テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
不定期更新になりますが、どうぞ宜しくお願い致します。😇
(できるだけ2日に一度の更新を目指します)
1
◇甘い告白
「ムフフフゥ~ファ~」
すぐ隣にいるマリリン《まこと》から鼻息が聞こえた。
マリリンが話を始める時の癖なんだ。
だから私は聞く体勢に入った。
「僕ね、 姫苺《きい》 ちゃん……男の子のことが好きなんだ」
「はひふへほぉ~っ……ふぅ~ん」
鼻の中が痒くなり私はマリリンがいたので、鼻の穴に人差し指を
控えめに入れて痒い所に触れ、素早くそっと指を抜いた。
それから、家にあるチィッシュを取って指をぐりぐりして拭いた。
そしてそのあと、ポイっとそれをゴミ箱に捨てた。
で、小さな脳みそで考えた。
何で慎《まこと》はこんなことを言ってきたのだろうかと。
男の子のことが好き? そんならあたしだってたっくんのこと好きだしな~。
「あたしもだよ、たっくんのこと好き、やさしいから。
あぁ、マリリンのことも好き、いつも一緒におやつやごはん食べるしさぁ~。
なら、私と一緒だねマリリン。
あぁ……っ、あたしぃ、美佳ちゃんも好き、可愛いから」
「僕だって 姫苺 ちゃんや美佳ちゃんのこと嫌いじゃないよ?
けどたっくんのほうがずーっと好きなんだ。
僕は男の子が好きなんだってばぁ」
よく分かんなかったけど、私はこの日のマリリンの告白をずっと
忘れずにいたんだ。
今はあんまし分かんないけど、たぶん……いやきっと大きくなったらもっとよく
マリリンの言ったことが分かる日が来るかもしれないと思ったからさ。
ンと、私ってば小さい頃からむっちゃ利発だったんだなっ。 ナハハッ。
◇幼馴染
「おじゃましゅまぁ~す~」
「いったらっきまぁ~すっ♪」
慎は幼稚園へ迎えに来たじいさまと一緒に自分の家へと一旦帰宅するのだが、すぐさま
自分家を飛び出し、私の家へ来るのが常だった。
道を挟んで3軒隣に住むマリリンこと慎が大人のような挨拶を可愛い声で叫びながら
わたしん家《ち》の茶の間に上がり込み、一緒に遊んだり、一緒に食事するのがいつもの光景で、
私はマリリンときょうだいのように育った。
幼稚園の送迎は慎のじいさまがしてたんだけど、何せお年寄りで男じゃあマリリンの相手は
荷が重すぎたようで、自宅に帰ったらすぐに慎は我が家に入り浸っていた。
おそらく、母がマリリンの母親と話し合い、預かるという取り決めをしていたのだと思う。
それは母親同士が仲良かったこと、私の母が世話好きな性質だったこと、
そしてマリリンの母親が今でいうところのキャリアウーマンで忙しい人
だったせい、というのがあったからだと思う。
流石に中学生になると頻繁には来なくなったけど、それでもうちの母には
あまり気兼ねがないようで、私が母に頼まれて呼びに行くと、ごはん食べに
来ることはあったかな。
部活で帰りが遅い日などは、母に頼まれてわたしゃあ弁当の宅配
やっとりましたでぇ~。
私は久しぶりにその頃の慎の夢を見た。
夢の中の私たちはとーってもかわゆかった。
つくづく思う――。
私は、幸せな子供時代を過ごせた、数少ない幸運な人間のひとりだったのだと。
ところで―――
月に一度は実家に帰ってるんだけどマリリンが今は実家を出てるから
最近会ってないんだよね~。
奴は元気にしてんのかな?
まだ独身貴族を謳歌しているようだけど。
なんかっ、一時期ホストのバイトしてるって聞いたなっ。
新幹線等の部品を作ったりするエンジニアなのに、バイトなんかして
首にならないのかねぇ~。
たまに見るマリリンとの夢は大抵、マリリンの告白のシーンばかり。
これって、どいうこと?
懐かしくて甘酸っぱいマリリンのかわゆい声音を思い出す。
◇ ◇ ◇ ◇
「僕ね、 姫苺 ちゃん……男の子のことが好きなんだ」
ンでね、必ずセットで付いてくんのよぉ、自分の反応。
「~っ……ふぅ~ん」
このシーンばかり。
何かあるのだろうか?
◇それは突然に
そう、それは突然にやってきた。
私宛に届いた手紙。
友人知人から届くような感じではなく、まるでどこぞの団体や企業など
から届くような形状の封筒に、印字がちりばめられたそんな書簡だった。
厚さはそれこそペラっと1枚。
サラッと書かれていた。
「前略、突然の無礼をお許しください。
ここのところ気になっていることがあり、お手紙させていただきました。
最近ご主人と某女子社員25才が日常的に2人一緒に仕事に出掛けることが増えました。
これまでの会社のシステムや状況から見てもあきらかに変だと考えられます。
先日ご主人が出張に行かれた時にも彼女は一緒に随行していたようです。
老婆心ながら、男女の仲になってからでは、奥さまにとりましても
また彼ら自身にとりましても、いかがなものかという思いが日に日に募って
参りまして……。
突然のご連絡で、悪戯だとかただの嫉妬やお節介などと思われるかもしれませんので、
わたくしの申しあげていることが腑に落ちますよう、2人が仕事に出掛ける様子や
社屋での様子などをSDカードに落としています。
わたくしからのこのカードを有効にお使いいただけることを
節に願って……。善意の者より」
私は手紙がきたことは勿論のこと、更にはその内容にも驚かされた。
それで、その文言に背を押されるようにして、すぐさまそのSDカードをセットした。
凄かった。
何が凄いって撮影している画像の枚数の多さだった。
まぁ、内容そのものは大したことないと言えば言えなくもない、って
いう感じだったが。
2~3枚くらいなのだろうと思っていたからよけい。
実に20枚ほどあった。
どれもほとんど同じ場所のものがなく、何日にも亘ってちょこちょこ
撮りためてたのだろうことが伺えた。
内容は二人が揃って出掛けるところとか、歩いているシーンばかりで
男女の関係を如実に語っているものは幸いにと言っていいのか、なかった
のだけれども。
この日、今までの穏やかで幸福だった私の人生が一転した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!