「ワトソンくんっ!」
今日も日菜が声を掛けてきてくれた。
いつもの僕ならいつもどうり嬉しくなって、直ぐに日菜の方をむくだろう。
だが、今回ばかりはそうはいかなかった。
そう。
日菜に昨日衝撃的なことを言われたからだ。
[今日は人を殺したらダメだよ?]
嘘か誠か、日菜はそういった。
冗談で言ったのかは分からない。
本気で言ったのかも分からない。
怖かった。人殺しをしているのをバレていたのが。
僕は決心して日菜の方を向いた。
いつもどうりの僕を演じて…
「どうしたの?」
「昨日はありがとうね!楽しかった!」
「うん、僕も楽しかった。」
日菜はいつもどうりの笑顔で、いつもどうりの口調で、いつもどうりに話していた。
「日菜」
「んー?」
僕は、今日、日菜に全てを聞くことにした。
「放課後、時間ある?」
放課後。
「用って何?ワトソンくん」
「あのね、日菜」
日菜は何故呼び出されたのか検討が付いていない様子だった。
「昨日、なんで人殺ししちゃダメって言ったの?」
僕は心臓がバクバクした。
あぁ、僕に殺された人もこんな風にバクバクしてたのかな…
「…笑」
日菜は静かに笑っていた。
それがどうにも気色悪く、怖かった。
「ふふ、ワトソンくん、それはどういう意味かな?」
日菜は僕にそう問いた。
「僕の正体に気づいているんだね。」
「うわぁ、さっすがワトソンくんっ!私も右腕にだけあるねぇ!」
日菜はいつもの調子で笑っていた。
でも、目は笑っていなかった。
「どうして、そう思ったのかな?」
「気づいていなかったら、人を殺したらダメなんて普通の人は言わない。」
「冗談で言ったのかもよ?」
「冗談を言っているようには見えなかった。」
「当てずっぽうで言ったのかも」
「確信してる言い方だった。」
「…」
日菜は少しの間黙っていた。
「そっか…やっぱり言い逃れできないんだね」
「いつから気づいてたの?」
日菜は少しだけ、頬を赤らませて言った。
「ずぅっと前から♡」
ずっと前から…
僕が殺しを始めたのは確か半年前から
その時から気づいていたの言うのか?
日菜が転校してきたのは…
5ヶ月前…
「まさか!そんな時期から…」
「私ね、君に恋してるの。だから付き合ってるんだけどね。」
「テレビで貴方の事件を見たの。連続心臓抜き出し事件。最初見た時はなんて残虐な殺人魔なんだろうって思ったの。でもね、次第に私は君に助けてを求めてた。私、前の学校で虐められてたの。毎日毎日、トイレに居たら上から水をかけられる、授業中でも物を投げられる、挙句の果てにはクラス中の見世物にされて、先生も見て見ぬふりをしていた。虐めの主犯格の子が政治家の娘だったから…
だから私は、常日頃あなたに助けを求めてた。
「早く殺してくれ」って、私自身に向けたものなのか、いじめっ子達に向けたものなのか…私にも分からなかった。早く解放してくれって言うのが強かった。
そんな生活を続けてた日、私は貴方が人を殺しているところを見てしまったの。
あんな狭い路地裏なんか人なんて全く来ないし、声も届きにくいもんね。
でもね、私の隠れ家だったんだ。そこ。あの時私は、いじめっ子達に追われてた。やっとの事で撒いて、その隠れ家に身を隠していたの。
そしたら君が来た。
運命だと思ったの。やっと楽にして貰えるって。
それからずっとあなたに恋してて、たまらなくて、この学校に転校してきたの。
まさかこんな形で経緯がバレるとは思ってもみなかった。殺される間際に吐こうと思っていたのに…」
日菜の壮絶な過去と僕への尋常ではない愛を知ってしまった僕は、少しの間固まっていた。
殺しがバレていただけではなく、犯罪をしている所まで見られてしまっていた。
「君が、私のお父さんと会ってるのも知ってるよ。お父さん、優しかったでしょ?あの日からお父さん、何時もよりも笑顔が増えてきたんだよ。君のおかげだね!」
日菜はいつも見たく笑って見せた。
でも僕にはそれが作り笑いにしかみえなかった。
「僕に、どうして欲しいの」
単刀直入に聞いた。薄々感ずいていた事だ。
僕に何かをして欲しいのだ。日菜は。
でも、これまでの話を聞くと、だいたい分かっていた。
「話が早いね、流石ワトソンくん」
「私を殺して、精一杯の愛を込めて」
日菜は泣きそうな顔で言った。
これは僕が日菜を救うまでの物語。
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