テラーノベル
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朝。
教室のドアを開ける。
前までは、
一番に見るのは、
「いるかどうか」だった。
でも今は、
違う。
「……おはよ」
先に声が飛んできた。
窓側の席で、
いるま が、
もうこっちを見ていた。
「ああ、おはよ」
答える。
それだけで、
いるまは、
少しだけ嬉しそうに笑う。
その笑顔を見るのが、
最近、好きだった。
席に座る。
すると、
いるまが、
椅子ごと、
少しだけ近づいた。
コッ、
と小さな音。
「……」
「……なに」
「……別に」
そう言うくせに、
離れない。
肩が、
ほんの少しだけ近い。
触れてはいない。
でも、
前よりずっと近い。
「……いるま」
「……なに」
「近い」
そう言うと、
一瞬固まって、
それから、
「……だめ?」
って、
小さな声で言った。
反則だった。
そんな聞き方。
「……」
答えないでいると、
いるまが、
少しだけ不安そうな顔をする。
「……や、なら……戻る」
離れようとする。
その前に、
「……いい」
と言った。
その瞬間、
いるまが、
はっきりわかるくらい、
嬉しそうな顔をした。
「……ほんと」
「……ああ」
すると、
いるまは、
完全には触れないまま、
でも、
逃げない距離に落ち着いた。
授業中も、
そのまま。
ノートを書くとき、
ときどき、
腕が、
触れそうになる。
そのたびに、
いるまが、
少しだけ動きを止める。
でも、
離れない。
放課後。
「……帰ろ」
いるまが言う。
前より、
自然に。
「ああ」
立ち上がる。
そのとき、
いるまが、
制服の袖を、
ほんの少しだけ、
つまんだ。
「……」
「……どうした」
「……いや」
でも、
離さない。
「……一緒に帰るの」
少しだけ、
照れながら言う。
「……好き」
胸が、
一瞬止まった気がした。
「……そっか」
それしか言えなかったけど、
いるまは、
満足そうだった。
袖をつまんだまま、
歩き出す。
その距離は、
もう、
完全に、
「隣」だった。
帰り道。
夕焼け。
並んで歩く。
前と同じ道なのに、
全部違って見える。
「……なあ」
いるまが言う。
「ん?」
「……名前」
「?」
「……呼んで」
少しだけ、
緊張した声。
「……今」
「……」
今まで、
ちゃんと呼んでいなかったことに、
そのとき気づいた。
少しだけ、
恥ずかしくなる。
「……いるま」
呼ぶ。
その瞬間、
いるまの足が止まった。
「……」
振り向く。
顔が、
赤くなっていた。
「……もう一回」
「……いるま」
今度は、
さっきより自然に。
すると、
いるまが、
笑った。
隠しきれない笑顔。
「……好き」
小さな声。
「……名前、呼ばれるの」
そのまま、
いるまが、
少しだけ近づく。
肩が、
軽く触れた。
離れない。
「……もっと呼んで」
甘えるみたいに言う。
「……いるま」
「……うん」
「……いるま」
「……うん」
呼ぶたびに、
いるまが、
嬉しそうに笑う。
その顔は、
もう、
最初に出会った頃の、
寂しそうな顔じゃなかった。
夕焼けの中、
いるまが、
小さく言った。
「……俺さ」
「……隣、好き」
「……お前の隣」
その言葉に、
答えは一つだった。
「……俺もだよ」
その瞬間、
いるまが、
安心したみたいに、
肩を預けた。
完全に。
境界線は、
もう、
どこにもなかった。
朝の教室。
「……」
いるま は、
今日も当たり前みたいに隣にいた。
椅子を少し寄せて、
肩が触れそうな距離。
「……眠」
小さくつぶやく。
「昨日遅かったのか」
「……ちがう」
いるまが、こっちを見る。
「……安心してたら、寝れなかった」
「は?」
「……隣」
それだけ言って、
少しだけ笑う。
前より、
ずっと素直だった。
そのとき、
「え」
後ろから声がした。
振り向く。
そこにいたのは、
LAN だった。
「……お前ら」
じっと見る。
いるまが、
一瞬で姿勢を戻した。
椅子を離す。
「……なに」
平静を装う声。
でも、
さっきまで近かったのを、
LANは見ていた。
「……いや?」
LANがニヤッと笑う。
「ずいぶん距離近いなって」
「……別に」
いるまが目を逸らす。
耳が、
少し赤い。
「ふーん?」
LANが顔を近づける。
「いるまくん?」
「……うるさい」
「図星?」
「……違う」
即答。
でも、
説得力はなかった。
そのとき、
「おはよー」
明るい声。
教室に入ってきたのは、
すち と、
みこと 。
「あれ」
みことが止まる。
「なにこの空気」
「なんでもない」
いるまが言う。
でも、
すちが気づいた。
「あ」
じっと、
いるまの手を見る。
「……さっきまで、袖持ってた?」
「!!」
いるまが、
一気に手を引っ込めた。
「……持ってない」
「持ってたでしょ」
LANが笑う。
「見た見た」
「……見てない」
いるまが否定する。
でも、
顔が赤い。
すちが、
やさしく笑った。
「……そっか」
それ以上、
何も言わなかった。
でも、
全部わかってる顔だった。
そのとき、
「なになに?」
ひょこっと顔を出したのは、
こさめ 。
「なんの話ー?」
「いるまが」
LANが言いかける。
「言うな」
いるまが止める。
珍しく、
本気の声だった。
一瞬、
静かになる。
こさめが、
いるまを見る。
それから、
隣にいるこっちを見る。
そして、
にこっと笑った。
「……そっか」
それだけ言った。
「よかったね、いるま」
その言葉に、
いるまが固まる。
「……なにが」
小さな声。
こさめは、
答えなかった。
ただ、
嬉しそうに笑った。
そのあと。
授業中。
いるまが、
小さく、
袖を引いた。
「……なに」
小声で聞く。
「……」
いるまが、
少しだけ迷って、
「……バレてる」
って言った。
「……だな」
「……やだ」
そう言いながら、
でも、
手は離さない。
「……でも」
小さく続ける。
「……隣、やめない」
その声は、
はっきりしていた。
前みたいな、
怯えた声じゃない。
自分で選んだ声だった。
「……やめなくていい」
そう言うと、
いるまが、
少しだけ笑った。
安心したみたいに。
それから、
授業の間、
ずっと、
袖をつかんだままだった。
コメント
2件
…ふふ、笑 てぇてぇな^^