誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第4話 〚澪の“変化”に気づく〛(海翔視点)
最初は、
本当に些細なことだった。
澪が、前より静かになったとか、
表情が落ち着いたとか、
そういう分かりやすい変化じゃない。
もっと、曖昧なもの。
――「何も起きてない感じ」。
それが、逆に引っかかった。
朝、教室に入ると、澪はもう席に座っていた。
窓の外を見ていて、呼吸も姿勢も、いつも通り。
でも。
(……なんか、違う)
俺が前の席に座って振り返っても、
澪は驚かない。
前なら、
一瞬だけでも、視線が揺れたり、
胸に手を当てる仕草をしたりしてた。
今日は、ない。
「おはよ」
「おはよう」
声も、普通。
笑い方も、普通。
だからこそ、
俺だけが気づいてる気がして、少し怖くなる。
授業中、
先生が黒板に向かって話している間、
俺は何度も澪の方を見てしまった。
具合が悪そうでもない。
集中してないわけでもない。
ただ——
“何かを待っていない”。
前の澪は、
いつもどこかで、次を警戒していた。
今は、
その「構え」が消えている。
昼休み、
えまたちの笑い声が教室に響く。
澪も一緒に笑っている。
無理している感じはしない。
でも、
笑い終わった後の目が、少し違った。
遠くを見ているようで、
でも、逃げてはいない。
(……決めた顔だ)
そう思った瞬間、
胸の奥がざわっとした。
放課後、
帰り支度をしていると、
澪が俺の横に立った。
距離は近い。
でも、触れない。
その“触れなさ”が、
前よりはっきりしている。
「なあ、澪」
「なに?」
「……いや」
聞きかけて、やめた。
澪は、
もう「守られるだけ」の場所にいない。
俺が踏み込めば、
壊れるわけじゃないけど、
越えちゃいけない線がある。
それを、
澪自身が作った気がした。
校舎を出る時、
澪は少し前を歩いていた。
背中は小さいのに、
前より遠く感じる。
(変わったな)
寂しさじゃない。
不安とも違う。
信じるしかない、って感覚。
澪は、
もう未来に引っ張られていない。
自分で選ぶ場所に、
ちゃんと立ってる。
だから俺も、
前みたいに守るんじゃなくて——
見守る。
それが、今の正解だと思った。
澪の変化は、
静かで、誰にも気づかれない。
でも俺は、
確かにそれを見てしまった。
そして分かってしまった。
この先、
何かが起きても。
澪は、
もう戻らない。






