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病院の待合室は やけに白かった
蛍光灯の光が冷たくて
椅子も
壁も
匂いも
全部 無機質
落ち着かない
隣に暸が座ってる
家族の 代わりに 来てくれた
スマホいじりながら
『すぐ終わるって ただの疲れだろ』
たぶん そう言ってる
口の動きで分かる
聞こえづらいだけで
まだ 少しは聞こえる
でも
言葉の端が 欠けてる
ノイズ混じり
世界の解像度が落ちてるみたい
「名前呼ばれたら教えて」
そう言った
つもり、
自分の声も なんか遠い
水の中から喋ってるみたい
⸻
検査室
ヘッドホンをつけられて
「音が聞こえたらボタンを押してください」
そう説明された
…たぶん
ピー
小さな音
押す
ピー
押す
しばらく順調
でも、
途中から 無音
「……?」
今 鳴った?
鳴ってない?
分からない
汗がにじむ
耳の奥が しーんってしてる
怖い
お願い
鳴って
鳴ってよ
お願いだから
何か 音 出して
必死に待つのに
何も来ない
世界が 空っぽ
気づいたら
ボタン握る手が
震えてた
⸻
診察室
医者の口が動いてる
淡々と
事務的に
「検査結果ですが――」
「右耳の聴力がかなり低下しています」
「感音性難聴の可能性が高いですね」
「進行性のケースもあって――」
ところどころ 聞こえない
単語だけ刺さる
低下、 難聴、 治療、
保証できない
頭が真っ白
「……治るんですか」
自分の声、
情けないくらい震えてる
医者が少し困った顔をする
その表情だけで 答えが 分かった
「完全に元通りは…正直難しいかもしれません」
その瞬間
時間が止まったみたいだった
⸻
帰り道、
外は夕方
オレンジ色
人の声
車の音
風の音
全部
遠い
まるで、
世界に透明な膜が張られたみたい
隣であいつが 必死に喋ってる
『大丈夫だから』
『なんとかなるって』
『俺いるし』
たぶん そう言ってる
いつもより
ゆっくり
大きく
俺に伝わるように
必死に
必死に
その口が動いてる
その姿見てたら
胸がぐちゃぐちゃになった
やめて
そんな顔しないで
そんな優しくしないで
怖い
もし、
この声まで 聞こえなくなったら
俺
どうやって生きればいいの
立ち止まったら あいつが振り返る
『……どうした?』
口の形で分かる
言葉が出ない
代わりに ぎゅ って 制服の袖掴んだ
子供みたいに
離れたくなくて
あいつ
少しびっくりして
それから
優しく笑って
俺の頭 くしゃ って撫でた
そのとき
微かに
声が届いた
『大丈夫』
かすれた
小さな
でも
ちゃんと あいつの声
胸の奥が ぎゅ って
締め付けられる
お願い
消えないで
この声だけは
絶対
奪わないで