキスには彼の熱い思いが伝わって来た
洋平の温かい胸に包まれくるみは思った、彼は誠との未熟な過去から、私を解放してくれた
今度は私が彼にそのお返しをする番かもしれない、彼を無条件に愛することで、彼が女性に誇れるものは銀行残高だけでは無い事を教えてあげたい
でも・・・どうしたら私の気持ちを理解してもらえるのかしら・・・・
くるみは洋平の顔を両手で挟んで見つめた
「あなたを愛してるわ」
ハッと洋平が目を見開いてくるみを見る
「聞いて?あなたがお金持ちであろうと貧しかろうと、そんなことはどうでもいいのよ?どんな運命に巻き込まれようと・・・私はあなたを愛してます。私は貧乏役者の洋平君を彼が成功するまで、食べさせてあげるつもりだったのよ・・・あなたが信じられないなら、信じてもらえるまで言うわ・・・伝え続けるわ」
洋平も瞳を煌めかせて言った
「くるちゃん・・・君を信じるよ!なぜなら君を愛しているから」
それから顔を歓喜に輝かせて、くるみをぎゅっと抱きしめた
「ああ!そうさ!愛しているともっっ!そうか!この感覚か!今気づいた!僕は君を愛しているんだ!そうだったのか!今まで女性を愛したことがなかったから分からなかったんだ」
「・・・あなた自分で言いながら驚いているの?」
二人はじっとお互いを見つめ合った
「君を信じるよ・・・」
「本当に?」
「君を好きだと思っていた。ああ・・ずっとずっと前から好きだと思っていたんだけど、君と離れた一週間・・・僕は魂が腑抜けになってしまった感覚に陥ってたんだよ。そして永久に君に会えなくなると思うと絶対に嫌だと思った・・・ 」
くるみは洋平の言葉を聞きながら泣きじゃくった
鞄の中のハンカチを取り出したいのに彼が全然離してくれない
「それで君がもし、金目当てで僕を騙したとしてもそれでもいいと思う様になったんだ、大事なのは君の笑顔さ、君が望むなら僕の全財産をあげてもいいと思った」
夜空にうかぶ大きな満月のおかげで洋平は胸の中のくるみをマジマジと見つめた
「僕が金を稼ぐのが得意なのは事実だから、それも含めて僕を見てもらいたいと思った・・・大事な事は・・・僕は何が何でもずっと君の傍にいたいってこと!そしてもちろん今は確信してる、君は金で釣られるような、そんな人じゃないってね」
「洋平君・・・・・ 」
二人はじっと見つめ合い・・・コツン・・・とおでこをくっつけ合った
「疑って酷い事を言ってゴメンね・・・・」
「私も・・・ひっぱたいちゃった・・・」
クスッ「ああ・・・あれは痛かった」
「実は・・・・僕の目を覚ませてくれたのは君のお母さんなんだ・・・ 」
「え?母が?」
洋平はクスクス笑ってその時を思い出した
あの時・・・・くるみの母が洋平の事務所に怒鳴り込んで来た時・・・
・:.。.・:.。.
「お・・・お母さん・・・どうしてここに?」
洋平の事務所にあまりにも不似合いなくるみの母の存在に圧倒されて、洋平は目を丸くした
「あなたがどうしようもない!勘違いヤロウで、こんこんちきで、バカで、カスなのはわかりますけどね!一言うちの娘をあんなに傷つけた報いを受けてもらおうと、文句を言いにきたのよ!」
くるみの母親の声は震えるほど激しく、洋平は思わず椅子に腰を落とした
傷つけた?・・・くるちゃんは傷ついているのか?
洋平は母を唖然として見つめた。そして祖父と荒元と松田があっけにとられて見守る中で、洋平は母親の迫力に圧倒されていた
「あの子はね!小、中、高と捨て猫を拾ってくるような子だったの!うちはお父さんが猫アレルギーだから飼えないと言うとそれはそれは泣いて大変だったのよ!それにあの子は初めてのアルバイトのお給料で私にハンドバッグを買ってくれるような子なの!自分の欲しい物も買わずにね!!」
「健気な子じゃ!!」
洋平の祖父がウンウンと首を振る
「そんなあの子がお金目当てで、あなたを騙したですって?ちゃんちゃらおかしいわっっ!!私達があなたを歓迎したのも、あなたが億万長者だからと思っていたら大間違いですからね!娘が心から愛しているあなただからに決まっているでしょう!!あなたこそうちの家族に嘘をついたのを謝罪するべきですっっ!人の道理に外れています!!」
「おおっ!それはうちの孫が申し訳ない事をしたのっ!奥方の言う通りじゃ!」
今は祖父はくるみの母の啖呵を感激して見ている、荒元も松田もハラハラしてこの状況を見守っている
くるみの母は小柄でありながら、今の彼女は巨人のように見えた
鋭い目光と、まるで剣のように研ぎ澄まされた言葉が洋平めがけて放たれる
散々罵倒された後、満足した母に洋平がポツリと言った
「お母さんの言う通りです・・・嘘をついて・・・すいませんでした」
「謝る相手を間違えているんじゃありません?あなたがあの子のことを本当に理解しているなら、あなたを騙したりしない女だってわかるはずよ、もっともそれも分からない様な男だったら、逆にうちの娘を、嫁にやらないでよかったとせいせいしていますの!それではごきげんよう!次のくだらない一億を作るのをどうか楽しんでちょうだい!」
そう吐き捨てると母は踵を返し、コツコツとヒールの音を響かせて去って行った
洋平は目を大きく見開きしばらく言葉を失っていた
くるみ母の怒りはまるで雷を含んだ嵐の様で、彼の心臓は早鐘を打っていた
ワハハハッ「良い女じゃ!洋平!お前一体あのご婦人に何をしたんじゃ」
「・・・・僕の目を覚ましに来てくれたんだよ・・・」
と口にした瞬間、洋平の声には少し震えが混じっていたが、その中には確かな感謝の気持ちが込められていた
洋平の頬はわずかに赤く染まり、恥じらいの色が浮かんでいた
心の中では、くるみとの関係を修復したいという強い思いが渦巻いていたのに、臆病になっていた
くるみの母の言葉によって目が覚めた
そうだ!初めて彼女と会った時をひしひしと思い出した
なのに彼女にひどい行動を取った、今ここに洋平はもう一度向き合う決意が固まったことを感じていた
ガタンッ「僕がバカだったんだ!くるちゃんはそんな女じゃない!今すぐ彼女に謝らなきゃ!!」
「お~い!どこに行くんじゃ!」
「ジュニア!」
祖父の声を後に洋平は走り出していた
未来への希望に向かって
・:.。.・:.。.
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