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今を生きるのが辛い。
何を目的にわたしは生きているのだろう。
決められたサイクルの中わたしはただその流れに身を任せるだけ。
決まった時間に起きて栄養の偏る簡易な朝食を取り、サッと歯を磨いて着替え、そして負の気が溜まる交通機関を使い憂鬱な気分を持ち、会社にと向かう。
自身のデスクにつき今日のやる事を大まかに把握し整理していく。その過程で興味のない御局様の小言を淡々と聞かされ、朝からどっと疲れる。
業務が始まり、話の通じない顧客の対応。御局の小言処理。今日中に処理が不可な追加業務。上司の機嫌取り。
定時を越えても残る作業をこなして、自宅に着く頃には日をまたいでいる。ここからまた栄養の偏る夜食。そして汗だけ流しにシャワーをして眠りにつく。
こんなサイクルの中私は生きてる。若き日の夢ややりたい事は廃れ、今は趣味も何も無くただ歯車として使われるだけ……。使われて捨てられる運命を受け入れる事しかない。
あんなにハマってたゲームや好きだった本は埃をかぶってる。もう、手をつける気にもなれない。
ゴールのないマラソンなど、ただの拷問でしかないように、わたしの人生もゴールは無い。成しえたいこともない……いや、無くなったが正しいだろうか。
やる事なす事全てが空回り、無駄な努力に終わるこんな事態をわたしは受け入れきれなかった。だからキャパを超えたものはこうして捨てていき、気が付けばわたしには何も残されてない。
『なんのために生まれて何をして喜ぶ?
分からないまま終わるそんなのは嫌だ!』
どこかで聞いたことのあるフレーズがあるが、わたしは最後の一言『そんなのは嫌だ』の言葉はとうの昔に消えた。
生きる意味は自分で決めるものだが、わたしはその生きる意味を奪われたのだ。自己の否定を現代に叩きつけられ、先人の築いた『現代人はこうあるべき』なんていうレールの上を走らされる羽目になる。
他人と比べず過去の自分と比べろ。わたしが生きてて心に響いた言葉。わたし はそうありたかった。けど、大衆がつくりあげた『固定概念』によって、そんなものは簡単に崩された。けっきょく世の中が求めるのは第三者からの評価と結果。わたし個人の意見なんてものは邪魔な存在で、世の中はその個人の意見を消していく。力ある人物の考えが常に正しく、それに反すればそれは悪とみなされる。改善案も通らなければそれは戯言で終わる。
結局わたしはやりたい事をやれず、自分の声も誰かの耳に入ることはなく、ただただ時の流れに身をまかせて目的なく生涯を終える。そんな人生を送るんだろう…。
今日もそんな事を脳内で呟きながら帰路に着く。郵便ポストを開き書類を確認している時謎の封筒が自身のポストに入れられていることに気が付く。
部屋に戻り、いつもならダラダラと服を脱ぎ夜食を食べるが、この封筒の存在が普段のルーティンから逸れる要因となる。送り主は不明。しかし、送り先は確実に自分宛であること。不可解だが、疲弊しきったわたしには正常な判断なんて出来ない。本来こんな怪しいものは開けることなくシュレッダーにかけるべきものだが、疲れ果てたわたしは先の未来などに希望を持てぬ哀れな現代人。ゆえに、失うものがない。だから目の前の封筒がなんであろうと興味心が勝ってしまい、その封筒を開ける。
中身は一枚の紙が折りたたまれて入っていた。紙の内容はこうだ。
『生きることを辞めようとしている貴女にはこの案内状をプレゼントしましょう。
行きにくい世の中をもし、貴女の望む形に変えて生きていける。そんな券が渡されたなら貴女はきっと行使するでしょう。
この案内状はそんなことを可能とすることが出来る。しかしこれは試験的なもの。危険が伴うが、それでも貴女が望むなら私達は貴女が訪れるのを待ってます。
何もせず時を流して死を待つのなら……
【秋山 香織】貴女を私達はお待ちしてます。』
そう紙には書いてあった。案内状というものは同附されてないが、恐らく今読んだこの紙がその案内状としての役割も果たすのだろうか。なんにせよ、わたしはこの申し出をどうするべきなのだろう。
確かに今は生きる意味は見つけられてない。そしてそんな状態だからか、未来でも生きる意味を見つけられてないんだと思うこともある。けど、それは一時的なものかもしれない。時間が解決してくれる問題なのかもしれない。そう思う時だってある。
けど…だけど……わたしは『今』を変えたい。今を変えて明日も変えていきたい。こんな苦悩するなら変えてみてもいいのかもしれない。ならわたしのやることは………。
その瞬間突如手に持っていた紙が光を放ちその光の中に香織は包まれていく。そして、光が収束すると部屋にはあの紙だけが残され、紙を持っていた香織本人は消え去っていた。
「ここ…は……?」
光に包まれた香織は気が付くと見知らぬ部屋の中に立っていた。
その部屋は異質なもので、部屋の中心の机にどこかの町のジオラマが置かれており、そのジオラマ付近には香織のものと思われる貴重品と、謎のカードの山。そして自身の端末の他に誰が用意したか分からない端末が数台。
目の前の光景に困惑していると部屋の四隅に設置されたスピーカーから声が聞こえる。
『あー。あー。マイクチェックマイクチェック。
聞こえていたらどなたでも声を出してください。』
突然聞こえたその声にわたしは困惑し声を上げることはなく、ただうろたえていた。しかし、私以外の誰かが声を発したらしく声の主はそのまま淡々と説明を始める。
『どうやら私の声は聞こえてるようですので、このままお話を続けさせていただきますね。
まず、ここにいる皆様は少なくとも今の自分の環境に満足のいっていない方々だと思われます。
あー!隠さなくても結構ですよ!別に何ら恥ずかしいことでは無いですから。人間誰しも考える事です。【世界が自分を否定してくる】なんて被害妄想。』
……。声の主が言う事が今の自分に刺さり不覚にもイラッとしてしまう。
『そんな世界を変えたい。そう思ったからこんな怪しい封筒を開けて願ったんですから。ねぇ、皆様?まぁ、皆様にどんな事情があるかどうかは私の方で全て把握してます。
そして、各個人に合う世界を想像してもらうためにあなた方専用の部屋を一つ用意したのです。
今皆様の目の前にあるジオラマがあると思いますが、そのジオラマも各個人で違います。また、ジオラマの他にカードの山と身に覚えのない端末が数台あるはずですが、それらはこれから行う【創造】と【破壊】そして【あなた方の思想】を使う為の道具です。』
まだわたしはこの現状に脳が追いついていない。今からわたしは何をやらされるのか。それは、わたしが抱えていた『生きる意味』を求めることに繋がるのか。これから行われることは現実なのか。そんな疑問が思い浮かんでは消えてを繰り返す。
が、そんなわたし個人の困惑など進行する声の主は考慮せず淡々と説明を続ける。
『これから皆様にはこのジオラマを作る神様になってもらいます。あなた方の思うようにそのジオラマを改良していてください。
しかし、それがなんの意味があるのか?と疑問が浮かぶと思いますので、その疑問を解消しましょう。
今目の前にあるジオラマは現実世界に作用する不思議な不思議なジオラマです。一つの家を取れば現実世界でその家は消えます。建物を潰せば現実世界でも潰れます。
イメージしやすいのは街づくりシュミレーションゲームでしょう。ま、家を潰せば現実世界も消えて、人も消えていきます。軽率な行動が簡単に誰かの人生を潰せるんです。まるで神様みたいでしょ?
そして、そんな皆様の前にあるジオラマはあなた方のゆかりの地を完全再現したものです。つまりそれが意味するのはあなた方のゆかりの地はあなた方が『創造』して『破壊』を繰り返し望む形に変えていくってことです。』
声の主の言ってることが本当かどうかは定かではない。けど、この不可思議な現象を体験している手前それを否定すること難しく、妙に信憑性が生まれて目の前のジオラマに触れるのを躊躇してしまう。
『さて、ではジオラマの説明はこの辺にしましてそろそろカードと端末の説明をしましょう。
まず、カードの山ですが枚数は原則40枚で 皆さんがいじることはできません。出来ることは山札の一番上を1枚めくることだけ。また、中のカードはいくつか種類があり、『行動』『命令』『お助け』の三種が基本カードとなってます。行動カードは名の通りあなた方に行動をするように書かれたカードです。後に説明する命令カードとは似てますが全くの別物で、やるやらないの選択が可能です。
次に命令カード。こちらも名の通りで、書かれた行動を『必ず』遂行しないと行けません。出来ないという言葉は通用しないと思ってください。
最後にお助けカード。こちらも名の通り、あなた方をお助けしてくれるカードです。特徴としてはほか二種と比べ『カードを保持』『カードに対して使える』という点です。実は先の二つ正確に言えば命令カードは引いた時点で必ず遂行しないといけません。行動カードは保留という形でとって置けますが、いずれ消化する必要が生まれます。それに対して、お助けカードはどの場面に対しても使えるカードです。しかし、出る割合がかなり低いのでここぞと言う時に使用するといいでしょう。』
この声の主の説明を聞いて感じたのは主催者であろうこの声の主は今やろうとしてることを『ゲーム』としてしか認識してないということだ。
己が楽しむため、その過程で偶然被験者にもリターンが生まれたなら総意の上での行動となり、互いに罪悪感を感じなくなるだろう。むしろ主催側はこちらに不満を持たぬことによるリターンが大きいと考えてるに違いない。
私も自ら望んだとはいえ、これが主催側の思惑ならわたしは罠に嵌められたということだ。そう思うと無性にイラッとする。
『では、お次はそちらにある端末の説明ですね。これらも簡単にお話しましょう。
まず赤い端末は『あなた』を除く他の参加者のデータが乗ってます。また、そこから連絡もとれますので、時と場合によっては使う時が来るでしょう。
次に青い端末は『マップ』を見る為だけの端末です。自身の住む地域またはゆかりの地とはいえ、全てを把握してる訳では無いでしょうからその為のマップを使う端末です。こちらも多用するでしょう。
お次は緑の端末。こちらは『あなた』の周囲の人に関する連絡先や情報が乗ってる端末です。山札のカードを使用する際に並行して使うことになる端末でしょうから把握をお願いしますね?
最後に黒い端末ですが、こちらは私と直接会話出来る端末です。利点は行動、命令カードに対して何かしらのヒントを与えてくれるという点です。それを信じる信じないは勝手ですが。
しかし、ただ使用するでは多用される可能性があるためデメリットも存在します。それは『次回は山札のカードを二枚めくる』という点です。
これはリスク以外の他ではないでしょう。そのへんも考えて私に連絡をください。』
やはりゲームとして楽しんでる節がある。各々が抱える悩みを肴にして楽しんでるんだ。
『さて……。では最後にこの『神様ゲーム』の賞品と勝者の決め方をお話します。
賞品は皆様に送ったお手紙の通り、『望んだ世界』のプレゼントです。では、その勝利条件とは何か?それは、**『カード』**を最初にゼロにした方が勝者となります。なので、行動カードや命令カードなどのリスクがある行為は必ず取らないと行けません。望んだ世界を手に入れるためなら安いものですよね?
そうそう。皆様にお渡し忘れたので渡しておきますね。そのジオラマの世界を体験出る皆様の代わりとなる『駒』をね。』
その言葉のあと何も無い空間から突如ひとつの小さなコマが現れ机に転がる。
『その駒も駆使して勝利をめざしてください。世界に不満を抱えるものたちよ
それじゃああなた方の四苦八苦する姿を楽しむことにするよ』
そう言い残し放送は終わり、部屋には静寂が訪れる。私が望む世界のために現実世界を壊してまで行なうこのゲーム。
人間性なんてものは捨てないといけないんだ。この『神様ゲーム』の前には……。