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その異変に気づいたのは ほんと 些細なことだった
「なあ」
隣で口が動いてる
たぶん また くだらない話
なのに
「……え?」
うまく聞き取れなかった
「だからさ!」
少し大きな声
ああ 聞こえた
気のせいか、
たぶん 朝だからだ
寝ぼけてるだけ
そう思って 何も気にしなかった
⸻
それから 数日
授業中、 教室の後ろの席
先生が何か言ってる
みんなノートを取ってる
でも
音が遠い
水の中で聞いてるみたいに
ぼやけてる
「……?」
黒板を見る
周りを見る
みんな普通に聞こえてる顔してる
俺だけ?
変なの
昨日寝不足だったっけ、
頭がぼーっとしてるだけだ
そうやって 小さな違和感を
何回も 何回も
見ないふりした
⸻
放課後、
いつもみたいに
「帰るぞー!」
後ろから声が
……した
はずなのに、
気づいたら 肩を叩かれてた
「おい 無視すんなって!」
目の前で怒った顔
「呼んだんだけど! 3回!」
「……え?」
「ガチで聞こえてなかった?」
心臓が
どくん って鳴った
「ごめん ぼーっとしてた」
とっさに嘘ついた
だって
なんて言えばいいか分かんなかった
聞こえてない なんて
笑えないだろ
⸻
その日の帰り道、
隣で いつも通り喋ってる
口が動いてる
笑ってる
たぶん 楽しい話してる
なのに
音が
ところどころ 抜け落ちる
穴だらけの会話
「……なあ 聞いてる?」
「……うん」
ほんとは 半分も聞こえてない
でも
言えなかった
こいつの声が 聞こえなくなってるなんて
認めたくなかった
だって
もし
ほんとに 聞こえなくなったら
俺の世界
めちゃくちゃ静かになる
それって 思ってたより
ずっと
怖かった
⸻
ふと 名前を呼ばれた
「───」
音が 届かない
でも
口の形だけで 分かった
ああ
今
俺の名前 呼んだんだ
その瞬間、
胸の奥が ぎゅ っ て 苦しくなった
聞きたい
もう一回
ちゃんと
あの声で
呼んでほしい
どうか
どうか
まだ
消えないで
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