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あれは暑い暑い夏の日の事だっただろうか。
私には生まれたばかりの妹がいた。私はこの妹を疎ましく感じていた。妹が産まれてきてからいつも私一番だった母が、突然私のことを構ってくれなくなった。テストで満点を取ってこようが、徒競走で一番になろうが、必ず「今は妹のお世話で忙しいの。また後で聞くからね。」と母はいつも言う。この「後でね」が現実になったことは一度もない。
今思えば、まだ赤子の時期は手がかかるし私の事も疎かになってしまうのは当然のことだと分かるのだが、あの頃の私は少々我儘な子供だったこともあり、いつも妹のことを邪険に扱っていた。
そして冒頭に至る。
その日はいつにも増して猛暑であった。私は学校のプール開きが終わり、家でいつものようにテレビゲームをして遊んでいた。そんな時に突然、妹が泣き出した。日頃妹の世話などまったくしてこなかった私は、どうしていいか分からず困ってしまった。生憎、母は仕事でいない。
慌てて妹を抱きあやそうにも、先程も言ったが妹の世話などした事もない少年が簡単に赤子をあやせる訳がない。
なぜ泣き止まないのか、母と同じ事をしているのにどうして泣き止んでくれないのか、うるさい、早く泣き止んでくれ…
気がついた時、妹は泣き止んでいた。
私はホッとした。だが、腕の中の妹を見て絶句してしまった。
死んでいるのだ。
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。私はただあやしていただけ、あやしていた……
そうだ、私は妹があまりにも泣き止まなかったのにイラつき、妹の口を手で塞いでしまったのだ。最初は苦しそうに泣いていた妹だったが、だんだん泣き声にも力が入らなくなっていき、静かに死んでいった。
意外にも私は冷静だったかのように思う。腕の中で妹が死んでいるのにだ。私はすぐにこの死体を処理しなければと思った。私が思いついたのは、家の庭にある井戸だった。
この井戸は水深がかなり深く、私はそこに妹を捨てた。
その後帰ってきた母に、「妹がいない!」と大袈裟に騒ぎ立てた。
母は「わかった。落ち着きなさい」と言うと、「今日はもう休みなさい」と私を自室に戻した。その後、何が起こったのかは私にはわからない。
次の日、「おはよう。ゆっくり休めた?」とまるで昨日のことなど何もなかった事のように話す両親がいた。
私が昨日のことを聞いても、「あなたは何も心配しなくていい」の一点張り。
その後母が仕事へ行き、家には私一人になった。
私は昨日の死体がどうなっているのか気になり、井戸へ向かい底を覗き込んだ。
死体は消えていたのだ。
一体何が起こっているのだ、昨日井戸へ捨てたはずの死体が消えている。
次の日もまた次の日も死体はない。普通の人間なら恐ろしく感じるだろうが、私は「なんて好都合な井戸なのだ」と考えた。何か消したい秘密ができた時、この井戸に投げ捨てれば消えてしまうのだ。なんて素敵な井戸なのだろうか。
その頃からだった、私が人を殺す度、あの井戸を利用するようになったのは。